第二百六十話
第二百六十話です。
セーラさんに呼ばれ厨房から出た僕は、いつもの訓練場隣の射撃場へと向かう。
その途中に行き会ったキッシュとアルにシフと使い魔達を預け、目的地へと到着すると射撃場には、セーラさんではなく―――チサトとリオンさんがいた。
なぜかチサトはセーラさんが前まで使っていた魔筒を持っており、それを十メートルほど離れた的へ向けて撃とうとしている。
「そぉい!」
迫真の声と共に引き金を引くチサト。
セーラさんと同じような感じに魔法が飛んでいくと思われたが、魔銃の銃口から飛んだのは水であった。
それも勢いよく飛んだものではなく、水鉄砲のような威力にチサトは不満そうな表情を浮かべる。
「なにこれ、おしっ――」
「こらァッッ!!」
チサトの予想外の言動にかつてないほどの驚きを見せたリオンさんが振り返ると同時に、僕は反射的に彼女を叱る。
「……あ、来たんだね、カイト君。今からこれを撃ってみようと思うんだけど、見てみる?」
「さっきのことをなかったことにしようとしてる……!?」
「え、私はおしるこって言おうとしたんだよ? 勘違いしないでね?」
なんていうふてぶてしさだ……。
すると、何を思ったのかチサトが僕に魔筒を渡してくる。
「え、なに?」
「カイト君も撃ってみて」
「えぇ……まあ、いいけどさ」
僕が使っても意味ないと思うけど。
しかし興味がないこともない……いや、むしろバリバリ撃ってみたかった思いはあったので内心ワクワクしながら、的へと向けて構えてみる。
「……」
魔力を籠めて無言で引き金を引く。
イメージでは金色のビームのようなものが出ると思ったが、出たのは―――、
「わあ、綺麗」
金粉であった。
正確には霧状となった純魔の魔力が銃口から溢れ出ているだけなのだろう。
……思ったやつとは違う……!
僕は、こう……ビームを撃ちたかっただけなのに……!
普通にショックを受ける僕の肩にリオンさんが手を置く。
「ま、まあ、いいじゃないか。私は好きだよ?」
「あー、好感度稼ぎしてる。卑しい神獣だー」
「ちょっとそういうことはやめてね……?」
フリーダムすぎるチサトに、さすがのリオンさんもたじたじのようだ。
なんだか異世界に来てから爆発したな、この子……一周回って開き直ったのだろうか。
気を取り直して、魔筒を見た僕はチサトとリオンさんへと振り返る。
「セーラさんは? 彼女に呼ばれてここに来たんだけど……」
「ああ、セーラなら門まで迎えに行ってるから、もうすぐここに来るんじゃないかな。……あ、噂をすれば」
チサトの視線が僕の後ろへと向けられる。
その視線を追って振り返ると、そこには一人で動く大きな荷車と、セーラさんがやってくる。
荷車の傍にはエリーさんもいる。
「あ、来たのね! 私も来たわよ!」
セーラさんがものすごいテンションが高い。
彼女に曖昧な返事をしつつ、ひとりでに動いている荷車へと視線を見る。
布がかけられ中身の見えない積み荷も気になるが……どうしてこの荷車は一人で動いているんだ……?
見た感じ、これも魔具の一種に見えるけど……。
「フッ、こいつに興味があるようだな」
「え、ええ……」
僕が興味を持っていることを察したのか、エリーさんが得意げな表情になる。
「こいつは、私達技術部が作り上げた最新の魔具。自動稼働型荷車、またの名を―――」
「あ、これ車っぽい」
「なァ……!?」
のほほんとしたチサトの呟きに、驚愕するエリーさん。
恐らく、チサトがフィルゲン王国の勇者で、異世界人だという事情を知っていたのだろう。
「クソッ、ひとりでに動く荷車すらもお前達には見慣れたものなのか……!」
「いえ、そうですけど……」
「皆まで言うな。自分の無知をひけらかす趣味はねぇ……! だが、その車ってやつのことを後で聞かせてくれ……!」
「ええ、まあ……はい。分かりました……」
ものすごく悔しそうなあたり根っからの職人気質のようだ。
それから射撃場に備え付けてあるテーブルに近づいた彼女は、荷車に積んでいた鞄を運んでくる。
「……もう一人はフィルゲンの勇者だって聞いたが、もう一人は誰だ?」
「セントレアルからの使者よ。今回の作戦に関わるからここにいるらしいのよ」
「ふぅん」
訝し気にリオンさんを見た後、すぐに手元のカバンを開くエリーさん。
早速、新しい装備について説明してくれるのか、彼女はカバンから一つの魔具らしきものを取り出した。
「装填型の魔銃だ」
「……随分小さいわね」
見た目はハンドガンより一回りほど大きいくらいか。
興味深そうに僕とリオンさんが見ていると、チサトがどこか感嘆とした吐息を零す。
「フリントロック式のピストルに似ているね。コンテンダーの形にも近い」
「……チサト、なんでそんなに知っているの?」
「淑女の嗜み」
どこの国の文化?
あれ、もしかしてチサトって僕よりも銃について詳しい……?
「こいつはお前に渡した魔銃とは違う」
「具体的には?」
「こいつは魔力じゃなくて、この魔力置換型の弾を撃つんだよ」
エリーさんはカバンから、人差し指くらいの大きさの弾丸のようなものを取り出す。
白色に塗られたそれの側面にはメモリのようなものがつけられている。
「魔力置換型というと……」
「ああ、お前が出したアイディアの一つがこれだ」
フィルゲン王国の研究者さんがリーファに渡した魔力置換式の魔具。
僕の純魔の魔力を置換し、僕が離れた時でも純魔の魔力を取り込めることを可能にさせた魔具だが、それをセーラさんの装備に応用できないかと考えて教えてみた。
「この弾自体には大した威力はない。当たっても青あざができるくらいの威力しかない。だが、こいつの本領は別のところにある」
「別のところ?」
「そこの勇者、お前の魔法はなんだ?」
唐突にそう訊かれたチサトは首を傾げながらも答える。
「水だよ?」
「属性系か。なら丁度いい、この弾に魔力を籠めてみろ。横にあるメモリが満タンになるまでな」
「分かった」
弾を受け取ったチサトは白色の弾に魔力を籠める。
すると魔力が弾に吸い込まれるように集中し、弾の側面のメモリが青色でいっぱいになる。
「よし、んでこいつをこの小さいのに装填する」
「中折式なんだ……。ロマンじゃん」
「君は何を言っているんだ……?」
チサトがまた専門用語っぽいのを口にしている……。
ハンドガンタイプの魔銃はガチャリという音を立てて持ち手の部分と銃身がくの字に曲がる。
露出した内側の銃身部分にエリーさんは一発分の弾を込める。
「設計上、一発しか装填できない上にあまり遠くに飛ばないんで、あえて取り回しのいい大きさにしてみた。……使ってみろ」
「わくわくするわね……!」
エリーさんからハンドガンタイプの魔銃を受け取ったセーラさんは、それを両手で構える。
それほど狙いをつける必要がないのか、彼女は引き金を引く。
爆竹が鳴ったような炸裂音と共に、弾が発射され十メートルほど離れた的へと直撃する。しかし、それで終わりではなく直撃すると同時に弾から、大量の水が溢れだし的を一気に濡らしてしまった。
「なにこれ、すっご……」
「弾の発動タイミングは対象に直撃した瞬間。飛距離も弾速もそこまでは速くないが、“矢”しか攻撃手段がないお前にとっては、他人の魔法を撃ちだせるこいつはかなり有用なものだと思うぜ」
他人の籠めた魔力を自分のものとして撃ちだせる。
原理としては簡単だが、とんでもない武器なのはよくよく考えなくても理解できてしまった。
ただただ驚いていると、いつのまにか僕の隣で武器の試運転を見ていたリオンさんは、穏やかに微笑んでいた。
「やはり人間の想像力は素晴らしい。“前に進む”という意思は私達神獣にはないものだ」
「僕もびっくりです」
リオンさんに同意していると、作っておいた弾を全てセーラさんに渡したエリーさんが、今度は荷車の方へと向かう。
「こいつは序盤の序盤。本命はこいつだ」
「このでっかいのが?」
荷車に乗せられた、布が被せられた魔具。
高さが一メートルと少しくらいだけど、装備としてはかなり大きい。
これがそうなのか……?
もしかして自走砲とかじゃないだろうな……?
「とくと見るがいい。これが我が技術部の最恐最悪の兵器だ……!!」
白い布に手をかけたエリーさんが勢いよくそれを取り去る。
「え!? なにこれ!?」
「これは、またとんでもないものを作ったね……」
露わになったソレを目にしたセーラさんとリオンさんは唖然とした様子だったが、一方で僕とチサトは驚きの声を上げてしまうのであった。
最後の兵器については魔王戦までのお楽しみにとさせていただきます。
もうある程度は予想できている方はいるかもしれませんね。




