第六十二話
第六十二話です。
地味に注目を集めながらフィルゲン王国のギルドへと案内された僕達。
こちらのギルドは僕達の知るそれとは違い、どこか海っぽい印象があるギルドだった。
……いや、海っぽいってのはよく考えると意味が分からないけど、なんというか、壁に錨とか浮き輪みたいなものが飾られているから、そう思ってしまっただけだ。
「リーファさん、カイトさん。こちらでギルド長と勇者様がお待ちです」
僕達の立場としては露骨に特別扱いされて怪しまれるわけにもいかないので、様付けとかはない。
僕としては変に敬称で呼ばれるのも慣れないので、こちらの方が気持ちが軽くてやりやすい。
「……ギルドか」
基本的な構造はそこまで変わりはない。
冒険者がいて、受付の職員さんがいて、素材の受け取り場所がある。
しかし、そこにいる人々は知らない人ばかりで、ちょっとばかし肩身が狭い。
「行こ、カイト」
「……そうだね」
リーファに促され、職員さんについていく。
しかし、その前にギルドの屋内にいる一人の冒険者に呼び止められる。
「おう、あんた見ない顔だがどこのもんだ?」
僕より頭一つ分は大きい男の言葉に、僕はできるだけ言葉を選びながら返答する。
「え? ええ、僕はヘンディル王国のギルドに所属している者です」
「ん? 同業者だったのか、てっきりまた報奨金目当ての道楽野郎かと思ったぜ。はっはっはっ」
「報奨金目当て……?」
なんの話だろうか?
ギルドでなにかしらの依頼でもやっているのか?
首を傾げる僕に、男は珍しいものを見る目をするが、すぐに得心がいったのか頭に手を当てる。
「お、すまねぇな。お前さんは隣国の奴だからこっちのことをあまり知らねぇんだな」
「は、はぁ?」
「最近、この王国じゃあ、ちょっとばかしの騒ぎがあってな」
「騒ぎ?」
首を傾げる僕に、男は続けて言葉を口にする。
「この王国は、勇者様と一緒にこの世界にやってきたっていう、アリハラ・カイトってやつを探していたんだ」
「……」
……思い出した。
思い出してしまった……!!
そうだよ、フィルゲン王国には僕の偽物が続出していたんだった……!
だから、ここまでの道中でめっちゃ視線を集めていたわけだよ!!
「そ、そぉなんですかぁ……」
「おう、あっちを見てみろ」
だらだらと冷や汗をかいている僕の肩に気安げに手を置いた男は、ギルド内を指さす。
その先には、コップ片手に黄昏ている痩身の男がいる。
「あいつは、勇者様の従者になるためにアリハラ・カイトの本物を探す催しに参加したが、ものの見事に撃退されちまったんだよ。その時の衝撃がまだ抜けきらなくてなぁ、ハッハッハ」
「へ、へぇ」
「一時は大変だったんだぜ。もうそこらじゅうにアリハラ・カイトを名乗る奴が現れまくってな。本人が見つかったって話だが、今でも街で見かけるくらいには、話が盛り上がっていたな」
きっと僕の声はこれ以上に無く上擦っているはずだ。
だって、なんで僕の本物を探す催しが行われているんですかね……?
「しかし、そいつら全員、勇者様に嘘見破られて追い出されちまったんだ」
「け、結構、強気な方だったんですね」
「すごかったらしいぜ? 言の刃鋭し、黒髪の美人勇者ってなぁ。そりゃ、嘘ついてまで会いに行こうとするわな」
僕の偽物が本物とされることがなかったことを喜ぶべきか、獅子原さんがものすごい苦労していたことに申し訳ない気持ちになるか。
正直、僕としてはもうヘンディル王国に帰りたくなってしまった。
なんとも言えない僕の顔をまじまじと見た男は不思議そうな顔をする。
「おっとお前さん、よく見ればアリハラ・カイトにそっくりだな。もう本人は見つかったって話だが、あと少し早けりゃ本物になれてたかもしれねぇな」
「はは、それは残念です。えぇ、本当に残念です」
本物になれるとは?
僕以外の誰かが僕に成り代わっていたかもしれないのかな?
なにそれ、普通に怖いんですけど。
「申し訳ありません! ガロンさん!! 急ぎなので、話は後にしてもらってもよろしいでしょうかッ!!」
「お、おう……」
立ち止まっている僕に気付いたのか、ギルドの職員さんが間に割って入ってくる。
「それと、また都市近郊にモンスターが出てきましたので、そちらの対処お願いします!!」
「またかよ。今日、何回目だ? いくらなんでも出すぎじゃねぇか? いくらなんでも手が足りねぇぞ?」
「なので、貴方にお願いしているんですっ!」
「お、おう」
鬼気迫った様子の職員さんに気圧されながらも、ガロンさんと呼ばれた男は僕へと振り返り、頬を掻いた。
「呼び止めて悪かったな。機会があったらあとで話をしようや」
「え、ええ」
「またな。……さーて、お仕事、お仕事」
ガロンさんに愛想笑いを返しながら、僕は再び職員さんについていく。
リーファは僕が立ち止まったことを知らずに先へ行ってしまったのか、既に前にはいない。
後ろから僕の肩に跳び乗ってきたシフは、微妙な表情を向けてくる。
「カイト、なんといってよいのやら……」
「フッ、フィルゲン王国、想像していた以上にヘビィな場所だぜ……」
「現実を見ろ。目が虚ろだぞ」
自分の名を騙る偽物が大量生産されていたら、現実逃避もしたくもなるわ。
肩を落とす僕に、職員さんがいたたまれないような表情で、こちらへ振り向く。
「申し訳ありません……」
「いえ、いいんです。それより……僕のことはどれくらいここに広まっているんですか?」
「少なくとも、王都に住むほとんどの人々が貴方のお名前を知っております」
「あばぁ……」
な、なんてことだ。
これじゃ迂闊に名前を名乗れないな。
下手すりゃ僕の偽物だと思われてしまう。
……いや、なんで本物なのに偽物扱いされるの?
「ここにいる間は、カイトとだけ名乗ることにします」
「その方がいいでしょう」
ここに到着するなり先が思いやられるが、この程度でへこたれていられない。
僕はリーファの従者としてここに来たんだ。
自分の役割くらいはしっかりとこなしていかねば。
……そういえば、ここの人は獅子原さんのことについて何か知っているのだろうか?
「獅子原さん……この国の勇者はギルドに入ったと聞いているけど、表向きではどうなんですか?」
「そうですね。一応身分を隠して活動なさっておりますので、あまり目立たないようにしていますね」
リーファと僕とはちょっと違うのかな?
まあ、獅子原さんはこの国の人に顔を知られているみたいだし、あまり派手に動けないのだろう。
「ギルドでも一部の者しか彼女の正体を知りませんので、こちらとしては彼女の一挙一動にもうハラハラさせられっぱなしですよ」
「そうなんですか……」
「貴方が来られると聞いて、喜んでいましたよ」
喜ぶ、か。
同じ世界にいた者同士、僕としても色々と話したいこともあるけれど、とりあえずは互いに無事に再会できることを喜ばなくちゃな。
「カイトと同じ世界の勇者。ううむ、会うのが楽しみだな」
「キュ」
ライムとシフは、獅子原さんとの邂逅を楽しみにしているようだ。
すると、前を歩いていた職員さんが両開きの扉の前で立ち止まる。
「リーファさんは既に入っております。カイトさんも」
「分かりました」
ドアノブに手をかけ、扉を開く。
ゆっくりと、できるだけ音を立てないように扉を開きながら、恐る恐る中を伺ってみる。その時、僕の視界に飛び込んできた光景は、予想を超えたものであった。
「むー」
「うー」
「あらあら……」
紺に近い青色の髪の少女と、リーファが握手をしながら睨み合っている。
そして、そんな二人を困ったような微笑みを浮かべながら、眺めている女性。
二人がこちらに気付き、視線を向けてくる前にバタンと扉を閉めた僕は、目元を押さえながら背後の職員さんへと振り返る。
「すみません。部屋を間違えたようです」
「お、お気持ちは分かりますが、間違っていません……」
「……ですよね。知ってました。……はぁぁぁぁぁ……」
「カイト、腹を括れ。私も括る」
リーファよ、なぜに数分目を離しただけであんなよく分からない混沌とした状況を作り出せるんだ。
君から目を離してしまった僕が悪かったのだろうか?
この後一か月分くらいのため息をついて、改めて気持ちを落ち着ける。
今一度、覚悟を決めた僕は、再びドアノブを回し、部屋の中へと足を踏み入れる。
「失礼します……」
そう口にすると、リーファを含めた三人の視線が僕へと集まる。
その中の一人―――紺色の髪の少女が、僕を見て驚いたような表情を浮かべ、やや躊躇しながら片手を上げてくる。
「や、やっほ。アリハラ君」
「……?」
「……あ、ごめん。分からないかな?」
前髪で目元を隠し、さらにメガネまでをかけているせいか誰か全く分からない。
しかし、その適当さと妙なフレンドリーさを感じさせる気軽な挨拶には、覚えがある。
まさか、と思ったその時、瓶底のような地味なメガネを外し、前髪をかき分けた。
「え、ええ!? し、獅子原さん!?」
「! うん……うん。私だよ、久しぶり、アリハラ君。ようやく……会えたね」
露わになったその素顔———獅子原千里本人の姿を見て、僕は思わず驚きの声をあげてしまうのだった。
異世界人同士の再会。
それによりリーファのジェラシーが炸裂する……!
少し忙しくなってきましたので、更新の方を変更いたします。
毎日更新から、週に4~5話更新へ。
大体、月曜から金曜までを目途としております。




