第四十四話
第四十四話です。
大量の草を刈りに刈り取りまくった僕達。
それはこんもりと刈り取った草を積み上げた僕とライラは、依頼人のお婆さんから報酬をいただいていた。
「ライラちゃん、いつもありがとうねぇ。あぁ、これ畑でとれたディコン、持っていくといい」
「え、いいよ、悪いよ!」
「いつもこんなババァの依頼を受けてくれる感謝の印さ。メルクちゃんに料理してもらいな」
メルクちゃん……? あっ、メルクさんのことか。
依頼人のお婆さんがライラに白い野菜のようなものを渡しているところを、少し離れたところで見守っていると、ふとお婆さんの視線がこちらへ向いた。
「はい、これをどうぞ」
「え? あ、ありがとうございます」
お婆さんが渡してきたのは、干し魚であった。
あまり大きくはなく、おつまみとかに食べれそうなものだ。
「そこの猫ちゃんにあげるといいさ」
「むっ、私は猫ではない! シェイプシフターだ!」
頑なに猫扱いを受けたくないシフが、ぴょーんとその場で跳ねながら自己主張してくる。
お婆さんは、そんなシフに驚きながらもにっこりと温和な笑みを浮かべる。
「おお、そうかい? なら、はいどうぞ」
「それでも渡してくるのか……!? むぐぐ、年の功とは恐ろしいもにょだな……!」
差し出された干し魚をもぐもぐしながら、戦慄しているシフにほっこり。
魔物なので基本なんでも食べれるシフは、本物の猫のように食べさせるものには気を付けなくてもいい。
……猫には、食べさせちゃいけない野菜がたくさんあるからね……。
そんなこんなで依頼を完遂し、報酬と野菜をいただいた僕とライラは、宿へ戻るために茜色に染まった帰り道を歩いていく。
「今日みたいな依頼はちょっと初めてかもしれない」
「そうなの? まー、カイト君達は最初から戦闘系の依頼を受けてたからね」
「犬探しの依頼はしたことはあったが、カイトに動物が寄ってこないせいで色々と苦労したからな」
この世界でも僕は動物に避けられているのは、まあまあショックだった。
「避けられているだけで、嫌われている訳じゃないから。もう、それが分かっただけで僕はいいんだ」
「そ、そう。そんな満ち足りたような顔をするくらい嬉しいんだね」
「影ながら見守るのも乙なものだよ」
「ちょっと待って、どことなく危ない響きがあるよ!?」
邪な想いは微塵もない。
なので、僕に恥ずべきことはない。
「冒険者は、人と関わる仕事でもあるからね。こういう依頼を受けていると自然と見知った人たちが増えていくんだ」
「なんだか、いいな。そういうの……」
こう、自分の場所を作っていくとかそんな感じで。
ちょっと憧れる。
「カイト君とリーファもやってみたら?」
「僕達は……いや、そうだね。今度、リーファに聞いてみるよ」
もしかしたら渋るかもしれないけど。
そのまま他愛のない雑談を交わしながら、露店が並ぶ通りを歩いていくと、ふと立ち止まったライラが僕達から離れた。
「ライラ?」
「すいませーん。これ五つくださーい」
「はいよー」
なにやら香ばしい匂いの香る屋台で何かを買っているようだ。
とてとてとこちらに戻ってきた彼女は、抱えた紙袋から湯気が立ち上る食べ物を差し出してくる。
「はいこれ! あまくるみ!!」
「あまくるみ? あ、ありがとう」
「ライラ、なんなのだ。それは? カイト、私にもくれ」
見た目は焦げ目のついたあんまん。
シフのために小さくちぎると、中からは白いあんがはみだしてくる。
肩に跳び乗ってきたシフに、あげながら、僕もあまくるみとやらを食べてみる。
「……うまっ!?」
「おお! 甘くて美味だな!」
外側がパリッとしているが、中身はもちっと触感。
中身の甘いあんが良い感じにマッチしてて、うまい。
「あはは、ここのあまくるみはね。ここらの名物なんだよ」
僕達の反応を見て、嬉しそうにした彼女はもう一つとりだしたあまくるみにかぶりついている。
いや、甘い食べ物なんて、久しぶりに食べた気がする。
「あ、お金……」
「いいよいいよー。依頼を手伝ってくれたお礼。それにいつも簡単な依頼を受けた帰りは食べ歩きして帰ってるし」
冒険者生活を満喫しているなぁ。
いや、むしろこれが地域の人々と密接に関わり合うであろう冒険者としての正しい姿なのかもしれないな。
密かに納得していると、シフが自分の尻尾で僕の肩をぽんぽんと叩いた。
「カイト、もっと食べたいぞ!」
「じゃあ、半分こだ」
僕が食べた部分を避けるようにして半分に割って、それを左手の掌にのせる。
すると器用に肩から、左腕に降りてきたシフはそのまま掌のあまくるみにかぶりついた。
「むぐむぐ」
———今この時ほど、カメラをこの世界に持ってこなかったことを悔やむことはなかっただろう。
邪な考えが頭によぎったが、あくまで無表情に徹して、右手のあまくるみを食べる。
「そういえばさ、カイト君ってさ」
「ん?」
「弓の扱い方を教えてくれる人とかいるの?」
「あー、それが……いないんだよね」
そもそも扱える人を知らない。
なので、手探りで覚えていこうと考えていた。
「じゃあ、フランに聞いてみる?」
「フランさん? あの人は弓を扱えるの?」
「うん。遠くを射ったり、近くで射ったり、矢で突き刺したりしてる」
突き刺したりしてる!?
どういうこと!?
「あんまりやんないけど、そういう流派らしいね。私もよく分かんないけど」
「えぇ……」
「むぐむぐ―――ごくり、教えてもらえばいいのではないか?」
ごくりと、飲み込んだシフは、僕の手元のあまくるみを凝視しながらそんなことを言ってくる。
試しに手を左右に振ると、シフの頭が同じように揺れる。
かわいい。
なんだか、それだけでおなかいっぱいになっちゃった僕は、半分以上残っているあまくるみをシフへと差し出す。
「はい、どうぞ」
「おお! さすがは我が主だ! 感謝する!!」
「君、それを言えばいいみたいに思ってない?」
いい意味で俗物的になったなぁ。
とりあえず、ライラの提案は僕にとってはありがたい。
「フランさんに聞いてもらってもいいかな?」
「オッケー、任せて!」
弓の練習か。
大変そうだけど、楽しそうではあるな。
空が大分暗くなってきた頃に、ようやく僕達の住んでいる宿に到着する。
「ただいまー」
そう元気な声で紙袋を抱えたライラが、宿の扉を開け放つ。
彼女に続いて僕も宿に入ったその時、玄関の前に誰かが仁王立ちしていることに気付く。
「り、リーファ」
「どこにいってたの?」
僕とライラをじろりと見た彼女の言葉に、なぜか気まずい気持ちになる。
え、僕なにも悪いことしてないよね?
「依頼だけど……」
「……私、すぐに帰ったのに。誰もいなかった」
「ごめん、僕が悪かった!!」
もしかしてあの後すぐに帰ってきてたの!?
それは僕が悪いわ。
即座にリーファに謝罪すると、後ろで様子を伺っていたライラがごそごそと抱えた紙袋を漁りながら、彼女へと近づき―――、
「はい、どーぞ」
「むぐっ」
その口にあまくるみを押し込んだ。
少し驚いた彼女だがすぐにもぐもぐと両手で持ったあまくるみをリスのように食べはじめる。
「———っ!」
そのまま目を見開いた彼女は、そのまま僕を見る。
「カイト、許す。これあと10個買ってきて」
「太るぞ」
「太らないもん」
いや、そこまで君に甘くするわけにはいかない。
しっかりとした食生活も勇者としての務めだ。ここは心を鬼にする。
「……カイト、買ってくるなら私の分も……」
「分かった。シフ、いくつがいい?」
「私の時と対応違くない? ねぇ? なんで?」
リーファが、がしりと僕の肩を掴んで揺らしてくる。
そんな僕達のやり取りを見ていたライラは、微笑ましそうに、そして楽しそうに笑っているのだった。
ディコン→ダイコン。
さすがにあまくるみって名前のお菓子はないよな……(検索)
↓
あるやんけ(白目)




