第三十一話
第三十一話です。
馬車に揺られながらの道中。
様々な景色を見たり、休憩の合間合間にリックさんの指導を受けていた僕たちだが、とうとう討伐対象のグリフォンが生息するという目的地までに到着した。
魔馬を操っているヒューズさんが綺麗に整地された道の端に馬車を止めると、鳥の声を濁したような鳴き声が響いてくる。
「グリフォンの声だな。繁殖期で気性が荒くなっているな……」
「しかも、中々にデカそうだな。大丈夫か? リック」
「ハッ、誰にもの言ってやがる」
腰のベルトに鞘に納められた剣を装備したリックさんが、ヒューズさんへと軽口を返す。
道中に説明を受けたが、グリフォンという魔物は四足の足と一対の翼を持つ大きな鳥類型の魔物で、身体が大きく、力も強いのでシルバーのランクの人でも、実力がなければ命を落としかねない危険な魔物でもあるらしい。
「リック。俺はいつものように待機してっから、討伐を終えたら知らせてくれ」
「おう、さっさと終わらせてくる。お前らは俺についてこい。グリフォンとの戦闘には参加させることはねぇが、気を抜くんじゃねぇぞ?」
「「はい!」」
グリフォンの討伐はリックさんの仕事。
僕達はそれをサポート、ないしは見学させていただくことになっている。
まあ、とりあえずは邪魔しないように立ち回ればオッケーらしい。
「じゃ、出っぱ……ん?」
いざ出発しようとリックさんが、森の方へと向かおうとしたその瞬間、突然彼が目的の場所とは別の方向を見る。
「どうしたんですか?」
「……いや、ちょっとばかし視線を感じただけだ。まあ、気にするほどでもないだろ」
僕もリックさんの振り向いた方を見るが、そこにはただ森が広がっているだけだ。
何気なく森の中を見つめていると、どことなく吸い込まれそうな感覚に陥っていく。
「行こ、カイト」
「え、あ、うん……行こうか」
リーファに手を引かれて我に返った僕は、リックさんについて行く。
しっかりしろ僕……! 今からグリフォン退治だぞ! ヘマしてリックさんの邪魔するわけにはいかないんだ……!
気合を入れなおすために頬を張る。
じーん、とした痛みに涙目になりながらも、しっかりと目を覚ました僕は気持ちを切り替えて、森の中を歩いていく。
依頼の関係上、森に入ることが多かったが今までとは雰囲気が違う。
「うむ、王国から離れたとあってはやはり魔物の気配の強さが軒並み違っている。ここでなら、カイトの使い魔に相応しい魔物がいるかもしれんな」
「きゅ!」
「そうだな。次はドラゴンあたりだな。優れた主には優れた魔物だ。ライム、分かっているではないか」
「きゅぅ!」
楽しそうだね、君達。
僕としてはドラゴンと戦わされるかもしれないと聞いて恐々としているのだけど。
「ドラゴン、いずれ倒す」
「リーファ、君もやる気を出さなくていいからね?」
そして後ろを歩くリーファも俄然やる気だ。
僕の認識が間違っていなければ、ドラゴンってデカくて炎吐くあれだよね?
「無駄話もそこまでにしておけ……近いぞ」
前を歩く彼の言葉に僕達も気を引き締める。
一応、ライムに剣の姿に変わってもらいながら、音を立てないようにする。
すると木々に囲まれていた場所の先に、一際ひらけた空間が見えてくる。
「……滝の音?」
「森に生息する魔物は水辺の近くに縄張りをつくることが多い。ほれ、見てみろ」
茂みに隠れながら、ひらけた空間に目を向けると大きな河と、その近くの積み上げられた岩の上に巨大な鳥の魔物―――グリフォンがいた。
オロチの次に見る大型の魔物。
その圧は普通のものではない。緊張のあまりごくりと生唾を飲み込みながら、剣に変形しているライムを握りしめる。
「いるのはグリフォンだけじゃないぞ」
ハッとしながら、もう一度グリフォンの方を見ると積み上げられた岩の下方に魔物の群れのようなものが見える。
あれは……赤い毛並みの、ハイエナ?
「死肉を漁る魔物、レイジウルフだ。最近になって見かけるようになった魔物だが、恐らく魔王軍とやらのせいで生息域が広げられたんだろう。率先して人間を襲うことに加え、森の生態系を滅茶苦茶にしていることから、ギルドでも見つけ次第、駆除するように言われている」
魔王軍によって広められた魔物ってことか。
ギルドが駆除対象に選ぶなんて、相当気性の荒い魔物なんだな。
「あそこにいるのはグリフォンのおこぼれを食うために、待機しているんだろうよ。グリフォンからしても、面倒な小型の魔物を追い払ってくれる存在だからな」
「共生しているというわけですか。クマノミとイソギンチャクみたいな感じで」
「ん? ま、まあ、そういう感じだ」
つまり、グリフォンと戦うためにはどうあってもレイジウルフが邪魔になってくるということか。
ちらりとリックさんを見ると、彼はグリフォンとレイジウルフを見比べて、ニヤリと笑みを浮かべた。
「まあ、レイジウルフ程度、気にするほどでもない……が、カイト、リーファ、レイジウルフの相手を任せても大丈夫か?」
……ここで断るなんて選択肢、あるはずがない。
僕達はリックさんの依頼に同行した理由は経験を積むことにある。ただ後ろで突っ立って見ているだけなんて、僕自身が許さない。
「……リーファ、やれるか?」
「もちろん。私とカイトならやれる」
「決まりだな」
リックさんが腰を落とし、剣の柄に手をかける。
彼が魔力を薄く体に纏わせると、威圧感が増していく。
「……まずは俺が先行する。その後に、レイジウルフの相手を頼むぞ」
「了解です」
「———よし」
瞬間、リックさんの姿が掻き消える。
その後に遅れるように茂みが大きく揺れ、グリフォンの雄たけびが響き渡る。
———え!? 消えた!? どこに……。
「カイト、上だ!!」
「っ!?」
頭のシフの声に従いそちらを見ると、一瞬のうちにグリフォンのいる岩山へと飛び上がったリックさんが、自身の周囲に紫色の剣を出現させながら、剣を抜こうとしている光景が目に入る。
一瞬であそこまで移動したのか!?
いや、驚くよりも―――、
「リーファ、行くぞ!!」
「うん!」
シフに肉体強化を施してもらった僕はリーファと共に茂みを飛び出し、リックさんの方へと向かおうとするレイジウルフへと向かっていく。
数にして大体十五頭ほど。
数は多いが、僕達の敵じゃない!!
「シフ! 私のナイフに電撃を!!」
「おう」
シフが、リーファの持つ三本のナイフに電撃を付与させる。
彼女はそれを投擲し、数匹のレイジウルフに直撃させ感電させる。
怯んだその瞬間に、足に力を籠めた僕は先行する形で加速し、感電している一頭の首に剣を突き刺す。
「グルァァ!!」
「甘ァい!!」
横から噛みついてこようとする一体の首に腕を引っ掛け、地面へ叩きつける。
「ふぅ……! ラリアットォ……!」
そのまま剣を最初に突き刺したレイジウルフから剣を引き抜きぬいていると僕の影からリーファが浮かび上がり、ナイフを伴って背後のレイジウルフへと攻撃を仕掛ける。
「私がいる限り、不意をつこうたってそうはいかない」
背中の心配はしなくてもよさそうだ。
ならば―――、
「シフ、火炎付与……!」
「ああ、こいつらを丸焼きにしてやれ!!」
ごうっ! っと刀身が燃え上がり、炎を纏う。
強烈な熱を纏わせたそれを構えた僕は、依然として歯を剥き出しにして威嚇してくるレイジウルフを睨みつける。
相手はオオカミの魔物———下手な油断は死を招く。
全力で排除する。
「食らえい!」
力の限りに横に薙ぎ、刀身に纏われている炎を放つ。
当然の如く後ろへ飛び去るレイジウルフ達だが、その着地の瞬間を狙いライムの形状をロープへと変化させ、一頭を絡めとる。
そのまま引き寄せ、首根っこを掴み取った後は、電撃付与により感電させる。
「グルゥゥゥ、ガウ!!」
「ガウゥ!!」
「グルゥ!」
斜め前、正面、側方から同時に襲い掛かろうと掛けてくるレイジウルフ。
今から回避行動をとっても間に合わない……!
さすがのシフも慌てたように、頭の上から声をかけてくる。
「カイト、一斉に攻撃してくるぞ!! 避けろ!!」
「いや! ライム、大斧形態!! シフ、もう一度火炎付与!!」
ライムのいる右腕を後ろへ向け、叫ぶ。
すると魔力を大きく吸われると同時に、ライムの形状が長く、大きく変形していく。
それは、銀色の大きな刃が取り付けられた斧。
その巨大さに構わず両手で柄を握りしめた僕は、力の限りに振り回し———地面へと叩きつける。
「まとめて食らえや……!」
爆砕音と共に地面へと叩きつけられた斧は、火柱を上げると同時に周囲に炎の礫を弾き飛ばした。
それらに巻き込まれたレイジウルフは、避けることもできずに礫に吹き飛ばされて、地面へと叩きつけられる。
「スライム闘法、アックスボルケーノ……!」
「え……」
「ん?」
「い、いい名前だと思うぞ! でも私的には別の技名の方があっていると思う!!」
そうかなぁ? しかし、今の反応は少し引っかかるのだけど。
ともかく、リックさんのアドバイスを実践してみたけど、うまく僕の戦い方に嵌ってくれた気がする。
戦闘中における一時的な武器変更。
これで相手の虚を突くこともできるし、何より僕の手札が広がったといってもいい。
「よし、こっちは片付いたしリーファの援護に―――」
ライムを剣の形に戻しながらリーファの方に目を向ける。
地面に手をついたリーファは、自身の影を伸ばして(?)数匹のレイジウルフを影の中へ引きずり込もうとしていた。
え、なにあれ。
徐々に使い魔たちの能力の応用性を広げていきます。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




