第二百六十六話
第二百六十六話です。
夜、日が沈み周囲が暗闇に包まれた頃。
それぞれの準備をしっかりと整えた僕達は、魔王軍への襲撃を間近にしていた。
「他の二つの拠点と襲撃するタイミングを合わせる。ちょっと待っていてね」
僕達以外の二つ勇者グループの元にいる分身達と交信するリオンさん。
彼女を見つつ僕は、自身の使い魔達の様子を確認していた。
「カイト」
「ん?」
「暗いところにはこの服がいい」
おもむろにリーファが自分の影から取り出した黒いコートを渡してくる。
僕が以前、着ていたコートではあるが……そうだな、この状況ならこっちの方が目立たずに済みそうだ。
「そうだね。ありがとう、着させてもらうよ」
「どういたしまして」
「これはあれかしら? さも当然のようにリーファがカイトの私物を持っていることに疑問を抱いてはいけないのかしら……?」
「きぃー!」
「あら、これは嫉妬音かしら?」
またもやチサトがおかしな音を出していることを華麗にスルーしながら、コートに袖を通す。
……フッ、これに袖を通してしまったのならば、やるべきことは一つだな。
笑みを浮かべた僕はリーファへと振り返る。
「それに覆面を返してくれ」
「は?」
初めてだよ、君のそんなドスの利いた声を聞くのは。
だが待ってほしい。
これにはしっかりとした理由があるんだ。
「聞いてくれ。大事なことなんだ」
「なに? 私を甘やかすこと以外の話は聞かない」
「君達勇者は魔王軍にとって、マークされている存在だ。当然、その魔法を知られているから、顔を隠すことによって戦法を悟らせずに済むんだ」
「待って、もしかして私達に覆面を被れって言ってる? 正気?」
酷い言われようだ。
僕は最初から正気だぞ。
「か、カイト、これから真面目に戦闘するのだぞ。……キッシュ、アル、おぬし達もなにか言ってやれ」
「あー、ボク達も反対っちゃ反対なんだけどね……」
「むぐ、我々の主が、恐らく……乗り気……」
すると、僕のところにチサトとセーラさんがやってくる。
「カイト君、そういえば噂に聞いた覆面はどうしたの?」
「リーファに箱ごと没収された」
事実を口にすると、チサトとセーラさんは衝撃を受けたような表情を浮かべる。
「なんてことしてくれるの……!?」
「酷い……かわいそう……」
「姉さん、これ私が悪いの? 私の常識が間違っているの?」
「ううん、この人たちがおかしいだけだと思う……」
未だに返してもらってないのは中々に酷いと思うんだけど。
リーファの影の中にある時点でもう奪取は不可能みたいなのも酷い。
「タイミングを合わせたよ」
「あ、終わりましたか。……リオンさん、その腕に抱えたものは……?」
「ふふ、これはね。はい、どうぞっ」
にやりと、どこかウキウキした様子の彼女はおもむろに僕に腕に抱えたなにかの一つを渡してくる。
困惑しながら受け取り、魔具の明かりで照らしてみる。
「これは……!? リオンさん、これをどこで!?」
僕に渡されたのは顔の部分にヘンディル王国の紋章が刻み込まれている覆面であった。
僕以外に渡されたのは、覆面ではなく目元だけを隠す仮面であったがそれでも、驚きが隠せない。
「フッ、私を誰だと思っているんだい? 神獣だよ? いつだって時代の最先端を掴む私は、当然、これからの時代に台頭するであろう、勇者ブームを読んでいるのさ。なので、当然、各国になぞらえた仮面シリーズも自作しているのさ」
「あんたは暇なのかぁ!?」
「姉さん落ち着いてっ!?」
ものすごい必死な様子でリオンさんに飛び掛かったニーアを押さえるリーファ。
彼女たちの手には、覆面型とは異なる、目元だけを隠せる仮面があるがどうやら本人的にはお気に召さないようだ。
「神獣はね。長く生きすぎて常に刺激を求めているんだ。なので、こういう面白いことは実践していってほしいね」
「おい、神獣この野郎! 悪乗りが過ぎるよ!!」
「そうだそうだ! 私達の気持ちを考えろー!!」
「それにだ!」
リーファとニーアの声を遮ったリオンさんが僕の手にある覆面を指さす。
「それはただの仮面じゃない。私の遊びごこ……様々な機能が取り付けられてるのさ」
「今、遊び心って言ったね……!?」
機能?
なにかしら術が施されているのか?
半信半疑で覆面を被ってみると、すぐにこれまで被っていた覆面と違うことが分かった。
「こ、これは……この暗い中で、昼間のように見える……!?」
「これは暗視の役割を果たすように術を施したからね。カイト君の覆面は、視界もよく見えるようにしている優れものさ」
覆面の欠点は視界の悪さであった。
そのおかげで感覚を研ぎ澄ませることができたわけだが、今ではその問題もなくなり鮮明に見渡せることができる。
「これで今までの私の疑念を晴らしてもらえれば――」
「リオンさん、今まで疑っていてごめんなさい……!」
「そこまで許してくれるの!? え、えへへへ! ……ハッ!? わ、私が言うのもなんだけど、君は安易に私を信じちゃ駄目だよ!!」
注意されてしまったが、これは本当にすごい。
これがあればこの暗い中でも普通に移動できる。
「セーラ様、私はこれを被る度胸はありません……」
「イオ、やっぱり無理なのかしら?」
「はい。正直、耐えられません」
花の装飾が施された仮面を手にしたイオさんが申し訳なさそうにセーラさんに話しかけている。
どうやら、仮面をかぶることに抵抗があるようだ。
「いいの? 貴女だけよ? 一人だけ仮面をかぶってないと、逆に目立つわよ? ―――一生のお願いよ、被って?」
「……うぅ」
「おい、セーラ! それは駄目だと思うよ!?」
「一生のお願いとか絶対に信用できないやつ!」
たしかにこの覆面は僕が被ってみたいという内なる欲望から来るものではあった。
しかし、事実リオンさんによってつくられたこれの有用性は計り知れないものがある。
「イオさん」
「か、カイトさん……」
「これをつければ、きっと貴女のためにもなるはずです……大丈夫、心配なんてないから」
「……わ、かりました。被ります」
意を決したような表情で仮面を目元に当てた彼女に安堵する。
いつのまにか少し違う花の装飾が施された仮面を被ったセーラさんがガッツポーズをしているあたり、よほど嬉しいようだ。
「なんで、カイトって時々おかしくなるんだろう……」
「普段のストレスが凄すぎるんだと思う……」
「……私達のせいか……! クッ」
覆面を改めて被り、シフが変身した帽子を被る。
リーファとニーアは観念したのか、ものすごく嫌そうにしながら仮面を被ったところで全員の準備が完了する。
「さあ、作戦開始だ。私にできることはここまでだけど、君達のことはちゃんと見ている。……相手はとてつもなく強大な相手だ。皆、心してかかるようにね」
リーファが自身の影を広げる。
それを目にしながらリオンさんの声に頷いた僕は、今一度全員を見回す。
僕以外の全員が目元を隠す仮面をかぶっているので、もし敵と遭遇するようなことがあってもうまく混乱させることができるだろう。
……よし。
「生きて帰りましょう……!」
「どうしよう、もう帰りたくなってきた」
「こんなんで魔王軍と戦えるのかな……」
なんだかリーファとニーアの落ち込んだ声が聞こえるが、そんなことを気にせずに僕は彼女の影へと飛び込むのであった。
定期的におかしくなるカイトでした。
なにが彼をそこまで駆り立てるのか……。
あれ、おかしい……この話で潜入開始しているのに覆面の下りで終わってしまった……(白目)




