第二百六十一話
第二百六十一話です。
今回はニーア視点となります。
セーラの新しい武器はめちゃくちゃヤバいものだったらしい。
私とリーファとイオは、彼女の新しい武器を見ていなかったわけだけど、それを見たカイト君達の表情と言葉からどれだけ滅茶苦茶なものが来たかを察した。
『めっちゃやばかったぞ』
『やばかったね』
『やばかったわね』
『人間ってやっぱり面白いなぁ』
と、こんな感じのコメントを屋敷に戻るなりされてしまったので、ものすごく気になってしまった。
というより神獣であるリオンが驚いている時点でやばいと思った。
「……」
魔王軍拠点を襲撃するまで二日を切った日の夜。
私を含めて各々が戦いの準備を進めている中、私は一人、誰にも明かすことのできない大きな問題に頭を抱えていた。
「どうしよう、イリスのこと……」
今も尚、魔王軍にいるであろう友人。
魔王軍の作戦のほとんどを考えていた彼女は、ほぼ確実に魔王のいる拠点にいると私は考えている。
そして、ここにリオンの本体がいるとしたら魔王が私達が攻め入る拠点にいる可能性が高い。
「うわぁぁ……」
自室で一人、頭を抱える。
イリスが私と友人で、魔王軍の幹部だったというだけならそれほど問題はなかったのだ。
私から、カイト君達とイリスを説得できる可能性があるけれど、一番の問題はイリスとカイト君達が知り合いな上に、カイト君達からものすっごい信頼されていることだ。
「あのイリスがなぁー」
聞けば、神獣であるメリアとかいうどう考えてもやばい奴相手に一人、命がけの足止めを行ったとかなんとか。
私からすれば、いっつも死んだ目で自分以外死ねとでも言ってもおかしくない頃のイリスが、命がけで他人を優先させたという事実に驚いた。
まあ、彼女にとって衝撃的すぎる出来事がヘンディル王国で起こりすぎたことも要因の一つなのだろう。
「まさかの父親と再会……」
イリスが魔王軍に入った理由は知らなかったけれど、なんとなく復讐目的なのは予想がついていた。
そういう目もしていることもそうだが、復讐目的じゃなければイリスのような真面目なエルフが、あんなクソみたいな環境である魔王軍に入るとは思えなかったからだ。
彼女のいた集落のエルフ族との確執と、彼らの悪意に晒されていた彼女の父親。
そして、その父親とヘンディル王国で予期せぬ再会を果たすイリス。
「あぁぁ、魔王軍に戻った理由も分かってしまうぅぅ……」
イリスが魔王軍に戻ってきたのは、自分を虐げ欺いてきたエルフ族への復讐のため。
また別の理由があるかもしれないが、カイト君が彼女から姿を消した理由が―――、
「ふー」
「ひぃっ!?」
いきなり耳元で息を吹きかけられ、その場で飛び上がりそうな勢いのまま椅子から転げ落ちる。
床に体を叩きつけられそうになるところで、誰かが私の身体を支えてくれるが―――私の混乱は別のものにあった。
だ、だだ、誰!? 私に気付かれずにこの部屋に入った!?
驚きのままに顔を上げると、そこには綺麗な緑色の髪が―――、
「あ、や、やややばばば……」
「いやぁ、ノックしても勝手に入っても気付かないから、つい悪戯してしまったよ」
神獣、リオン。
先日ここに泊まるようになった私の最大のトラウマが、私をぬいぐるみのように抱きしめている。
無駄にいい匂いと、暖かさに普通なら落ち着くはずなのだが、私からすれば肉食獣に首を噛みつかれているようなものだ。
「ど、どうして私の部屋に……」
「君が面白いことを呟いていることに気付いてね。来ちゃった」
来ないで。
てか、さっき勝手に入ったって言ったよね?
神獣にはプライバシーもなにもないのか……!
リオンは私を抱えたまま、椅子に座る。
「イリス、彼女はとても奇妙な人生を送るエルフだ」
「……!」
こいつ、イリスのことを知っているのか?
……いいや、神獣ならどこに“目”を持っていても不思議じゃない。
「私はあまり魔王軍の内情については話さないつもりではいたけれど……君だけには教えておこうか」
「……?」
「君達が攻め入る場所に、彼女はいる」
「!?」
イリスがいるの!?
それをどうしてリオンが教えてくれるのかは分からない。
混乱する私の頭を撫でつけたリオンは私の返答を待たずに
「イリスという少女の存在は、私にとっては予期せぬ存在に他ならない」
「……少女?」
「……あの子は、18歳だよ」
イリスが、じゅうはっさい?
え、嘘だ。どう見ても大人びた見た目をしているし、性格なんて人生に疲れ切った人みたいな感じなのに、私と一歳しか違わないの……!?
今日一番の驚愕だ……。
「ぶっちゃけるとカイト君に関連することは七割方、想定外のようなものだね」
「えぇ……」
「だからこそ、価値がある。そうでなければ私“達”は興味を抱かない」
断言するように言葉にした彼女は、私を抱きしめる腕の力を緩める。
「この事と、君の隠している事実はカイト君達に明かしても構わない。それをするのは、君の自由だ」
「……なにを、考えているの?」
「別になにもないさ。今の彼らなら、その事実を受け止められる強さを持っている」
そのままゆっくりと腕を解き、私を解放する。
身体が自由になったところで背後を振り向くと、そこには既にリオンの姿はどこにもいない。
まるで、最初からいなかったように静かになる部屋。
「……はぁぁぁ」
神獣が自分勝手な存在だと改めて認識しながら、私は椅子に座る。
———イリスのことをカイト君に明かすべき、か。
今度は別の問題に思い悩んでいると、不意に私の部屋の扉がノックされる。
「……リーファ?」
この時間に尋ねてくるとしたらお菓子を求めて徘徊するリーファくらいしか思い浮かばない。
とりあえず、扉を開けるとそこには肩にシフを乗せたカイト君がいた。
「カイト君。どうしたの?」
「え、君が僕のことを呼んでいるって、リオンさんが……」
「……」
あいつぅぅ!?
本当に余計なことしかしないね!?
人はそんなすぐに即断即決できる生き物じゃないんだよ!?
平静を装いながら、リオンへの恨み言を思いながら彼を部屋に迎え入れようとする。
「うむ、片付いているな」
「さすがに人のうちだから……母さんにも怒られたからってこともあるけど」
前に実家に帰った時はその辺についてもめっちゃ怒られたからなぁ。
「それで、どうして僕を呼んだの?」
「あ、えーっと、話したいことがあって……」
「……何か、大事なこと?」
さすがというべきか、人の機微に鋭いカイト君。
私としてはもう少し考える時間が欲しかったわけだが、ここに彼が来てしまったからには少しは話しておくべきだ。
……もう、襲撃まで二日を切っているのだから。
「イリス……のことなんだけれど」
「イリスさん?」
「彼女がどうしたのだ?」
首を傾げるカイト君とシフに私は少し言い淀む。
「イリスはね……実は……」
「実は……?」
……話してもいいのか?
ここでイリスの秘密も明かしても意味はないんじゃないか?
———何か、重大な何かを見落としている気がする。
イリスは間違いなく、カイト君とリーファを守るために神獣を足止めしようとしていた。
その時点でイリスが魔王軍に戻る理由は復讐以外にはなかった。
だけど、復讐心が残っているならわざわざやばい神獣の囮を自分からするだろうか?
「カイト君」
「ん?」
「イリスはさ、神獣の足止めをした後……どうやって戻ってきたの?」
「イリスさんは、メリア……神獣に連れられて戻ってきたんだ。無傷とはいかなかったけど……」
もし、イリスが自分から囮をしたときに生きて帰るための策があったとしたら話は違ってくる。
カイト君を攫ったという蛇の神獣。
セントレアルで、私につけられていた蛇。
魔王軍に潜む、神獣。
「……ッッ」
寒気が止まらない。
まさか、イリスが招き入れたのか?
「ニーア、どうしたんだ? 顔が真っ青だぞ。お腹が空いたのか?」
「カイトよ、顔が青い=お腹が空いたのはちょっとおかしいと思うぞ」
今、私がイリスの正体を明かすべきじゃない。
そうすれば自然と彼女に繋がっているかもしれない神獣のことも分かってしまうかもしれない。
その神獣の地雷がどこにあるのかも分からない今、迂闊に行動することができない。
「な、なんでもないよ。ただ顔を会わせたかっただけなの」
私は、気遣ってくれるカイト君に引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。
まさかの目の前にいるカイトが、メリアの地雷だとは思いもしなかったニーアでした。




