第六十三話
第六十三話です。
カイトがジェイコブ・ライジングという最高にイカした偽名を持っていたことを、すっかり忘れていました(白目)
眼鏡を取り、前髪をかいた素顔。
それは紛れもなく、元の世界でクラスメートだった獅子原さんであった。
僕は、あまりにも様変わりしてしまった彼女の髪色を見て、思わず口元を押さえる。
「髪染めたの獅子原さん!?」
「ちょっと待って。それは出会い頭で言うことじゃない」
「不良の色だよ!?」
「なんで保護者目線なの? んーと、この髪は……」
リーファから離れ、僕の元へ近づいてきた獅子原さんは、青色の髪留めを外す。
すると、彼女の髪が青色から元の黒色へと変わる。
「魔具で色を変えただけだよ」
「な、なるほど。なら……安心だね」
「……えっ、なにが? どこらへんが安心なの?」
髪の色を変えられる道具があるのか。
たしか、そういう魔法的なものを魔具っていうんだっけ?
高いらしいから興味を示さなかったけれど、結構便利なものなんだな。
そんなことを考えていると、気を取り直すように獅子原さんが咳ばらいをする。
「こほん……久しぶり、アリハラ君」
そんなことを考えていると、真面目な表情の獅子原さんが話しかけてくる。
彼女の言葉に頷きを返す。
「君も無事でよかった」
「うん。私は城に召喚されたから……ごめん、本当は私だけが召喚されるはずだったのに、君を巻き込んでしまって」
「あの状況じゃ、どうしようもなかったよ」
召喚陣に巻き込まれた時点で僕達はもう逃げられなかった。
そもそもいきなり魔法陣だなんて不可思議なものが現れたら、誰だって動揺してしまうはずだ。
だから、獅子原さんは悪くない。
僕の言葉に、彼女は顔を俯かせる。
「え、え、どうした?」
「いや、なんか……本当に無事でよかったなって。アリハラ君が死んじゃってたら、どうしようって……ずっと不安だったから」
「獅子原さん……」
「だから、今やっと会えて……安心した」
責任を感じてしまっていたんだろうなぁ。
彼女のせいではないとしても、僕が巻き込んで召喚されたことを気に病んでしまっていた。
微笑んだ彼女を慰めるように声をかけようとすると、なぜかムッとした顔のリーファが僕と獅子原さんの間に割って入ってきた。
「……」
「え、ここで無言の主張? どうした?」
「むむ、君はなんなの?」
そしてなぜか僕が部屋に入った時と同じ睨み合いが始まる。
これが勇者のコミュニケーションってやつなのか? 言葉を介さずとも互いのことが分かる……的な?
二人の傍で、訳も分からず途方に暮れていると、この場にいたもう一人―――ギルド長と思わしき女性が、咳ばらいをする。
「そろそろ話してもいいかしら?」
「え、ええ。こらリーファ、獅子原さんを睨むんじゃない」
「むん」
それは頷いているのかな?
しかめっ面のままこくりと頷いた彼女に首を傾げながら、用意されたテーブルの椅子に腰かける。
獅子原さんも、女性から椅子二つほど離れた椅子に腰を下ろす。
「私はフィルゲン王国、ギルドの長を務めているレリアと申します。貴方達の話はベルセから聞いています」
「私は、勇者のリーファ・ウルガル……です」
「彼女の従者のアリハラ・カイトと申します」
物静かな印象の薄い金色の髪の女性は、僕とリーファを交互に見て、どこか安堵したような様子を見せた。
「王国側も面倒な手順を踏んでいましたが、無事に貴方達がこの場に到着することができて良かったです」
「私達は、これから王国の方へ?」
「はい。極秘の計画ということなので、一旦ギルドで貴方達を迎えた後に、この場にいるシシハラ・チサトと共に城へと向かっていただくことになります」
現状、リーファが勇者だと言うことは秘密なので、その情報が露見しないように細心の注意を払わなければならない。
それは分かっているのだけど、少し方法がややこしいのがなぁ。
「隣国の勇者と、チサトと同じ世界からやってきた従者……正直、貴方達二人のことが気にはなりますが、長々と話すわけにはいきませんね。チサト、二人を城へ―――」
レリアさんが獅子原さんへ声をかけたその時、僕が入ってきた扉が強めにノックされる。
「来客中なのに……。入りなさい」
「し、失礼します!」
やや息を乱して入ってきたのは、僕を案内してくれた職員さんとは違う人であった。
「ぎ、ギルド長! 都市の近くに二頭のコカトリスが現れました!!」
「……今、動ける者はいないの?」
「そ、それがついさっきコカトリスを相手にできる人達は出払ってしまいまして……」
コカトリスが出たのか?
あんなに大きなモンスターが人の住む領域の近くに現れたというだけで一大事だ。
以前、コカトリスを見たことはあるが、あれはグリフォン並みに大きく、それでいて気性が荒そうなモンスターだった。
それと同じ個体が二体。
もし、人のいる場所に降り立ったら、惨事は免れない。
「王国騎士団に討伐に向かわせるにも時間がかかる……か。その間に民間人が襲われるかもしれない……」
顎に手を当てるレリアさん。
僕達の護衛をしてくれた騎士さん達に頼めないかと思ったが、彼らの立場を考えると迂闊に動くことはできないだろう。
思い悩むレリアを見た獅子原さんは、席から立ち上がる。
「私が行く」
「許可できません」
ぴしゃりと獅子原さんの言葉を即座に否定するレリアさん。
しかし、獅子原さんはそんな言葉に微塵も怯まない。
「いいや、行く。危険に晒されている人を見過ごすことなんてできない」
「……はぁぁ」
「私は勇者だから、ここで動かないって選択肢はない。貴女が止めても行く」
か、かっこいい……!
いや、そんなこと言っている場合じゃないけど、獅子原さんがしっかりと勇者と遜色のない行いをしていて、素直に感動した。
すると、僕の隣で無言で状況を見守っていたリーファも立ちあがる。
「私達も行く」
「リーファ!?」
「相手は二体の強力な魔物。もしものことがあったら危険だから、私とカイトも行く」
「……頑固さは、あちらも変わらないようですね」
レリアさんは、額を押さえたまま僕達を見る。
「何かあったら責任は私が取ります。コカトリスの討伐、当ギルドから依頼させていただきます」
「そうと決まったら、早速行こう」
「うん。カイトもボーっとしてないで」
「わ、分かった……」
とんとん拍子で状況が進んで、僕達がコカトリスと戦うことになってしまった。
一体、どういうことだ?
文句はないのだけど、なんだか状況についていけない。
「私の相棒がいる。下で待っているから、その人も連れていく。リーファはともかく……アリハラ君は戦えるの?」
職員からコカトリスの場所を聞き、ギルド内の階段を下りていると獅子原さんがそんなことを聞いてきた。
彼女の質問に、僕ではなく肩に跳び乗ってきたシフが代わりに返答してくれる。
「勿論だ! 我が主はテイマーなれど、常識から外れた戦う者であるからな! 戦闘力での心配は無用だ!!」
「常識から外れたは余計だけど、ちゃんと戦えるよ」
苦笑しながらそう返した僕に驚愕の表情を浮かべる獅子原さん。
彼女の視線の先は僕の肩にいるシフへと向けられている。
「えっ!? 猫が喋ってる!?」
「私はシェイプシフターだぁぁ!!」
もうお約束だなぁ。
まあ、喋らなければ可愛い黒猫だから、しょうがなくもある。
……まさかここまで来て、魔物と戦うだなんて思わなかったけれど、民間人が凶暴な魔物に襲われるかもしれないんだ。
それなら、リーファの勇者の従者として僕も人々を守るために戦うしかない。
髪の色が変わってたらそりゃ気になりますよね。
主人公の場合、明らかに感性がズレていますけども。




