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第三十話

第三十話です。

というより、もう三十話ですね……。

 太陽が顔を出して間もない時間帯。

 僕とリーファはリックさんと軽い手合わせを行っていた。

 僕はライムが変形した剣、リーファが抜身のナイフ、対するリックさんが鞘に納められた剣を用いての手合わせだったが、力の差は歴然としていた。


「おおお!!」


 僕の振り下ろした銀色の剣がリックさんの持つ剣によって弾かれる。


「ッ、まだまだ!!」

「以前より、大分動きが洗練されているな……!」


 何度も金属が打ち合う音と共に、剣が連続して弾かれていきながら、僕はさらに一歩踏み込み、渾身の突きを繰り出す。


「思い切りもいい!」


 突きを身を低くすることで避け、一気に懐へと入り込んだリックさんが僕の腹あたりに強烈な肘鉄を叩き込んだ。

 あまりの衝撃に息ができなくなりながら、後ろへ下がってしまう。


「うごぉ!?」

「相手の動きに注意を向けすぎだ。もっと柔軟に対応しろ」

「隙あり!!」

「ん?」


 肩に鞘に納められた剣を置いたリックさんの背後の影から、リーファが飛び出してくる。

 これぞ、リックさんに一泡吹かすための策―――!!

 僕が囮になって、リーファが一撃を与える作戦だ!!


「悪くはない、が。奇襲すんのに、わざわざ声を出すな」

「おべぇ!?」


 地面を滑るようにステップを踏んだだけで、リーファの攻撃を避けたリックさんは、彼女の無防備な背中を、蹴り飛ばす。

 僕のいる場所に滑り込むように、あおむけに倒れたリーファ。

 それを確認したリックさんは、大きなため息をつきながら、剣が収められた鞘をベルトに戻した。


「よーし、お前らの今の実力は大体分かった。んじゃ、準備して飯食ったら出発だ」

「「はーい……」」


 ゴールドとブロンズの壁。

 僕とリーファは試験の時とは違った力の差を感じながら返事をするのであった。


●


 荷物をまとめ再びグリフォンのいる目的地へと馬車で向かう。

 肩に乗っているシフと共に道中の景色を楽しんでいたが、リックさんが朝の手合わせについての反省点などを教えてくれるというので、リーファと共に彼のアドバイスを聞くことになった。


「結論だけ言うなら。お前達は確実に成長している。以前よりも素人臭さは抜けたし、何より技の応用を覚えてきている」

「ふふん、当然」

「調子に乗るな」


 得意げな顔になるリーファだが、すぐに沈む。

 一か月コンビを組んできて分かったけど、リーファは物静かそうなイメージだが、その実は結構調子に乗りやすく、感情豊かだ。


「今後の成長についてだが……まずはカイト」

「はい」

「お前はそのスライムの変形をもっと生かせ。剣と棍棒だけじゃあまりにも芸がねぇぞ」

「でも、他の武器を扱う技術が伴ってないんですけど……」

「別にその形態を主に使うわけじゃねぇだろ。状況によって、的確な変形で相手を攻撃し、生じさせたその隙に、お前の得意な武器での一撃を叩き込めばいい」


 リックさんのアドバイスに僕とシフが頷く。

 的確な変形というと、相手の防御や体勢を崩すために一瞬だけ別の武器に変形してもらうってことか。


「……なるほど。一瞬の状況を打開するための変形、というわけか。うむ、これは盲点だったな。戦いの最中での高速変形———ライム、おぬしが目指すべきところはそこにあるのかもしれん」

「きゅ!!」


 ライムもやる気のようだ。

 現状の変形が、棍棒、剣、オロチ、ロープしかないからな。

 これを機にもっと柔軟な変形を試してみてもいいな。


「で、次はリーファ、お前だ」

「ん」

「お前は戦闘中での暴走がなくなって大分動きもよくなったが、あくまでそれだけだな。お前、魔物の力を持っているんだろ? それをもっと生かせたりしねぇのか?」

「……それは」


 リックさんには既にリーファが魔物の力を持っていることを話しているが、彼がこういうのも無理はないだろう。

 今のリーファは魔物としての力をほとんど使っていない。

 というより、僕と組んでからもだ。

 多分、そもそものやり方を知らないのだろう。

 それを察してか、リックさんは気まずそうに頭を掻く。


「それじゃあ、あれだ。カイトの純魔の魔力で力を得られねぇのか?」

「できるけど、多分我を失うと思う。一度、頼んだけど……直感的に駄目だと思ったからやめた」


 純魔の魔力は、魔物に力を与える魔力。

 その力はリーファにも有効で、一度彼女に純魔の魔力を与えようとしたのだが、すぐに彼女自身の手によって止められた。

 彼女曰く『理性が飛ぶ、暴れる。ワタシ、コワス』と後半カタコトで言われてしまった。


「ま、お前は魔物としての力を扱えることを目標とすべきだな。次点で魔法だ」

「うん。分かった」

「あと、年上には敬語使っとけ。俺には構わねぇが、依頼主相手にそれじゃあ反感を買うぞ」

「分かっ……分かり、ました」


 リックさんの言葉に大人しく頷くリーファを見て、改めて今回の依頼に同行させてもらって良かったと思う。

 ゴールドという上のランクのリックさんの戦いを見れることもそうだが、冒険者として先輩である彼に色々と教えてもらえるのは僕達にとって非常にプラスだ。


「リック殿の魔法はどのようなものなのだ?」

「俺か?」


 そう考えていると、僕の肩にいるシフがリックさんにそんな質問をしていた。

 たしかにリックさんの魔法について全然聞いていなかったな。


「俺の系統は“剣”。形状変化型の魔法系統だ」

「けいじょう、変化型?」


 剣? 魔法が剣なのか?

 魔法に関してはちんぷんかんな僕とシフに、苦笑したリックさんはおもむろに掌を僕達に見せる。

 彼が紫色の魔力を掌に浮かばせると、魔力の形状が変化し忍者が持っているような手裏剣のような形へと変化する。


「形状変化型ってのは、魔力が炎や雷のような属性じゃなく、形状で表れるもののことをいうんだよ。俺の場合は“剣”。他には、槍から鞭……動物の形に変わるものだってある」

「か、かっこいいですね……」

「そうか? あまりいいもんじゃねぇんだけどな」


 そうは言うけど、ただ濃度が高い僕の魔力よりは応用もききそうだし、なによりかっこいい。


「まあ、俺の魔法についてはもういいだろ。これといって面白味もねぇ魔法だしな。俺と比べりゃお前達の系統の方が珍しい」

「僕に関しては珍しいだけとも言えるかもしれませんけど……」

「それはお前がテイマーじゃなかったらの話だ。うーん、これは秘密にしろって言われたんだが……」

「はい?」


 座った状態からやや前のめりになったリックさんが口元に手を当て、声を潜める。

 僕もそれにつられて小声になってしまう。


「同じゴールドの奴にお前と同じテイマーがいるんだが……そいつ結構羨ましがってたぞ? 純魔の魔力持ちは魔物に好かれやすいし、何より魔物を強くすることに適しているからな。もっと自分の系統に自信を持て」

「そ、そうでしょうか?」

「それくらいテイマーがお前にとっての天職だってことを理解しておけって話だ」


 僕にとっての天職、か。

 まさしくそうだな。

 肩の上のシフと膝の上のライムもこくこくと頷いているし、その通りだ。


「え、私の魔法は?」

「お前は単純に見たことねぇ。だから珍しい」

「私の魔法だけ扱い雑じゃない?」


 唖然とするリーファに思わず笑みがこみ上げてしまう。

 馬車に揺られる旅路の中―――こういうのも冒険者としての一つの楽しみなんだとしみじみと理解するのであった。


一瞬でも目を離せば武器の間合いが変わるカイトと、暴走しかねない変身を残しているリーファでした。

純魔の魔力で補助されたライムの性能が本当に壊れてますね……。


次回の更新は明日の18時を予定しております。


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