第二百五十三話
第二百五十三話です。
チサトが合流したことによってようやく魔王軍の拠点に攻め入るメンバーが揃った。
彼女が到着するなり、子ライオン状態のリファーナがわしゃわしゃされるという事件? が起こりはしたけど、とりあえずは全員が集まったと言うことで話し合いをすることになった。
「チサトも揃ったことだし、これからのことについて話すわね」
それぞれ席についた僕達を見回したセーラさんが話を始める。
僕の左側の席には、先ほどまで子ライオン状態だったリーファとニーアがぐったりとした様子で座っていたが、融合の反動? というもので気にすることはないという。
「まずは、ヴィングル王国側の対応としては、私達をサポートしつつ極力接触はしないという方針を取らせてもらっているわ」
「この国の王様に挨拶をしにいかなくてもいいの?」
「本当は行くべきなんだけれど、今回は例外ね」
前の席に座っているチサトの言葉にセーラさんが首を横に振る。
「理由としては貴方達他国の勇者がこの国にいることを隠すため。正直言うと……魔王軍のスパイがどこに潜んでいるか把握できていないらしいからね。だから、下手に街に繰り出すのも禁止ね」
「むぅ、ヴィングル王国の街並みとか興味あったけれど我慢するしかないんだ……」
残念そうな様子のリーファに苦笑しつつ、セーラさんの言葉に納得する。
たしかに魔王軍のスパイが潜んでいるかもしれないところに迂闊に出るのは危険すぎる。
今回の戦いは、隠密の面が強いのでリーファ達の正体を悟られるわけにはいかない。
「私もこの国のいいところをたくさん知ってほしいんだけどね。もう、魔具もいいものがたくさんあるし、食べ物も美味しいのよ?」
「「美味しい?」」
「二人とも座りなさい。セーラさん、二人を惑わさせないでください……」
「ふふっ、ごめんね」
分かってやっていたのか、悪戯っ子のような笑みを浮かべる彼女にため息をつく。
彼女もそうだが、欲望に忠実なこの姉妹もなー。
「セーラ、私達は次にどうすればいい?」
「この作戦を主導しているセントレアルからの知らせを待つことね。拠点を襲撃するタイミングは三か所同時って話だから他と足並みを揃えることを優先しているらしいわ」
「……つまりは、まだ動く必要はない?」
「そうね。連絡が来るまではここで待つことになるでしょう」
ということは、僕達には戦いに備える余裕があるということか。
セーラさんの魔筒のこともあるし、こちらとしては好都合だな。
「屋敷の者には貴方達のことはちゃんと説明してあるし、私としても信用しているから敷地内なら自由にしていいわ」
「ありがとう、セーラ」
「いえいえ」
リーファのお礼の言葉ににこやかに笑うセーラさん。
イオさんがいれた紅茶を口にした彼女は、一息ついた後に再び口を開く。
「さて、じゃあ、次の話に移りましょうか」
「次の話?」
「魔王についてよ。幸い、ここには元魔王軍幹部のニーアがいるし話を聞いてみようかなって」
「むぐ?」
いきなり話をふられてびっくりしたのかお菓子を口にしていたニーアが首を傾げる。
見た目も素振りも完全に子供のものではあるが、彼女は元魔王軍幹部。
魔王についても何かしら知っていてもおかしくはない。
「魔王についてって言っても私はそれほどは知らないよ?」
「そうなの? 幹部っていうからには顔を合わせたりはしないのかしら?」
「全ッ然」
ものすごく嫌そうな顔をして首を横に振るニーア。
この子がここまで不機嫌そうな顔をするのは初めてかもしれない。
「あいつ、やることと魔具だけよこして後は部下任せだよ。幹部だからって顔を会わせたりしないし、ほとんど魔具を介した通信ぐらいでしか会話してない気がする」
「姉さん、なんか魔王に恨みでもあるの?」
さすがに気になったのかリーファの質問に、ニーアの目が剣呑さを帯びる。
「魔王から押し付けられる仕事を肩代わりしたことあるの」
「うん」
「あまりの作業量の多さと魔王の小言と、味方の幹部のクソ野郎さにストレスが溜まり続けて幼児退行して―――そのまま精神世界のベルンと会うくらいにまで追い詰められた」
「やばくない?」
リーファはメリアに洗脳された僕との戦いの時にベルンさんと会ったらしいけれど、ニーアはものすごく切羽詰まった感じに会っている。
実際は、肉体的にも精神的にも過労で追い詰められた結果によるものだろうけど……なんだか残念な感じがするなぁ。
「幹部相手にも姿を見せない……? 魔王には副官とかはいるのかしら?」
「うーん、私の知る限りはいないけれど……まあ、それに近しい立場の奴はいたかな」
ん? じゃあその人が魔王の副官に近い立ち位置にいるのかな?
「でも、それは初耳だな」
「……あ”……ま、まあ、そいつはそれほど警戒する必要はないから言わなかっただけだよ」
「そうなの?」
「うん。というより、そいつは魔王への恨みの方が強いかもしれない」
「えぇ……」
「だってそいつが基本、魔王と幹部殿の無茶ぶりに振り回されてたから。私が酷い目にあったのもそいつがやってた仕事を一か月請け負っただけだし」
「その人は鉄人かなにかなの……?」
その人、精神状態とか大丈夫なの?
身内にすら恨まれる魔王ってどういうことだ。
ニーアの様子からして魔王軍ってかなりヤバいところなのだろうか。
「それ以上に、他の幹部共の方が性格的に面倒な奴が多いからね」
「姉さんを含めてね」
「うっさい」
さらりとツッコむリーファに悪態をつくニーア。
魔王軍幹部に面倒な奴が多そうなのは分かる。
デウスもそうだったし。
「魔王が人前に姿を見せない慎重な奴なら厄介ね。そういう輩って、追い詰められると迷いなく逃げようとするし……」
プライドもなく逃げることのできる奴だったら確かに厄介だな。
魔王軍を作り上げたという手腕を考えれば、そのまま逃がす方が後々に面倒なことになりかねない。
口元に指を当てながら思考したセーラさんは考え込みながら続けて言葉を発する。
「それとも、何か人前に出られない事情があるってのも考えられるわね。そうだった場合、味方側の重要人物か、そもそも魔王とは絶対に結びつかない人物の可能性もある」
「……それもありえるね」
セーラさんの言葉にチサトも同意する。
どちらの可能性も十分にあるが、僕としては嫌なのは後者だ。
「味方側の重要人物か……」
脳裏によぎるのは物凄い笑顔のリオンさんの姿。
彼女ならば、なにをしてもおかしくはないという先入観があるからか、すぐさまその考えを振り払う。
駄目だ。
意味もなく疑うようなマネはしてはいけない。
「どちらにせよ、魔王を倒せば魔王軍も終わりよ。最悪、魔王の位置さえ割り出せば、総攻撃で落とせるし……今回の襲撃に全てがかかっているといってもいいわ」
「なら心してかからなくちゃね」
「腕が鳴る」
何を思ったのか拳を鳴らそうとするチサト。
しかし、音が鳴らずに首を傾げた彼女はなぜか僕の方を見る。
「カイト君、指の骨ってどうやって鳴らすの?」
「痛めるからやめなさい」
「きゅん」
「……なに今の音?」
「ときめき音」
「どういうことなの……?」
無表情でときめき音鳴らされても困惑するしかないのだけど。
てか、ときめきを音にするのは割と意味が分からない。
「チサト、ときめき音ってなに?」
「私の手の心配してくれたから、ときめいた」
「どういうことなの……?」
僕と同じ反応をするセーラさん。
時たま……いや、割と結構な頻度でチサトは不思議ちゃんと化す。
「……カイト、鳴らない」
「リーファ、真似しなくていいからね?」
このメンバーで大丈夫だろうか。
実力の心配はしていないが、別の部分で心配してしまう僕であった。
手の骨を気遣われてときめく勇者でした。
ほぼほぼ脊髄反射で書いているかもしれないチサトと別作品の先輩の台詞。




