閑話 暴虐の始動
閑話を入れる位置間違えたかな、と思いながら更新。
閑話 暴虐の始動 です。
ニーア視点となります。
カイト君とリーファにちょっかいをかけて正解だった。
カイト君は、自分の力で戦いながら使い魔たちとの連携によりその戦闘力を、瞬間的に飛躍させるタイプの攻撃特化型のテイマー。
リーファは、影を用いた多種多様の妨害、拘束、特殊な転移を可能とするトリッキーなタイプの戦士。
それに加えて、カイト君の魔力を受け取ることにより、転化も可能にしており、その戦闘力は素の私すらも凌駕する力を備えている。
「あぁー! カイト君、連れてきたかったなぁー!」
純魔の魔力。
あれは本当に惜しい。
一回彼の血を舐めたけれど、それに内包された僅かな魔力は凄じい力を有していた。
取り込めば取り込むほど力を得られるが、その分我を失う可能性の高いリスクのあるもの。
それをみすみす逃した私は、思わずそう叫んでしまう。
「うるさい黙れ、このカス」
「痛い!?」
「ウォン!」
「ぐふ!?」
同僚の魔王軍幹部に思いっきり背中を蹴られ地面へと突っ伏す。
そしてその上に、精霊のハクロが飛び乗り、一回ジャンプしてから飛びのく。
私はたまらず起き上がり、背中を蹴った同僚を睨みつける。
「な、なにするのさ! イリス!!」
「ニーア・ウルガル。貴様は私情で軍の所有物である魔物を連れ、そのほとんどを失っておめおめ逃げ帰ってきた、負け犬だ。その責任を取らせるまでは、貴様はゴミムシだ」
「そ、そこまで言う……?」
冷たい目をしたエルフの女性、イリスは蔑むような眼で私を見下ろしまま、指を突き付けてくる。
た、たしかに私情で軍を動かしたのは悪いと思っているけど、いくらなんでもこの扱いは酷くない?
「いや! だって、私のもたらした情報って結構有益じゃない!? 私の妹の従者が異世界からの人間だってことが判明したって」
「たかがテイマーだろうが」
「いやいやいや、自分から攻撃してくるテイマーだよ! むしろ使い魔を装備して襲い掛かってくるんだよ!? すっごいよね!!」
「死ね」
「脈絡もない純粋な罵倒はやめてよ!?」
すっごい虚ろな目で放たれる言葉の切れ味は、容赦なく私のメンタルを切り刻む。
美男美女が多いエルフ。
イリスも例に漏れず美しい容姿をしているが、金髪の髪の隙間から見える生気を感じない目は、他者を寄せ付けないほどに淀んでいる。
服装も地味な村娘みたいな服の上に、野暮ったいローブって感じだし勿体ない。
着飾れば私並みに可愛いと思う。
……いや、私には一歩及ばないな、うん。
「……」
「痛い!? なんで殴るの!?」
「今、失礼なこと考えただろ」
顔を顰めたイリスが、私の頭にげんこつを叩きつけてくる。
それに涙目になっていると、なぜか彼女の傍らで私を見下ろしているハクロは、蔑むように口の端を歪めている。
「貴様はな、人が苦労して苦労して、時には幹部のおバカ共に無茶ぶりされた作戦のために奔走した私に、また無駄な仕事をさせたんだぞ?」
「えーと、それは、ごめんね? いなくなったモンスターの補充はちゃんとやるから……」
失った兵力は、私がしっかりと補うつもりだ。
まあ、正直、イリスが下手に仕事ができて責任感があるから、他の幹部達に仕事を丸投げされているのは知っているから申し訳ない気持ちはある。
気持ちだけだけど。
「はぁ、もういい。ハクロに貴様を見張らせておくからな」
「ワフ」
こくりと頷くハクロ。
こいつ、私に隷属されている癖になぜこうもイリスからの好感度が高いんだ。
うっかり紹介してしまったせいか?
「あぁ、お前だけが私の味方だ。肝心の魔王様はほとんど姿を現さないし、なんで私だけこんな苦労させられるんだろうか……」
「ワォン」
「ああ、ああ、心配するな。私は大丈夫だ」
わしゃわしゃと、ハクロを撫でながらハクロにそう返事をしたイリス。
彼女は、立ち上がった私へと振り返る。
「次に行う作戦は理解しているな」
「大まかには、詳しい内容はまだだね」
近いうちに行うであろう初めての表立っての魔王軍としての活動。
その内容を、少し前から聞かされていた私が、イリスに頷く。
「三つの王国に“アレ”をけしかける。その中の一つをお前が担当しろ」
「分かった。他の二体は?」
「デウスとプレガスが担当する」
デウス、と聞いて私は露骨に顔を歪める。
プレガスは問題ない。
寡黙な猫の獣人で掴みどころのない変人ってだけだから。
「デウスぅ? あの筋肉達磨がくんの? あいつ暑苦しいから嫌いなんだよね。図体デカいくせに姑息だし」
「私も奴は嫌いだが、お前のことも嫌いだ」
「何気ない一言って、すっごい傷つくよね……」
本当にショックだ。
リーファに無視された時くらいにショックだ。
そんな私に、イリスは感情の籠ってない声色で言葉を発する。
「私以外の幹部、皆死ねばいいと思ってる」
「それは私でもどうかと思うよ!?」
さすがにここまで言われると、過剰に反応せざるを得ない。
「これで魔王様も私に仕事放り投げてきたら、魔王様も死ねばいい」
「大丈夫!? 少し休む!?」
目が虚ろだよ!? 真っ黒だよ!?
敬うべき存在である魔王ですらも蔑む精神状態が恐ろしすぎる。
いや、私達にとっては魔王ってただ上にいる上司って認識だし、それほど交流もなければ強いってことだけ理解しているようなもんだし。
「すまない、若干取り乱した」
「若干……?」
「話を戻すぞ。……作戦は別行動だ。お前はお前の仕事をして、勇者なり適当な強者を引っ張り出せればそれでいい。あわよくば、再起不能にしておけ」
「……なら、やることはいつもと変わらないってわけね」
戦いに、戦いに、戦い。
それが私の中に眠る魔物の力が求める衝動。
私は常にそれに従って戦っている。
「さーて、ヘンディル王国は襲撃する場所じゃないけど、君達はどんな反応をするのかなぁ。リーファ、カイト君」
この騒動は、魔王軍として初めての表立っての行動となるだろう。
今の今まで、襲撃はないと高をくくっていた王国のやつらの鼻を明かすのに十分なほどの事件となる。
その時、君達はどのようなことを思い、そして行動するのだろうか。
私は、それがとても、とてもとても楽しみでならない。
死んだ魚の目エルフのイリスさん。
基本的に自分以外の幹部全員死ねって思っている。




