第二百六十九話
第二百六十九話です。
今回はセーラ視点となります。
「相手の目的は戦力の分断ってところかしら?」
土の魔法で分断された後。
リーファが土の中で作り上げた黒い影の球体の中で、土の移動に揺れながら私は戦闘に備えて魔銃の最後のチェックを行っていた。
リーファはどこか複雑そうな表情のまま、私に返事を返す。
「だろうね。それに、この魔法にも見覚えがある」
「あら? そうなの?」
「……うん。私達の仲間だった、イリスさんの魔法とそっくりだし……」
元魔王軍幹部のニーアがイリスって名前を呼んでいたからねぇ。
無関係なはずがない。
まあ、今はそれを考えている余裕なんてないわけだし、後回しにする他ないでしょうけど。
「いいや、今は目の前の状況のことを考えよう。今は―――」
そこまでリーファが口にしたところで、私達を無理やり運んでいた影の動きが留まる。
土の中を移動している感じとは異なる浮遊感。
リーファが影を解除させると―――、
「……あちゃー」
「めっちゃ囲まれてるじゃん……!?」
私とリーファを中心に、周囲は多くの魔王軍兵士と魔物に囲まれてしまっていた。
考えうる可能性の中で、最悪な状況を引き当ててしまった事実に頭が痛くなっていると、兵士達の奥からひとりの中性的な容姿の獣人が出てくる。
「おや、おやおや。マヌケなねずみがひっかかったようだね。今降伏するなら、命だけは考えてあげるよ? ま、考えるだけだけどね!」
突然、煽られたリーファは不思議そうに首を傾げて私へと振り返る。
「……誰?」
「いや、君は僕と会ったことあるだろ!! プレガスだよ、プレガス!! 魔王軍の幹部だよ!!」
「……?」
「ニーア以上に癪に障るやつだな、こいつ……!」
割と本気で覚えてなさそうな顔をしているが、セントレアルを襲撃した魔王軍幹部の一人だ。
フィグロさんと戦って捕まったって話だが、彼も脱獄していたか。
「ま、まあ、いい。どちらにせよ君達はここで終わりだ」
「まだ諦めるには早いんじゃないの?」
「頭が足りていないのかな? ここには百を優に超える魔物と兵士たちがいるんだよ? 奥にはもっと戦力が控えているし、対して君達はたったの二人……ぷ、くくふ、この数相手にどうやって勝とうっていうんだ?」
堪えきれない笑みを零したプレガス。
それにつられるように、周りの兵士達も下卑た笑い声をあげるが、一方の私達はそれほど焦ってはいなかった。
「私達が一番多いのかな?」
「うーん、多分カイトとイオ、チサトとニーアで別れただろうから、普通に大丈夫そうね。あっ、ということは今、イオってカイトと二人きり!? やっば、めっちゃ気になる!!」
「早く合流しなくちゃ……! 一刻も早く合流しなくちゃ……!」
呑気な会話をしている私達に、プレガスはその表情を怒りに歪めた。
煽ったりするのは得意なのだろうが、逆に煽られるのは苦手な様だ。
「ッ、やれぇ!!」
一斉に動き出す兵士と魔物。
向かってくる彼らに、軽く深呼吸をしたリーファは自身の魔力を解放させる。
「———私相手に数で勝てると思っているの?」
一瞬にして黒い影の魔力に包まれたリーファが、自身の影から分身を作り出しながら四方へ襲い掛からせる。
戦闘もこなせる実体を伴った分身。
個々の戦闘力は結構なものがあり、並みの兵士や魔物では相手にすらならない。
「うわぁ、一人軍隊ねぇ」
「むぐぐ、頼もしいな」
連射型に銃身を切り替えながら、リーファの分身達に蹂躙されていく兵士達を見る。
魔銃の存在をしっかりと手の中に感じ、軽く吐息をついた私は―――背後から剣で斬りかかろうとする兵士の一人に、魔銃の一矢を放つ。
放たれた矢は、兵士の足に突き刺さる。
「い、いでぇ!?」
「そのまま寝ていれば命までは取らないわ。立てば、容赦はしないわ」
「こ、このクソアマ……ッ――」
痛みに悶えながらも剣を取り、襲い掛かろうとしてくる兵士の胸と頭に一発ずつ矢を撃ちこむ。
積極的に殺しにはいかないがそれでもやるべき時はやらなくてはならない。
そういう線引きをしなければ、次に命を落とすのは自分になってしまうから。
「セーラ」
「……。心配はいらないわ。さあ、私達もやるわよ、キッシュ」
私を気遣ってくれるキッシュをありがたく思いながら、魔銃を構える。
相手方の陣形が瓦解し、こちらのやりやすい乱戦へと持ち込まれている。
「だ、誰かあの女を止めろ!!」
「嫌だよ!? あれ、痛いどころの威力じゃないだろ!!」
射程距離にいる兵士に次々と矢を放ち、順調にその数を減らす。
この調子なら、奥の手を使わずにいけるだろうけど―――、
「あの女はおれがやる!!」
「そう楽にはいけないわよね……!」
私の二倍近い身長の大男が味方の兵士を突き飛ばしながら私の前に出てくる。
こちらに近づいてきて来る大男に矢を放つが、刺さりながらも怯まずにこちらにやってくる。
「そんな針みたいなもん俺には効かねぇぞぉ!!」
「……」
冷静に、腰のホルダーから片手で持てる魔銃を取り出す。
エリーに作ってもらった、単発装填式の魔銃。
中に籠められた弾を目で確認し、大男の足元に放つ。
「なっ、凍っ―――」
足元に着弾した直後にニーアの冷気の魔法が込められた弾が解放され、大男の両足が凍結する。
その隙に、左手で支えるように右手で持った大きく魔銃を引き絞り、狙いを定める。
「悪く思わないでね! キッシュ!」
「ああ、いくぞ」
銃身が赤い炎を纏い、加速と共に大男のみぞおちへと銃身での突きを叩き込み―――直撃と同時に引き金を引き、ゼロ距離での矢を叩き込んだ。
「火炎刺突!!」
大男を貫通するようにその背に炎が炸裂する。
口から煙を噴き出しながら倒れ伏す大男を避けながら、私は大きなため息をつく。
「あぁ! クソ!! 素で耐えられるとこうしなきゃいけないのが! もう嫌!!」
「汚い言葉遣いは駄目だぞ。またイオに怒られる」
「分かっておりますわ!! 今度、銃身に剣をつけてもらおうかしら!!」
口調を乱しながら再び敵を無力化しようとすると、今度は大型のグリフォンがこちらへ突進してくる。
魔銃を構えると近くにいた黒い分身が、本体であるリーファと入れ替わり、グリフォンの顔を殴り飛ばした。
「セーラ!」
「私は大丈夫。ここは私に任せて貴女は他を頼むわ」
「……分かった!」
転移しながら私から離れるリーファを見送りながら、起き上がるグリフォンへと視線を向ける。
こいつだけに構っている暇はないので手早く始末して、次の相手に移らせてもらおう。
「頼むわね、イオ!!」
緑の印がついた弾をもう一つの片手サイズの魔銃に装填させ、グリフォンの足元へと放つ。
地面にぶつかると同時に弾に込められた魔法が発動し、グリフォンの足を絡めとる花の蔦へと変わる。
「雷鳴———」
グリフォンの翼を足場にし、跳躍と共にシフの電撃の力が込められた魔弾を頭に叩き込む。
その上で、しっかりとグリフォンの頭部へと空中で狙いを定めた私は、引き金を引く。
「全弾!!」
グリフォンの頭に拡散型の矢が殺到する。
一瞬にして、グリフォンの命を刈り取ったことを確認しつつ、射撃の反動を用いて空中で一回転しながら地面に着地する。
「次!」
連射型へと銃身を切り替えながら一人、一人確実に兵士達を無力化していく。
肩、手、足、戦意を喪失させ、時には動けなくさせながら引き金を引いていくと、いつのまにか周囲には凶暴化した魔物が私を取り囲んでいた。
「魔物が多いわねぇ!!」
「セーラ、油断するな」
「分かってる。頭は冷静、よね!」
兵士はともかく魔物の数が尋常じゃない。
ここら一帯の魔物を集めているのか分からないが、どちらにしても魔王軍を倒した後も解き放たれた魔物の対策が必要になってしまうだろう。
「さぁて、こういう時がコレが役に立つ!」
弾薬ケースから取り出した弾を指で宙に弾き飛ばしてから、魔銃に装填する。
少し離れた先の地面に向けて発射された弾は、地面に直撃すると同時に金色の光を放つ。
『が、がぁぁゥ!!』
『グルァァ!!』
煙のようにあふれ出す金色の魔力に群がる魔物達。
一気に片付けるべく、魔力を籠めた矢を放とうとした時、魔物達に影でできた槍が殺到する。
「ッ、セーラ! カイトの魔力を使うときは事前に言って!!」
「あ、ごめーん!!」
そういえば、リーファはカイトの魔力の影響を受けやすいんだった。
セントレアルの時とは違い格段に自分の力を制御しているあたり、凄まじいものがあるなと思いながら、一旦、リーファと共に兵士と魔物を片付けた後ろへと下がる。
「しっかし、どんどん敵が溢れ出てくるね」
「全然余裕だけど、ちょっと面倒になってきた」
息も切らしていない当たり嘘でもなさそうだ。
まあ、私の魔法は燃費がいいし、魔力量だけは結構持っているから同じことが言えるけれど。
すると、怖気づく兵士達を割って出てきたプレガスが、揚々とした様子でこちらに叫んできた。
「と、当然さ! なにせ、ここには一番兵を集めているからね。君達ごとき物量で押し殺してやるさ!!」
「あ、いたんだ」
「……ッ!!」
ナチュラルに煽るリーファに、怒りやらなにやらで形容できない顔になるプレガス。
奴は躊躇しながらも魔具のようなものを握りしめているが……あれはなんだろうか?
……追い詰められた時に使う、魔具。
今使わないのは味方を巻き込むものか、それとも自分の身に危険が及ぶ可能性のあるもの。
プレガスという男が味方を気遣うような奴ではないのは、なんとなく分かるので、後者の可能性が高そうね。
「リーファ、“あれ”を出すわよ」
「……もう?」
こちらをげんなりとした顔で振り向くリーファ。
そんな彼女に私は笑顔で頷いて見せる。
「今使うのが最高に決まってるじゃない! さあ、私達でやるわよ!!」
「しょうがない、分かったよ」
地面に手をついたリーファが、影から大きな物体を引きずり出す。
優に2メートル超える、ソレはちょっとした丸太ほどの太さの銃身持っており、それを支える台も相応の大きさを誇っている。。
影を操りソレと地面を固定してくれたのを確認した私は、両手でグリップを掴み、その照準をプレガスのいる方向へと向け、魔力を籠め“装填”させていく。
「え、なにそれ」
魔力を燃料にさせ、キュィィンという回転が響く。
なにが起こるか理解できないだろう。
なにせ、こんな兵器はこの世界には絶対にあるはずがないのだから。
漠然とした恐怖に顔を青ざめさせるプレガス達に、私は満面の笑顔をプレゼントする。
「悪魔の銃って言うのよ。しっかり治癒をかけてあげるから、安心して思う存分に食らってね♪」
「ッ! ぜ、全員退———」
「発射♪」
瞬間、ズガガガ!!! という音と共に緑色の治癒の光を灯した矢が連続して放たれていく。
何百にものぼる矢の雨に逃げ惑う兵士達。
痛みにもだえ苦しむ悲鳴。
ドン引きするリーファ。
まさに、悪魔の兵器ともいえるソレを目にしながら私は、引き金を引き続けるのであった。
やべぇ兵器の正体は異世界産ガトリングでした。
リーファの影倉庫が便利すぎる。
最低限の情けはかけるがそれ以上は許さないセーラでした。
新しい魔具を得たことによりカイトと似た戦い方ができるようになりましたね。




