第二百六十五話
第二百六十五話です。
魔王軍の根城があると言われる場所の近くに到着した。
到着して最初に行ったのが、馬車の変形による拠点の作成と、リオンさんの能力で作り出した樹木によるカモフラージュだ。
その作りはとてもすさまじく、傍目で見ても全くそこに馬車があるなんて分からないくらいに隠れ切っている。
「仮の拠点ができたとして、肝心の魔王軍の根城はどこに?」
「ん、あそこだね?」
木々の間で周囲を見回している僕にリオンさんが指を指し示して教えてくれる。
彼女の指を追っていくと、そこにはポツンと小さな木製の小屋がある。
「……地下ですか」
「察しがよくて助かる。そう、魔王軍の拠点とは地下に広がる地下世界のことを言うんだ。ここでは特殊な鉱石もとれるし、何より近くに大きな川があるからね。潜むにはうってつけの場所ってわけさ」
合理的、ではある。
地下に拠点を作ってしまえば傍目からは全くその全容が分からないし見つかりにくい。
それを見つけてしまうリオンさんが反則級なだけで、普通だったら見つかることはないのだろう。
「私のイメージは天のそびえたつでっかいお城だった」
「ははは、僕も同じのを想像していたよ」
隣で聞いていたチサトの呟きに僕も同意する。
「きゅん」
「なぜ今、ときめき音を……?」
不整脈かな?
チサトの良く分からない呟きに困っていると、ぱん、と手を叩いたリオンさんがこの場にいるリーファとセーラさんを指さした。
「まずは軽い偵察に出てもらおう。リーファ、セーラ。お願いできるかな?」
「え、私とセーラ?」
意外な組み合わせだ。
不思議そうに首を傾げるリーファに、リオンさんは丁寧に説明しようとする。
「ああ、君がセーラと共に影で移動する。君の隠密能力と、セーラの索敵能力を使えば早々は見つからないだろうからね」
「そういうことなら、よろしくね。リーファ」
「うん、よろしく」
たしかに能力的な相性はいいな。
なにより、リーファの影にはセーラさんの魔筒の弾薬と“アレ”が収納されているし。
「キッシュ、行くわよ」
「むぐ、任せておけ」
両腕でキッシュを抱き上げ、頭に乗せたセーラさん。
ゆっくりと黒色のベレー帽へと姿を変えたキッシュを連れた彼女は、リーファの影に飛び込んだ。
「じゃ、行ってくる。ご飯、残しておいて」
「ちゃんと君の分もとっておくよ。……気を付けてね」
「うん」
リーファ自身も影に入りこみ、そのまま影から影へと高速で地面を移動していく。
彼女の姿を見送ったリオンさんは、こちらを振り向いた。
「君達は彼女達が戻ってくるまで待機。きっと、大変な戦いになるからね。襲撃に備えての準備や、食事を済ませておくといい」
リオンさんの言葉通りに準備を進めようとすると、チサトがリオンさんに話しかけようとしていることに気付く。
先ほど軽口を呟いていた彼女は真面目な表情だ。
「リオンさん」
「はいはい、なにかな?」
「今回の襲撃。ちょっと無計画すぎないかな?」
チサトの指摘にリオンさんは少し驚いたように目を丸くさせる。
「拠点を立てるのもいいけど、もっと時間をかけて策略を練るべきだったと思うんだけど」
「あー、うん。そう思うのも分かる。……というより、それを一番私が思っていたことなんだ」
「貴女も……?」
「いくつもの条件が重なって、今しかなかったんだ」
今しかなかった?
不思議そうにする僕達にリオンさんは人差し指を立てる。
「魔王軍の戦力が三つに分散されていることと、魔王の存在が確認できていること。他にも理由はあるけれど、これが襲撃に踏み込んだ大きな理由」
「もっと時間を用意できなかったの?」
「いつ魔王軍が動き出していてもおかしくはなかったからね」
……リオンさんの言っていることも分からなくもないが、なんかちょっとだけ違和感がある。
それがなんなのかは分からないが、心に引っかかるようなそんな感じ。
「あと、この作戦の出たとこ勝負っぽいのも。この拠点が一日もしないうちに見つかってしまう可能性があるということだね」
「貴女が術を施したのに……?」
「うん。それくらいに厄介な存在が相手にいるようなんだよね。……その上、相手側のアジトが地下にある時点で偵察もままならないし、碌な作戦も立てられない」
地下じゃ外観で大きさが分かるわけじゃないしな。
それじゃあ、今回の要は隠密能力の高いリーファの魔法ということになるな。
「でもそれってもっと早く言ってくれれば良かったんじゃないの?」
「そう、ですね。それなら我々ももっと別なやり方ができたと思うのですが……」
「……ぎくっ」
チサトとイオさんの指摘に、リオンさんが図星を突かれたように肩を震わせる。
その反応にチサトは、呆れたため息を零す。
「貴女ってあれだよね。なまじ私達以上に物事をよく知っているから、結果しか見ていない。例えるなら、ゲームをする前に攻略本を見て満足しちゃってる感じ」
「チサト、その例えは僕にしか分からないから」
「きゅん」
「しつこいよ?」
「しゅん……」
落ち込み音!? まさかの変化球に素で驚く。
「いや、それに関しては私が全面的に悪い。うん、それは認めるしかない。私も中々に焦っていたからね」
「焦っていた?」
「本当は、もっと時間をかけて事を進めるべきだったんだけど、どうしても計画を早めなくちゃいけないアクシデントが立て続けに起こってね……。……ハァー、本当に困っちゃうよ」
本当に困った様子でため息をついたリオンさん。
この状況は彼女にとっても予想外なことだったのか? 神獣であるリオンさんが?
僕が彼女に疑念を抱いてしまったせいか、つい今彼女が口にした言葉もどこか引っかかるものがある。
一応、鎌をかけてみるか。
「ははは、リオンさん。それじゃあ、まるで貴女が魔王軍も操っていたみたいな言い方に聞こえちゃいますよ」
「それはありえないよ。魔王軍に関しては私は全く関係ないさ。ふふふ」
「……」
「……ホントダヨ?」
薄っすらと目を細めると、リオンさんは僅かに視線を斜めに逸らす。
……この件が全て片付いたら追及しよう。
この人は味方なのだ。
隠し事が多すぎて、いまいち信用度を上げられないけれど味方なのだ。
それを自分に言い聞かせながら僕は軽く深呼吸をする。
「……準備、しようか。チサト、イオさん」
「うん」
「はい。リーファ様とセーラ様が戻ってくるまでに軽い食事を作っておきましょう」
それぞれの準備に取り掛かりながら僕は遠い先にある魔王軍の本拠地のあるであろう空間を見据える。
地下にある魔王軍。
そこにどのような敵がいるかは未だに分からないが、ここまで来たからには腹を括らなければいけないな。
常に新しいネタを提供し続ける勇者、チサトでした。
真面目な時とふざけている時の違いが分かりにくいのが酷すぎる……。




