第二百六十八話
第二百六十八話です。
今回はニーア視点となります。
どうやら、私達は分断されてしまったようだ。
それを認識した直後に隣にいたチサトが掌から水を放ち、近くにいた私と彼女自身を包み込むように守りはじめた。
このまま土に圧死潰されることはないけれど、どこかへ運ばれてしまっているようだ。
そう思っていると、なにやらチサトが怪しいてつきで私に抱き着いてきた。
「ニーア、アル捕まってて」
「ひぃ!? ちょっとどこ触ってんの!?」
「……君は子供の方がいいなぁ」
「なんでこの勇者と組ませたのぉ、イリスぅ!?」
「ニーア、いつものことだから、諦めろ」
こいつ、やばいよ! 普通じゃない!!
離れないようにがっちりと私とアルがチサトに捕まっていると、私達を守っている水球が空中に投げ出される。
すぐさま球体を解除させ、水のクッションで着地すると、私達の眼前には大勢の魔王軍兵士がいた。
そして兵士達の先頭にいるのは、水色の髪が特徴的な―――勇者であり、魔王軍の女幹部であった少女、カリーナであった。
「———ちょっとどういうことよ。こっちにはあのいけ好かない花女を連れてくるんじゃなかったの?」
「カリーナ……!」
私達の姿を見た彼女は不満そうにそう言葉にする。
しかし、チサトの方を見た彼女は、にっこりと笑みを浮かべ猫を被る。
「あら、お久しぶりですね。チサトさん、相変わらず可愛らしい顔をしていますね」
「え、そう? でも……そういう貴女もかわいいぜ」
「……え、ええ……そ、そうですね? 貴女、そんな人だった……?」
数年来の友人のようにシュパッ、と指をひる返しながらそう口にしたチサトに、ドン引きするカリーナ。
チサトの独特なテンションにカリーナも困惑しているようだ。
「でも、その悪趣味な仮面は駄目駄目ですね」
「なんだと、許さない」
「そこまで怒る部分なのそれ……」
「怒りの沸点が滅茶苦茶なのもいつものこと……」
アルのツッコミが苦労しすぎて別の意味で辛くなる。
てか感情の起伏が激しすぎだろ、情緒不安定な時のカイト君みたいだ。
……彼も普段は真面目なのに、ジャケットと覆面が絡むときは変になるんだよなぁ。
チサトはいつも変だけど。
「さーて、猫を被るのはここまでにして、よくここまでやってきたわね。ネズミ共」
「ネズミじゃないよ、どちらかというライオむごご」
「チサトは、話をややこしくするから黙ってて……!」
チサトの口を押さえて私が代わりに話をする。
チサトを押さえている私を見て、カリーナが歪んだ笑みを浮かべる。
「ニーア、やっぱりあんた裏切ったのね。まあ、元から幹部連中なんて仲間に思ってなかったけど」
「あ、分かる。裏切っても全く心痛まないもんね」
にこやかなまま挑発をする。
無論、本音である。
イリスに対しては心が痛んだが、正直それ以外は全員クソくらえって感想しかない。
「前々から貴女のことは気に入らなかったのよ」
「え、奇遇だね。私の方も気に入らなかったんだ」
「……生意気で、戦うことしか脳がないゴリラ女」
「……綺麗好きな癖して、汚すのが好きな変態女」
「「……」」
なんだと、この野郎。
私と同じく笑顔まま額に青筋を浮かべたカリーナ。
暫しの静寂の後に、一気に怒りの形相になったカリーナが、今か今かと待ちかねていた兵士達に声を張り上げた。
「さあ、あいつらを片付けなさい。捕まえた奴には褒美が出されるわよぉ!!」
「「「うぉぉぉ!!」」」
やっぱりそう来るよねぇ!!
でも、幸いこういう時に一番強いチサトと私がここにいるのが最高だ!!
「じゃ、一掃しちゃおっか」
「そうだね!」
チサトが大量の水を作り出し、一気に前に放つ。
濁流へと変わったそれに向けて両手を突き出した私は、冷気を当て霜へと変えていく。
濁流から雪崩へと変わったそれは、襲い掛かろうとした魔王軍の兵士を呑み込み―――壁へと叩きつけ、その意識を奪っていく。
「へぇ、やるじゃない」
雪崩の攻撃を真正面から受けたはずのカリーナだが、奴は自身の目の前に泥の壁を作り出すことで防いでいた。
以前見た時でも、粗が無く綺麗に作られた泥の壁。
それに少しばかりの違和感を抱きながらも、私は氷の双剣を作り出す。
「残るのは貴女一人だけだよ」
「別に、元より数合わせの雑兵がいなくなっただけ。元より、私一人でやるつもりよ」
そう言葉にすると、カリーナが懐から取り出した魔具のようなものを作動させる。
「ッ、ふ、ふふ、なるほどこういう感じね」
……待て、今なにを発動させた?
もう用済みと言わんばかりに魔具を地面に落としたカリーナは、高揚に浸るように深呼吸をしている。
なにかをされる前に気絶させよう。
「……。チサト、サポートよろしく!」
「どんと任せて」
カリーナはそこまで運動能力が高かったわけじゃない。
なので、近接戦闘で追い詰めれば容易く意識を断てるはずだ。
一瞬だけ純魔解放を発動させ、瞬時に背後に回り込みその首元に剣の柄を叩き込む。
「ッ」
「その程度の攻撃、もう効かないわよ?」
叩き込んだ柄は、カリーナを覆うように現れた土によって防がれる。
ただの土じゃない……!?
現れた土が不気味に蠢いたのを目にした私は、慌ててその場を飛びのくと、カリーナの纏った土から鋭利な棘が現れ、先ほどまで私のいた場所に殺到していた。
「あ、あっぶな……!」
少しでも離れるのが遅かったら串刺しにされていたな。
冷や汗をかきながら、先ほどカリーナが落とした魔具を拾いながら距離を取る。
「ふ、ふふふ、なにも強くなったのは貴方達だけじゃあ、ないわよ」
「ッ、カリーナ! 貴女、見た目が……!」
それに肌と髪の色も肌色から、真っ白に変わっている!?
その瞳すらも赤く変わってしまったカリーナは、身に纏った土を鎧のように変えながら、高揚を隠さずに笑い始める。
「はっ、ははは! とっっってもいい気分だわ!! さすがは魔王様が与えてくださった魔具! 私達の理解を超えた絶大な力を感じるわ!!」
「チサト……!」
「うん、あれはまずいね」
ただの魔具であんな力が手に入るわけがない。
それに、空気を伝ってくる波動は、神獣のそれを感じさせてくる。
「これのせいか……」
カリーナが発動し、地面に投げ捨てていた魔具。
見た目はなんの変哲の無い時計だが、確実にこれのせいでカリーナの身体そのものが変質した。
「ちょっと本気出す。アル、迎撃お願い」
「ああ、ボクに任せろ」
足元から大量の水を作り出したチサトが黒色のマフラーを纏いながら、臨戦態勢へと移る。
カリーナがなにをしたのか分からないが、とにかく今の彼女は手加減をして倒せる相手じゃない。
私は躊躇なく、純魔覚醒のその先―――白い冷気に包まれた形態へと変身する。
「元幹部のよしみだよ。その見るからに身体に悪そうな状態から解放してあげる」
「できるものなら、やってみなさい。返り討ちにしてあげるから」
正体不明の力で変貌を果たした、元同僚と戦う、か。
我ながらまた複雑な気持ちで戦うことになりそうだ……!
カイト&イオ:互いに連携を意識した立ち回りができる。
チサト&ニーア:魔法の相性がとてもいい。
覆面と仮面のせいで相性のいい組み合わせで分断されてしまった感じです。
本当は、イオ&チサトのような、もっと連携しにくい組み合わせでした。
次回は、リーファとセーラの場面となります。




