第二百六十三話
第二百六十三話です。
魔王軍への襲撃は、きっとこれまでの戦いよりも苛烈なものになる。
脱獄した魔王軍幹部と、魔王。
その時点で想像できないほどの脅威ではあるが、同時に魔物を含めた兵士達も配置されていることから、無茶な行動もあまりできなくなっている。
できるだけ余力を持ちつつ、魔王の存在を確認、可能なら倒す。
それで、この大陸の人々を脅かしている魔王軍を終わらせることができる。
「チサト、リーファ。無理を言ってごめんね」
「なんでもお願いを訊くと言われたら、さすがの私もやらざるを得ない。ね、リーファ」
「うん」
「そこまで言ってないからね……? あれ? 早まったかな?」
首を傾げていると、チサトの肩に乗っている黒猫、アルが同情するような視線を送ってくる。
「カイト、チサトは超絶面倒くさい女だから、真に受けない方がいいよ」
「大丈夫、気にしてないから」
「あれれ? これは気にされてない方が私のダメージが大きいのでは?」
30メートルほど離れた場所に、チサトが水で作ってくれた直径10メートルほどのブロックがある。
中にも圧縮された水が入っており、それを覆うようにリーファの魔法によって操られた影が覆う。
なぜ、二人がブロックを作っているかという理由については、僕の新しい技を試すつもりだからだ。
「カイト、ここまで必要なの?」
「うん、下手すると山にぶつかって削り取っちゃうかもしれないからさ」
「いったい何をするつもりなの……?」
「とりあえず、魔法を保ったまま僕の後ろに下がってて」
用心はするけど、もしもということがあるのでリーファとチサトには僕から離れた場所に移動してもらう。
目の前の“的”を見て、軽く深呼吸をした僕は自身の腰に下げている水筒に手を添える。
「ライム、金棒」
「キュ」
桃太郎に登場する鬼が持つようなバットにトゲトゲがついた金棒を右手で握りしめた僕は、ユランの控えてる左腕を前に突き出す。
「ユラン、魔力玉」
「シャァー!」
ユランの作り出す魔力の鎧はその形状を自由に変化させることができる。
それを足場にすることもできるし、球体状にすることだって可能だ。
鱗模様の透明な球体が僕の掌に収まったところで、僕はさらに帽子に変わったシフと、傍に控えているハクロに命令を下す。
「シフ、金棒に電撃。ハクロ、魔力玉を浮かせて」
「どうなるか不安だが、やってみるか」
「ウォン!」
金棒にシフの電撃が付与されると同時に、僕が軽く放った魔力玉にハクロが入りこむ。
風を操り、僕の前にふわりと浮かび上がった魔力玉をゆっくりと見据えた僕は、金棒を持つ右腕を大きく振りかぶり―――今の自分にできる最大の部分肉体強化を施す。
「ハクロ、方向修正、直撃と同時に風を解放」
『ウォン!』
「いくぞ……!」
渾身の力で金棒を振り回し―――眼前で浮かぶ魔力玉に叩きつける。
最大の肉体強化の力で殴り飛ばされた魔力玉はとてつもない速さで、真っすぐと影に包まれた水のブロックへと直撃———そのまま、爆散する。
解放された風と電撃は周囲に衝撃をまき散らしながら、水を空高く舞い上がらせる。
「テイマーズサイクロン……ボム!」
「凄まじい技だが、相変わらずのセンスだな……」
すごい技を作ってしまったな……!
「それに加えて、この金棒。気に入った」
「キュー!」
「この形態の名を須雷武棒としよう」
「キュフゥ―――!」
「それはさすがにやめてくれ……! ライムも喜ぶな!!」
さすがにかっこよすぎたか……。
戻ってきたハクロを撫でて労いながら、チサトとリーファの方を向くと、二人は感心した様子でこちらへ近づいてきていた。
「またえげつない技作ったね」
「これでも押さえたんだけどね」
「……マジ?」
「うん。やってはいないけど、ここに神獣の雷を合わせることを考えていたけど……」
「私が止めた。そのような危険なこと、カイトにはさせられん」
シフに止められてしまったからな。
「あと、アルとシフでダブル純魔サンダーの要領で出すことも考えたけど―――」
「私が止めた」
「いや、なんでだよ。ボクも力になれるぞ」
ムッとした顔になるアルにシフも気まずそうに視線を逸らす。
僕としては理由を知っているので様子を見守る。
「む、むぅ、だが私とおぬしの二人で同時に技を出すのと、合わせるのでは勝手が違うからな。下手をすれば、私とおぬしの電撃が反発し、カイトだけではなく私達にも被害が及んでしまう」
「……お、おう……そういうことなら、先に言ってよ……怒って悪かった」
「いや、こちらこそ。誤解させるような言い方になってすまない」
ぎこちなく言葉を交わすシフとアル。
そんな彼らのやり取りを無言で見守る僕は、ポケットから取り出した手帳にサラサラと文字を書きなぐる。
「カイトよ。何を書いている」
「え、先日イオさんと始めた使い魔日記」
「本当に何を書いているのだ!?」
「君は僕の一番の相棒なんだから書かなきゃ駄目だろ!!」
「む!? う……うむ……」
勢いで誤魔化しつつ、手帳をポケットにしまう。
シフが、アルとキッシュという兄弟たちと仲良くなっていることは僕にとってはこれ以上になく喜ばしいことだ。
うんうんと頷いていると、今度はリーファが僕に話しかけてくる。
「カイト、最後の調整はできた感じかな?」
「新技も成功したし。携帯用の食べ物も昨日出来上がったからほぼ準備は終わっているね」
「私も姉さんも準備はできてる」
今日で襲撃作戦、開始一日前。
明日の早朝に魔王軍が拠点とする場所へ向かい―――その夜に襲撃を開始する。
既に各々のやるべきことは分かっているが、今回の作戦では目立たないことが重要だ。
僕達が戦うのは最終手段。
まあ、そこで初めて暴れることを許されているようなものだが、それまではリーファとニーアの独壇場になるだろう。
「あ、イオだ」
「ん?」
リーファの声に我に返ると、彼女の見ている方向からイオさんがやってくる。
彼女はどこか思いつめたような表情で僕の元にやってくる。
「カイトさん、少し、お話がしたいのですが……よろしいでしょうか?」
……これは、あれだな。
リオンさんは、イオさんに自身の持つ魔法の起源を話したようだ。
チサトとリーファにシフ達を預け、目配せをした僕はイオさんと共にその場を離れる。
「リオンさんから聞いたんだね」
「はい。私の力が、その神獣に由来するものとは……驚きました」
そりゃ驚くよなぁ。
僕の認識がおかしいだけで、神獣というのは人間にとってはとても遠い存在だ。
イオさんにとってはきっと驚きどころではない事実だったに違いない。
「正直、その事実を知ったとして今の私の思いは変わりません。これからも、私は自分の魔法と向き合い、悩んでいくことになると思います」
「……そっか」
自分の魔法がどこから来たか関係なく、彼女が植物の命を尊ぶ事実は変わらない。
「リオン様に怒りを抱いたわけではありません」
「無理をしなくていいよ? 怒れなければ僕が代わりに怒るけど……」
「い、いえ、本当なんです。悩みに悩んではいますが、私もこの魔法が好きですから」
まあ、そうでなくちゃ従者として戦う道を選ぶはずがないか。
よく考えれば、イオさんのことを大事にしているセーラさんが止めるだろうし。
「もしかしたら、リオンさん以外に自分の力を人間に分け与えている神獣がいるかもしれないね」
「……かもしれませんね」
「……」
「……」
不自然な沈黙が続く。
何も話すことがないわけではないけど……イオさんは僕に何かを伝えたいようだ。
「リオン様が……私に神獣の力を授けてくれる、そうです」
「……危険は、ないんだよね?」
「はい。あくまで権限を与えるだけなので、リオン様本人の了承なしでは使えないようになっているらしいです。それに……」
立ち止まった彼女が僕の方を向く。
「それを使うにはカイトさんの純魔の魔力が必要ということなので……元より私一人では扱えないようにしているのだと思います」
「ちゃんとセーフティがあるなら、大丈夫か」
ライザさんがシフに“神獣の雷”を授けてくれた時と同じか。
やはり純魔の魔力が、神獣の力を発動させる鍵と見てもいいのか。
……そこらへんは後でリオンさんから聞いておこう。
「セーラ様には既にお話しました」
「彼女はなんて?」
「さすが私の従者、鼻が高いわ。花だけにね!……と」
「……セ、セーラさんらしいなぁ」
なにもそこまで声真似で再現することなかったんじゃ……。
思いつめた表情でオヤジギャグが飛び出してきたからどんな顔していいか分からなくなったわ。
「話を受けようと思います」
「いいの? 今更だけど、神獣と深く関わることになるかもしれないんだよ?」
「構いません。元より、セーラ様が既にそのつもりのようなので、私も御供する所存です」
セーラさんもイオさんも思い切りがよすぎるな……。
正直、頼もしいことこの上ないが、これまで関わってきた神獣のことを考えると不安もある。
……いや、それよりも―――、
「まずは、明日を乗り切ることだな」
「ええ、力を尽くしましょう」
これまではただ攻撃されるだけだった僕達がようやく魔王軍に対して反撃することができるのだ。
緊張しないはずがないが、こちらには頼れる仲間達と使い魔達がいる。
……とりあえず、これまで好き放題してきた魔王は一度ぎゃふんと言わせてやるくらいの覚悟で行こう。
イオは“神獣の樹木”を授けられた!
技の仕組み自体はシフとほぼ同じですね。




