第二百五十五話
そういえば忘れていましたが、殴りテイマーを投稿してから一年が過ぎました。
どうぞ、これからもよろしくお願いしますm(__)m
第二百五十五話です。
昼食の後は、僕とチサトの模擬戦闘をすることになった。
チサトは魔法、僕は肉体強化の力とロープ、それにユランとライムの力を借りて戦うことになったが、これが思いのほか実りのあるものとなった。
チサトの水の魔法はとてつもない力を持っているが、彼女本人は普通の女の子でしかない。
その明確な弱点を突き、襲い掛かる水を避けながら肉体強化で接近し、拳での寸止めをしようとしたその時―――、
「大福よりあまーい」
「ぬぁ!?」
チサトの足元からあふれ出した水が手の形となって僕の身体を掴み取る。
一瞬だけ動きを止めた僕に、続々と作り出された水の腕が巻き付いていく。
「迂闊だよカイト君、私は素で弱いけれど無駄に魔力が多いのでゴリ押しで近接戦もできるのです」
「な、なにぃ……!? くっ、ライム!」
「キュ!!」
鞭に変形したライムが水の拘束を切り裂いてくれる。
なんとか着地した僕にチサトが指先に浮かべた水の玉を向けていることに気付く。
「まず……」
「水の銃弾」
指先で回転されたピンポン玉ほどの水が僕の胴体へと叩きつけられる。
とてつもない衝撃に息が止まりかけながらも地面に着地し顔を上げると、視線の先には複数の水の玉を周囲に浮かべているチサトの姿が視界に入りこむ。
「さあ、ゴリ押し開始」
「やばッ……!」
三節混に変化させたライムを掴み取り、回転させながら水の玉を打ち落とす。
全て打ち払うと、自身の背後に大きな水の塊を作り出したチサトが右手をこちらに向けてくる。
「メガロドン、アターック」
軽い声と共に放たれたのは、水で形作られた巨大な鮫。
地上の上を泳ぐように突撃してくるソレをユランの出してくれた魔力の盾で受け止める。
「それUMAじゃなくてサメ映画のそれだぞ!!」
「UMAとサメ映画は切っても切れない仲だからオッケー!」
「……一理ある!!」
思わず納得してしまった。
部分強化を施した蹴りで巨大鮫を一撃で消し去るが、すぐさま空中で元の形に戻ってしまう。
「面白い……!」
「さあ、もっと行くよ!」
無限に湧き出ると錯覚してしまうほどに、チサトの足元から溢れ出る水を目にしながら僕は三節混を構える。
これは、予想以上に大変な模擬戦になりそうだな……!
●
「なんというべきか……凄まじい戦いでしたね……」
訓練後、僕はイオさんと共にシフ達を迎えに向かっていた。
しかし先ほどの訓練は凄かった。
チサトには本体が常人という弱点があったが、それ以上に彼女の扱う魔法が自由なのだ。
なのでどれだけ近づいても今の彼女ならノーモーションで水を操り、即座に迎撃に移れてしまう。
これにアルの変形による迎撃能力が加わればまさに敵なしだろう。
「分裂する鮫には驚かされた……」
「……ああいう生物は実在するのですか?」
「あ、この世界では分からないけど、僕達の世界には何種類もいるよ」
「恐ろしいですね……」
この世界にいるかは分からないけれど、あの鮫のシルエットはイオさんにとっては見慣れないものだったのだろう。
「チサト様の魔法は、改めて見ても凄いですね」
「まあ、魔力の総量で言ったら多分僕の十倍以上はあるだろうしなぁ」
そしてそれを操ることのできる感覚も持ち合わせているから、まさしく天性の才覚といってもいいだろう。
そこでふと、先ほどのイオさんのことを思いだした。
チサトに魔法を褒められた時の微妙な表情が、どうにも気になってしまう。
「いきなりだけど、いいかな?」
「構いませんよ?」
「イオさんは……その、自分の魔法が苦手なのかな?」
きょとんとした表情を浮かべるイオさん。
白に近い灰色の髪の隙間から見える青い瞳が丸くなるのが見えるが、すぐに彼女は困ったような笑みへと変わる。
「すみません、気を遣わせてしまって。……私は自分の魔法が嫌いなわけではないんです」
「そうなの?」
「好きとは嫌いとは別に……複雑、でしょうか。そんな気持ちを抱いてしまっているのです」
複雑? どういうことだろうか?
夕焼け色にさしかかった道を歩きながら、イオさんが続けて言葉を発する。
「理由の一つとしてはセーラ様の魔法でしょうか。矢の形状変化型の魔法は、あまり強いとは言い難い魔法ですから……周囲の輩は従者である私の魔法と比べ、貶めることがよくあるのです」
矢を作り出すだけの魔法ならそんなに強くないと思われてもしょうがないだろう。
それがましてや国の中で選ばれた勇者となればなおさらだ。
だけど―――、
「セーラさんが勇者として選ばれたのは魔法の才能じゃない。セーラさんに助けられ、一緒に戦った身としては彼女が弱いだなんて到底思えないよ」
「……ありがとうございます。本当に……」
セーラさんの頼もしいところは、目的のために手段を選ばないことだ。
自分にできるあらゆる手を用いて戦い、活路を見出す。
そんな絶対に折れない精神性を見出されたんだと僕は思う。
「セーラ様は“行動で証明してこそ本物の勇者”と仰いました。だから、私が悩みを抱えてしまっていることは正直間違いのようなものなんです。なにせ、セーラ様は自身の魔法にひとかけらの不満も抱いてはいなかったのですから」
「……たしかに」
セントレアルでも全然気にした様子はなかった。
そういう部分でも強い人だな……。
「あと、もう一つ……理由があるのですが……」
そこで言い淀むイオさん。
他にも自身の魔法を複雑に思うなにかがあるのか?
いや、待てよ。
自分の魔法が嫌いではないなら、どうして咲いた花を見てあんな表情を浮かべるんだ?
不満に思うようなものではないなら……悲しみか?
「花を、生み出す魔法だから?」
「! ……どうして、そう思うのですか?」
「いや、なんとなく」
推理半分直感半分という感じだ。
「私の魔法は文字通りに花を作り出す能力、ということは知っていますよね?」
「ああ」
「でもいきなり花そのものを作り出すことはできません。種を創造し、魔力で無理やり成長させ花を咲かすことで、ようやく私の力は形となるのです」
「……」
イオさんが何を言いたいのか分かった。
そうか、彼女にとって花を作り出すということは、文字通りに命を摘み取っていることと同じなのか。
「私の作り出した花に命が宿っているかどうかは分かりません。ですが、それを摘み取るのも、朽ちさせるのも全て私の手に委ねられている……」
綺麗な魔法ではあれど、残酷な魔法でもある。
ここで花の命に気を遣っている彼女に“優しい”と評価することが簡単だろうけど……それは違うよな。
「辛い、魔法だね」
「このことを貴方に話せてよかったと、今思います」
驚きながらもこちらに振り向いたイオさんが、儚げな笑みを浮かべる。
「それでも、私はこの魔法を使うことをやめることはありません。私は―――」
「従者、だからだよね」
「! ……フフ、はい」
同じ従者として、主の力になりたい気持ちはよく分かる。
それに僕の魔法もイオさんとは違うけれど、問題を抱えている。
「カイトー!」
「むぐぐ、兄上達、足が速いぞ」
「お前が遅いんだよ! ほら、ハクロの背中に乗れ!」
「ワフ……」
シフ達とアル、そしてキッシュを背中に乗せたハクロの姿を確認した僕とイオさんは顔を見合わせ、笑みを交わした後にこちらにやってくる黒猫たちを迎えるべく歩みを進めるのであった。
セーラへの負い目と、作り出した花を摘み取ってしまうことで思い悩むイオでした。




