第六十四話
第六十四話です。
獅子原さんと共にコカトリスが目撃されたという街外れの森へと向かった僕達。
メンバーは、僕とリーファ、獅子原さんと彼女のコンビを組んでいるらしい僕より一つか二つほど年上の女性であった。
「うぅ、安定した職業のメイドになれたのに、なんでまた冒険者になっているんでしょうか、私」
「メル。そろそろ諦めて」
「冒険者経験があるって理由で、チサトさんのお目付け役になってしまった上に、今度は別の国の勇者様と一緒にコカトリス退治ですよ!? 愚痴も言いたくなりますよ!?」
名前はメルさんと言って、本来は城のメイドとして獅子原さんに付き従っていた人で、元は冒険者をやっていたらしく、腕も立つと言うことで獅子原さんの仮の従者としてコンビを組んでいるとのこと。
「うぅぅ、ようやく汗臭い仕事から華麗なメイドに転職できたのに、できたのにぃ……」
……うん、まあ色々と苦労している人なのは分かった。
周囲に注意を払いながら、目的地近くにまで到着すると、ふと思い出したように獅子原さんはこちらへと振り返った。
「アリハラ君、リーファ、私のことはチサトって呼んで」
「え? なんでかな?」
「ギルドではチサトって名前で登録してるから」
「……分かった。チサト、さん?」
「さん付けもいらない。同い年だし」
なんとなく下の名前で呼ぶことに抵抗がある。
いや、悪い意味ではなく、照れくさいという意味でだけど。
「なら、私もリーファでいいよ。チサト」
「うん。改めてよろしくね。リーファ」
リーファは早くも順応してる。
時折、彼女の自然体なところが羨ましくなるな。
でもそういう事情があるなら、僕の方も呼び方を変えてもらうか。
「僕もカイトでいいよ。というより、ここではこっちの方が都合がいいと思うし」
「あー、うん。大体分かった。えーと、カイト君?」
こっちでは下の名前で呼ばれることが多いので、しっくりくるな。
とりあえず互いの呼び名を決めたところで、コカトリスが目撃されたという場所へ到着する。
「コカトリスはここらへんで目撃されたらしい」
「……二頭分の足跡があるね。まだ近くにいる」
地面の足跡に手を添えたリーファの言葉に獅子原さ――チサトが頷く。
「シフ、魔物の気配を感じるか?」
「うむ。近くにはいるが、正確な場所は分からんな。空を飛んでいるかもしれん」
くんくんと鼻を動かし周囲を見回しているシフ。
そんな彼と会話をしていると、チサトとメルさんが二人してこちらを見ていることに気付く。
「え? な、なにか?」
「喋るモンスターって初めて見た……本当に」
「私もです。というより、ヘンディルの勇者の従者はテイマーさんなんですね」
どうやらチサトはシフに興味津々なようだ。
そして、リーファはなぜか誇らしげな笑みを浮かべている。
「頼れる相棒。ご飯作ってくれる」
「……カイト君、この子に餌付けしてるの?」
思わずシフと共に頭を抱えてしまう。
その後、コカトリスを探すべく森の方へと足を踏み入れる。
都市近くにある森だからか、モンスターの気配はほとんどない。
「———カイト君は、召喚された時はどうしていたの?」
周囲を警戒しながら森の中を進んでいると、チサトがそんなことを聞いてきた。
「ある遺跡の中に飛ばされたんだよ。その中でシフと、今腰の水筒にいるライムと出会って……まあ、色々あって今に至るって感じ」
「遺跡の中って……」
「普通の遺跡だよ。なんの変哲のない、ありふれた遺跡」
オロチのことは隠しておこう。
これ以上、彼女にいらぬ罪悪感を抱かせる必要はない。
しかし、チサトは納得がいかないような表情で僕を見ている。
「カイト君。本当のことを言って」
「本当のことって……何もなかったよ?」
「嘘。そこで、何があったの? 私のことは気遣わなくてもいい」
咄嗟にシフを見るが、首を横に振られてしまう。
これは、話すしかないか。どうやら彼女には隠し事はできないみたいだ。
そのまま遺跡で起こったことを、簡単にではあるが説明する。
遺跡で目覚めたこと。
シフとライムと出会って使い魔契約したこと。
そして―――あの恐ろしい怪物、オロチに襲われ、死にかけたこと。
それを聞いていたチサトは、前を向いたまま無言のまま口を閉ざしていた。
「本当に、大変だったんだね」
「まぁ、そうだね。あそこで今お世話になっている冒険者の人が助けてくれなかったら、あの時死んでいたかもしれない」
「いや、確実に死んでいたぞ。全身の筋肉がズタズタで骨がバキバキに折れてたからな」
「シフ」
「……あっ、す、すまない……」
より思いつめてしまうチサトを見て、シフを嗜める。
しかし、具体的にどれくらいやばかったのか分からなかったけど、今聞くとよく生きてたな僕。
ニトさんがいなければ本当に危なかった。
「オロチ……よくあんな魔物から逃げ切りましたね……」
「ご存知でしたか?」
「ええ、勿論です。あれほど強力な魔物はそうそういませんから。生息域と現存が確認されている数少ない竜種で、一定の領域から外に出ようとしない特級危険種。迂闊に遺跡に入り込もうならば、例外なく外敵を食い殺すような化け物です」
メルさんは知っていたようだ。
やはり、あの蛇の怪物はそれだけ凄かったということなのだろう。
「でも、後方支援向きのテイマーなのに、すごいですね……。よほど運がよかったというべきでしょうか……」
「「え?」」
「……え?」
リーファと共に思わず惚けた声を出してしまったが、そういえばテイマーは後方支援が主だったな。
ずっと前で戦っていたから忘れていたぜ。
僕達の反応を不審に思ったのか、メルさんは怪訝な表情を浮かべている。
微妙な空気が僕達の間に流れる。
その時、シフが何かに反応するように頭を上げ、尻尾をぴんと立たせた。
「———! きた!」
「ん?」
「コカトリスだ!!」
瞬間、風を切る音と共に僕達の頭上に一つの影が現れた。
そして次に聞こえたのは、鶏の声を悍ましいものへ変化させたような雄たけびと大きな翼をはためかす音。
それと同時に頭上の木の枝や幹を破壊しながら、僕達の前に落下するように降り立った巨大な怪鳥———コカトリスは、僕達を威嚇するように、再び雄たけびを上げた。
「あっちから来るとは好都合だね……! メル!」
「はいはい、私が気を引きますよ……」
レイピアに似た剣を引き抜いたメルさん。
それに合わせて、僕とリーファも意識を戦闘へと切り替える。
「カイト君は、私と一緒に援———」
「行くぞォ、リーファ!!」
「うん!」
「え!?」
帽子に変身したシフを被り、棍棒へと変形させたライムを握りしめ、リーファと共にコカトリスへと向かっていく。
以前までは勝てないとさえ思えた相手だが、今となっては違う。
シフに施された肉体強化に身を任せ、火炎付与が施され炎に包まれた棍棒を振り上げコカトリスの顎をかちあげる。
「グげぇぇ!」
「暴れさせないよ。影縛り」
そこでやや遅れてやってきたリーファが、影を伸ばしてコカトリスの身体を拘束する。
―――リーファが影で動きを縛り、僕が力の限りにぶん殴る。
単純だけど、これ以上に無くシンプルで有効な作戦だ!
「リーファ、そのまま押さえてくれ!」
「むんっ」
その相槌まだ続いてたの!?
リーファの返事に驚きながら、怯んだコカトリスに棍棒から籠手へと変形させたライムで首の部分へと掴みかかる。
「ライム! シフ!」
「キュ!」
「ま、待て、カイト、何をしようと―――」
籠手からクモの巣のようにいくつものロープが伸び、コカトリスの首と胴体を固定する。
それと合わせてシフの肉体強化が全身へと施される。
その腕力に任せ、コカトリスの首をがっちりと固定し、そのまま持ち上げ―――、
「対コカトリス式ブレーンバスターじゃぁぁ!!」
「カイトォォ!?」
「「えええ!?」」
弧を描くように振り回したコカトリスを後ろの地面へと叩きつける。
地面が陥没し、苦悶の声を上げるコカトリスだが、その目はまだ戦意を喪失していない。
……! このまま追い払えば、よかったんだけどそううまくはいかないか!
「……メ、メル。テイマーってああいうのなの?」
「い、いえ、違います。で、でも、テイマーというより彼自身がモンスターみたいなんですけど……。やはり、異世界の人っておかしいのでしょうか……」
「な、なんで私を見るの? 違うよ? 私はおかしくないからね?」
後ろで呆然とした様子の二人がいるけど今は気にしない。
今はさっさと一頭を始末して、あともう一頭をあぶりだす!!
リック達との修行を得て、いい意味でも悪い意味でも常識囚われなくなった主人公でした。




