第四十三話
第四十三話です。
「さあ! 草刈りの時間だ!!」
依頼『代わりに裏庭の草刈りをしておくれ!』
ライラに誘われ、ギルドで受けた依頼は想像していたものとは違っていた。
普通より大きめの民家の裏庭。
草が生えっぱなしになった広い庭を前にしたライラは、元気よく右手を掲げながらそう意気込んでいた。
「依頼って草刈りだったのか」
「うん。この家に住むおばあちゃんが知り合いでね。あと、たまにはこういう依頼もこなしておかなきゃって思って」
「……本音は?」
「一人でやると時間かかるから、誰かに手伝ってもらおうかなって」
たしかにこの広さを一人でやるのは大変だけど……手がかかりそうだなぁ。
見た感じ、膝ほどまでに伸びた草が生い茂っており、それが庭の隅から隅まで広がっている。
「燃やしたらどうだ? それならすぐに済むだろう」
「いやいや! 火事になっちゃうから駄目だよ!?」
シフの提案を却下したライラは、僕に草刈りのための道具を差し出してくる。
それは、僕の知っている草刈りの道具とは違い、長い柄の先端に歪曲した刃が取り付けられているもの―――俗にいう大鎌という道具であった。
「……これでやるの?」
「うん、そうだよ」
イメージとしては死神が持っているものだけど……。
大鎌は草刈りの道具として用いられていたって話なんだっけ?
手に持った大鎌を見て、さっそく興味を持ったのかライムが僕の肩から手元へと降りてくる。
「ライム、変形するか?」
「きゅ!」
元気よく跳ねたライムに魔力を与えると、銀色の身体は一瞬にして渡された大鎌と同じ形状へと変化する。
刃の部分に指で触れてみると、本物の大鎌よりも鋭くなっているように見える。
「改めて見ると、ライムって本当に鍛冶屋泣かせだよね……。見るだけでなんでも変形できちゃうんだもん。それもミスリル製だし」
「元より、ライムの学習能力が高いということもあるな。普通のスライムじゃ、こうはいかん」
「きゅ!」
大鎌状態のまま、誇らしげな鳴き声が返ってくる。
それに応えるように、軽く柄の部分に手を添える。
「でも、これは武器として……使える……のか?」
「うーん、使おうとしている人は見たことあるけど、あまり戦闘には向かないと思うよ? 刃の形からして相手を斬りにくいし、何より切り裂くにも相当な力が必要になる」
「……たしかに」
「でも先端が重いから威力が乗りやすいって利点もあるね。まあ、それ以上に扱いづらいんだろうけど、主武装にするにはちょっと……って感じ」
なら、肉体強化された状態なら使えるかな?
出すとしても一瞬だけど。
「話をしていても草は減らないね。じゃ、早速始めようっ!」
「おー!」
ライラのノリに合わせ僕も手を上へと掲げる。
彼女は、雑草の前に立つと薄い黄緑色の魔力を大鎌に纏わせ始めた。
「魔法を使うのか?」
「その方が手っ取り早いからね」
たしかライラの魔法は風の系統だったはずだ。
大鎌の刃に風を纏わせた彼女が、雑草へ向けて水平になるように横薙ぎに振るうと、抵抗もなくあっさりと雑草が切られていく。
「うむ、風の魔法で刃を作り出しているのだな」
「風というと……僕にもできるかな? ハクロ、出てこい」
左腕から半透明のオオカミ、使い魔のハクロを呼び出す。
突然現れたハクロに、草刈りを続けようとしたライラは驚きに目を丸くする。
「えっ、カイト君! もう新しい使い魔を仲間にしたの!?」
「あ、そういえば言ってなかった。紹介するよ。こいつはハクロ、ちょっと事情があって僕の使い魔になった……魔物だ」
風の精霊って見えない存在らしいので、ここは魔物と言っておこう。
その場にちょこんと座り僕の指示を待っているハクロをまじまじと見たライラは、僕へと視線を向ける。
「この子って風に関係する魔物なのかな?」
「え、なんで分かったの?」
「同じ力を感じるから。でもなんだろう、それにしては……弱々しいというか……」
「まあ、それはちょっと事情があるんだよ。それより、この子の風の力を借りて草を刈ろうと思うんだけど、どうかな?」
「それなら、私が見てあげるよ」
それは助かる。
早速、ライムの変形した大鎌の刃に風となったハクロを纏わせる。
「カイト君。ただ纏わせるだけじゃ駄目だよ。もっとしっかりとしたイメージをしなくちゃ」
「イメージ……?」
「今のままその鎌を振っても、ただ草をまき散らしちゃうだけ。研ぎ澄ますように、刃を研ぎ澄ませるように風を纏わせてみて」
そう言ってライラがもう一度大鎌を振るうと、音もなく雑草が切り裂かれていく。
しっかりしたイメージを持つ、か。
「……ハクロ、研ぎ澄ませろ……」
呟くようにそう口にすると、大鎌を覆う風の量が少なくなった。
恐る恐る、それで先ほどのライラと同じように雑草へ振るうと、サンッ、という音と共に雑草が切り裂かれた。
「おお……」
「そう、その感じだよ。これは魔法を扱う上でも重要な基礎だからねっ! ちゃんと覚えておくといいよ!」
僕に関しては使い魔なんだけど……通ずるものがあるな。
イメージによって、魔法の効力が変わってくる。
ということは———、
「つまり、僕の発想力によってシフ達の力を最大限にまで高めることができるようになる……ってことか!?」
「え? ……そ、そうなのかな?」
「ありがとう! ライラ!!」
曖昧に頷くライラに、お礼を言いながら草刈りを再開させる。
「は、はは、どういたしまし……て? それじゃ、私も草刈りしようか」
一度振るごとに面白いほどスムーズに草が刈れていくけど、肝心の腕の疲れが半端ない。
元より、大きな大鎌を扱うにはそれなりの力を使うし、ましてや僕は肉体強化を施していない生身の状態で作業している。
しかし、このまま全身に肉体強化を施しても魔力を大きく消費してしまう。
「そうだ、シフ! 肉体強化を限定化すればいいんだ……」
「どうした突然?」
少し後ろで見ていたシフは突然の提案に驚いている。
「今までの僕達は、全身を均等に強化していたから魔力の消費が激しかった。それで身体を壊しかけたり、攫われそうになったりしただろ」
「え、カイト君、攫われそうになったの? どういうこと?」
魔王軍のことを説明するわけにはいかないので誤魔化していると、僕が何を言おうとしていたのか分かったのか、シフはハッとした表情を浮かべた。
「ならば部分的に強化を限定させれば、相応に魔力の消費が減ることになる、ということだな!」
「そう、その通りだ!!」
「さすがは我が主だ! ならば、早速試してみよう!」
ぴよーん、と帽子に変身しながら僕の頭にかぶさったシフは、肉体強化の魔術を僕の腕へと流し込んだ。
両腕に力が漲ったのを確認した僕は、ライムに頼んで大鎌を二回りほど大きくさせた後に、雑草へ向かって横薙ぎを繰り出す。
「そい!!」
繰り出された大鎌は、広い範囲の雑草を一気に刈り取ってしまった。
肉体強化された腕に負荷はない―――成功だ。
「カイト、どうだ?」
「こっちは問題ないよ。魔力の消費もいつもより断然少ないし、実戦でも十分に使えると思う」
「私の方も大丈夫だ」
部分強化。
これは僕達にとっての新たな力だ。
思わぬところで、自身の弱点を改善することができた僕は、さらにやる気を出して草刈りに臨んでいく。
「よし、この調子でどんどん草を刈っていくぞー!」
「おう!」
「きゅー」
「最初の時よりどんどん逞しくなってるなぁ。カイト君」
最初の頃の僕は、この世界のことを何も知らなかった。
でも今はそれを理解しようと、日々を必死に生きている。
僕がここにいる限り、これからもそれは変わらない。
ロマン武器、大鎌への変形が可能となりました。
草刈りに便利です。




