第二百五十七話
第二百五十七話です。
セーラさんの新たな装備の調整をするべく実戦形式の模擬戦闘を行ったわけだが、彼女の新しい装備、魔銃はかなり厄介な性能をしていた。
銃身を交換することによって銃の種類を増やすことを可能にさせた彼女は、戦闘の最中に関わらず銃身を入れ替え僕の虚をついた戦いを行っていた。
中近距離は連射型と拡散型で牽制と攻撃を行い、距離を取れば遠距離型の銃身から放たれる貫通性のある矢が飛んでくる。
なにより恐ろしいのは、そのお手軽さで一瞬でも飛んでくる矢に意識を逸らした次の瞬間には、銃身が切り替えられ別タイプの攻撃が繰り出される。
僕のあやふやな知識が彼女の役に立ってとても嬉しく思う反面、あまり表立って元の世界の知識を広めてはいけないという考えも浮かんできた。
それからリーファ達とも訓練を重ねながら三日間が過ぎた。
ちっとも動きのない現状に、そろそろ焦り始めた時に―――、
「やぁ! 君の頼れる相談人、リオン先生だよ!」
「「「……」」」
―――ものっっすごいフットワークの軽い神獣が現れた。
優し気な雰囲気の緑色の髪の女性、リオンさんは敬礼するような仕草をしながら挨拶してくれる。
屋敷の玄関で、そんなインパクトのありすぎる登場をした彼女に僕達は無言になる。
しかし、チサトだけは首を傾げるとリオンさんを指さす。
「うわきつ」
「……え? きつ? それどういう意———」
「イオさんッ、リオンさんを案内してあげてください……!」
「は、はい」
ある意味でものすごい失礼なことを口にしたチサトに慌てながら、客間へと移動する。
いきなりの登場に驚いたが、この人ならどこに現れてもおかしくないという納得がある。
この場にいる全員が困惑しながらも客間の席につく。
「んー、外の紅茶も中々に美味しいね」
イオさんが淹れてくれた紅茶に舌鼓を打っているリオンさんを目にしたセーラさんが、声を潜めながら僕に話しかけてくる。
「カイト、あの人ってアレよね。セントレアルの人よね」
「ええ」
「あの滅茶苦茶腹黒くて、裏で何か絶対してそうな顔してる人」
「そこまで言います……?」
割と結構な評価をしているセーラさんに頬を引き攣らせながら、リーファとニーアへ視線を移す。
リーファはリオンさんを訝し気に見ているが、ニーアは……。
「あ、あわわわわ……」
「カイト。なんだかニーアがものすごく震えているんだけど」
顔を青ざめさせたニーアが僕にしがみつきながら震えている。
恐らく、リオンさんがトラウマなのだろう。
……そっとしておこう。
ニーアから視線を逸らしながら、リオンさんへと話しかける。
「それで、どうして貴女がここに?」
「まあ、端的に言うと私がセントレアルからの使者だよ」
「ウィルさんに怒られないんですか……?」
「いつも怒られているから今更さ」
いつも怒られているんだ……。
ウィルさん、心中お察しします……。
「今日は魔王軍の拠点へ襲撃する日取りを伝えに来たんだ」
「「「!」」」
「襲撃決行は五日後の深夜。それまでに各々の準備を整えてほしい」
五日後か、セーラさんの追加の装備が間に合うか微妙だな。
……いや、ここは銃身交換機能が間に合ったことを幸いと思うべきか。
「さて、使者としての役目は終わったところで……次だ」
カップをテーブルに戻し、絡ませた指に顎を乗せた彼女は僕の隣の席に座っているセーラさんと、その後ろで佇んでいるイオさんへと視線を向ける。
「君達からすれば私の正体が気になるところかな? セーラ・ルージェス」
「……ええ」
リオンさんの言葉に彼女が頷く。
セーラさんはリオンさんの正体は知らないが、彼女のどことなく得体の知れない雰囲気を感じ取っているはずだ。
もしかするなら、彼女の正体に当たりをつけているかもしれない。
「まさかここまできて私が普通の使者とは思ってはいないだろう?」
「……そうね。セントレアルの救護班の一員だった貴女がどういうわけか所属の異なるであろう使者になっている時点でおかしいことだらけね」
救護班? ……もしかしてウィルさんとの戦いの後で気絶した時か。
後々リーファから僕を連れて行ったのは変装したリオンさんだって聞いていたし。
「あとは……」
「いや、もう十分。私の正体は神獣さ」
「……ずいぶんとあっさり教えてくれるわね。それを私達に教えてもいいのかしら?」
驚きに目を丸くしながらそう訊くセーラさんにリオンさんはニヤリと笑みを浮かべる。
「構わないよ。君達二人は信用に値すると判断したからね。私にとっては君が簡単に信じてくれる方が驚きだよ」
「だって貴女やばい雰囲気しているんだもの。得体が知れない、私……いや、ここにいる一人を除いた全員を手駒としてしか見ていない目をしている人が普通の人間とは思えるはずないじゃない」
「……うんうん、その“本質を見抜く”素養はまさしく勇者に相応しい力だ。素晴らしい」
ぱちぱちと拍手をするリオンさん。
拍手をした後にすぐに手を合わせた彼女は、首を横に振る。
「しかし、勘違いをしてほしくはない。たしかに私はカイト君を特別視してはいるが、別に君達を都合の良い駒とは思ってはいない。むしろかなり評価しているんだよ?」
「評価、ですって?」
「規格外の魔力と素養を持つ異世界人。神獣の力を持つ双子。物事の本質を見抜く射手。そして―――“植物”を創造し操る力を持つ者」
「……!」
後ろにいるイオさんが息を呑む。
なんらかの意図があっての言葉なのかは分からない。
でも、意味がないとも思えない。
「カイト、チサト、リーファ。この人……信用できる?」
「「「……」」」
無言になり悩む僕達。
十数秒ほどの沈黙の後に僕が答える。
「……はい」
「ちょっとその沈黙はなんなの……? え、ねえ、カイト君……?」
ライザさんとベルンさんの信用の無さからして断言はできない。
気を引き締めながら僕は頬を引き攣らせるリオンさんと向き直る。
「しょ、しょうがないけど、君に信用してもらえないのは私としてもショックに他ならないのだけど……」
「僕を、信じさせてください」
「きゅん」
なぜかここでときめき音を鳴らすチサト。
彼女の不思議な行動を皆一様にスルーし、奇妙な沈黙の後にリオンさんが顔を上げる。
「お、お任せあれ!」
ものすごく不安になる返事をいただいてしまった。
人間っぽい反応をする彼女に幾分か毒気が抜かれたのか、セーラさんが軽いため息をつく。
「ああ、お任せとは言ったけれど、私の力は当てにしないでほしい」
「えぇ……」
「私の神獣としての力は自然の法則を捻じ曲げるものでね。今の時代にあまり多用してはいけないものなんだ。むしろ使えば、魔王軍なんて目じゃないほどの影響が広まる可能性がある」
「なるほどね。たしかに神獣に暴れられたら魔王軍どころじゃないわね」
ぶっちゃけ魔王軍より神獣の方がやばいしね……。
まあ、神獣がやばいだけで人間からしてみれば魔王軍は十分に脅威だ。
「とにかく、決行は五日後の夜って決まったなら早速準備をしなくちゃね」
「エリーさんの工房に連絡するんですか?」
「ええ、ケツひっぱたいて間に合わせるつもりよ」
「セーラ様、下品な言葉はやめてください」
「はぁーい」
この五日間でするべきことはできるだけしておこう。
どのような戦いが起こるか分からないからな。
「ニーア、離れて」
「は、離れ……にゃい」
「猫化してる……?」
どんだけリオンさんが怖いんだ。
そういう恐怖の感情にも純魔の魔力が効くのだろうか?
疑問に思っていると、見かねたリーファがニーアを僕から引き離す。
「私の武器はあるけど、姉さんにも武器を用意しなくちゃ」
「は、離せー! 私は姉だぞ!」
「卑しい猫だにゃ。お仕置きだにゃ」
「チサト、やめろぉー!?」
……よし、大丈夫そうだな。
チサトにもみくちゃにされるニーアから視線を逸らす。
リオンさんだが、この後は普通にセントレアルに戻るのだろうか?
使者としての役割は終わったわけだし、神獣としての力を振るうことができないならここにいる意味もないし。
「リオンさんはこの後、セントレアルに戻るんですか?」
「え、私、帰らないよ?」
「「「……え?」」」
リオンさんにこの場にいた面々の視線が向けられる。
「もう隠さないけれど、他の二か所には私の“分身”がいるんだよね。分身の情報は本体である私に常に送り込まれているから襲撃のタイミングも諸々を合わせることができるんだ」
「と、いうと……」
「神獣としての力は貸せないけれど、助言はしないとは言っていない。これから五日間、よろしくね♪」
心強い味方。
そう思えると同時に僕はどことなく、心のどこかでは奇妙な不安が残るのであった。
※リオンさんは味方です。




