第四十二話
第四十二話です。
リックさんとの依頼を終えてから一週間。
その間、僕とリーファは大事をとって依頼を受けず休息をとっていた。
本当なら一週間は長すぎとは思えたけれど、慣れない旅の疲れとリーファの姉、ニーアとの戦闘での疲労が思っていた以上に大きかったことに加え、リーファが勇者としての立場として王城に魔王軍に関しての報告をしなければならないということもあって、それくらい休むことになった。
その間、しっかりと身体を休めた僕はシフとライムと共に、お世話になっている宿の裏庭で身体を慣らすための訓練を行っていた。
「よし、なら色々試していこう」
「うむ、カイトよ。肉体強化は必要ないな?」
「そうだね。今回は肉体強化とは別に、属性付与、ハクロの風の力をライムと一緒に応用させていこう」
「きゅ!」
傍らの長椅子の上にちょこんと座ったシェイプシフターのシフに頷きながら、ミスリルスライムのライムを掌にのせる。
そのままライムを剣の形へと変える。
「シフ、まずは火炎付与を」
「おう」
シフが支援魔術、火炎付与を発動させると刃に炎が灯る。
続けて、雷撃付与をお願いすると、炎を散らせた刃に電撃が走る。
ゆっくりと呼吸を整えた僕は、一度目を瞑り、目の前に敵―――ニーアがいることを想像する。
「フッ!!」
目を見開き、正眼に剣を構えた僕はそのまま剣を振り下ろす。
そのまま踏み込みと同時に切り上げ、袈裟斬りへ派生―――さらなる踏み込みと共に、ライムを槍へと変形、伸びたリーチを生かしての突きを繰り出す。
「次、ライム……!」
「キュ!」
「纏え、ハクロ!」
槍を引き戻すと同時に剣へと戻し、腰だめに構えた状態からハクロの風の力を剣へと纏わせる。
風が周囲の空気を引き込むと同時に剣を抜き放ち―――風の刃と化したハクロを前方へと放つ。
「スライム闘法、ハクロ斬……!」
その呟きと共に飛んだ風の刃が、10メートルほど離れた的に直撃し、見事に真っ二つに切り裂いた。
それを見ていたシフは、うんうんと頷きながら僕へと振り向いた。
「技名はともかくとして、ハクロの力は魔力こそ食うが応用性の利くものだな。先ほどの風の刃も、私の属性付与とライムの変形を応用させれば、多くの手札を得ることができるだろう」
「ねぇ、シフ。技名はともかくとしてってどういうこと?」
「……そ、それより、先ほどのおぬしの技について一緒に話し合っていこう」
露骨に目を逸らされてしまう。
だが、その尻尾は嘘を言っていないようだな。
動揺を表すかのようにゆらゆら動いておるわ。
……しかし、その程度のことで咎めるほど僕の心は狭いわけではない。
「フッ、シフ。さっきのハクロ斬は、僕的にも一味足りないネーミングだったのは自覚している。あくまで仮の技名だから安心してくれ」
「え、あれで?」
「ん?」
「さ、さすがはカイトだ!」
今、何かシフが呟いたような。
挙動不審になりながら視線を逸らすシフを気にしながら、手元のライムへと目を向ける。
「それじゃ、ライム。次は弓に変形してくれ」
「きゅっ!!」
僕から魔力が吸収されると同時に、剣から銀色の弓へとライムが変形する。
手触りを確認しながら、あらかじめ用意しておいた練習用の矢じりを外した矢をつがえてみる。
「……剣よりも危ない感じがするな」
弦の反動を利用して飛ばすものだから油断すると、あらぬ方向に飛んでいきそうだ。
そうならないように注意し、弓につがえた矢を引き絞———って、引けない。
「固いな……張力はあるようだけど……いや、弱める必要はないよ。シフ、肉体強化を」
「了解した」
シフの肉体強化が発動し、身体の感覚が鋭敏化し、力が漲る。
その状態で矢を掴み、弓を引き絞る。
指に感じる若干の痛みと共に、ギギギ、と硬質な音が響き、矢が放てる体勢へと移る。
「狙いを定めて……」
しっかりと視線の先の的へと向け、矢を掴む指を放す。
瞬間、強烈な風切り音と共に、的の後方にある木に何かが激突したような音が響く。
ドゥンッ! という矢から出てはいけない音に、ビビりながら恐る恐る当たったところを見てみれば———、
「あわわ……」
放たれた矢は、木に半ばほど突き刺さっており、当たった部分も抉るように削られていた。
それを見た僕とシフは顔を見合わせる。
「……カイト、弓とはこのような威力なのか?」
「……多分、違うと思う」
あかん、よく考えたら僕とシフは弓についてろくすっぽ知らなかったド素人だ。
危ないなんてレベルじゃない。
「普通に危ないな」
「……うん」
そして、真っすぐには飛んでいないという事実。
これではリーファの援護どころではない。もし放つならばリーファに風穴を空けてもおかしくはない。
「きゅ!」
どんなもんだい! といいたげに肩で跳ねるライム。
そんなライムを撫でながら、僕はシフへと向き直る。
「まあ、かわいいからいいじゃないか。なぁ、シフ」
「おぬし、もし私が同じことをしたとき、同じ対応をするのだぞ? そうじゃなきゃ私はぐれるからな」
ふいっとそっぽを向いたシフは、前足で近くにある購入しておいた弓を差し出す。
「カイト、練習用に買った弓を使おう」
「そうだね。ライム、ちょっと今のままじゃ危なすぎるから、今はこっちでね」
「きゅ!!」
何本か矢じりの外した矢を持って、的から距離を取る。
すると、僕達のいる裏庭に誰かがやってきた。
「やっほ、カイト君」
「ライラ?」
僕とリーファと同じくこの宿に住み着いている一つ年上の少女、ライラ。
ギルドの冒険者としても先輩な彼女は、僕の元に歩み寄りながら指を上に向ける。
「上から君の訓練を見て、降りてきたんだ」
「え、えーと、お恥ずかしいものを見せてしまいました……的な?」
「ははっ、そんなことないよ。でも、独学で弓の練習は危ないよ? 弦が耳に当たったらものすごく痛いらしいし」
そう考えると、弓を引くのが怖くなる。
やや引いたように手元の弓を見ると、ライラは快活に笑った。
「そういえば、リーファは?」
「あの子はちょっと用事があって、出掛けているんです」
城の方に呼ばれて、女王様に会いにいっているらしい。
というより、あの子、普段着全開でラフな格好で行っていたけど大丈夫だろうか?
「いつも一緒にいると思ったけど……それじゃあ、どうしようかな」
「どうしたんですか?」
「暇だから軽い依頼でも行こうかなって思ってね。一人でいくのもあれだから、カイト君とリーファを誘おうって思ったんだ」
軽い依頼か。
病み上がりには丁度いいかもしれないな。
「時間のかかる依頼?」
「ううん、短い時間で済むようなやつだよ」
「それならいいよ。僕で良かったらだけど……」
「文句なんてないよっ。それなら、早速ギルドで受けに行こう!!」
ニカッ、と明るい笑顔を浮かべたライラ。
そんな彼女に押されながら、僕はギルドへ向かう準備を整えに部屋へ向かう。
一週間ぶりの依頼だ。
一応、リーファに書置きを残しておかなきゃな。
『白狼斬』ならまだかっこいいのに『ハクロ斬』とカタカナにするのがカイトクオリティ。
そして、肉体強化をしないとまともに矢を放てないくらい、やべー威力の弓。
至近距離から叩き込むのも良し、ミスリル製なのでそのまま殴っても良しです。




