第二百五十二話
第二百五十二話です。
セーラさんは夢中になったことにはとことん拘る性格のようで、あの後は僕の朧げな知識の元、魔筒の改良品のアイディアを紙に記していった。
魔筒は既存の銃とは構造自体が大きく異なり、弾丸としての魔力を装填する部分を中心としたパーツでできており、それぞれを組み合わせることでカスタムできる……らしい。
つまりは銃身にあたる部分を切り替えるだけで、放てる魔力のタイプを変えることができるようだ。
「ぐるぁ……」
「まったく、どうしてその姿の君は……」
翌日、客間にて昨日と同じようにセーラさんと共に魔筒の改良点について考えていると、子ライオン状態のリファーナが膝に飛び乗ってくる。
ごろごろと家猫のようにくつろぐリファーナに、シフとライムとユランが疑惑の視線を向ける。
「おぬし、実は正気だろ」
「キュ……」
「シャー……」
「ぐるる」
猫パンチをしているシフにどこか呑気な欠伸をするリファーナ。
というより午前中からなぜに二人はリファーナになっているのだろうか。
「不思議ねぇ」
「僕にとってはほぼほぼ慣れたようなものなんですけどね……。そういえば、イオさんは?」
「ああ、イオならチサトを迎えに行ったわよ」
「え? そうなんですか?」
全然気づかなかった。
たしかに出発した日時がチサトとほぼ同じだろうから到着する時間も変わらないか。
「そろそろ帰ってくるんじゃない? 私達はここで待っていましょう」
「そうですね」
迎えはイオさんに任せて僕達はここで待っていよう。
すると、セーラさんが何かを思い出したように話しかけてくる。
「今朝、魔筒の調整とかをしてくれている人達にアイディアを送ったけれど、ものすごく興味を持ってくれたのよね。自分の仕事投げ出して急いで作ってくれるらしいわ」
「昨日の今日でですか? それは凄いけれど……」
「それだけ貴方の世界のアイディアがとんでもないってことね。あと、あれも興味もってたわよ」
「あれ?」
「リーファの持っていた魔力を置換する魔具」
ああ、フィルゲン王国でいただいた魔力を置換させる魔具のことも話したんだよな。
「魔力を弾丸として置換することによって、他人の魔力を放つことができる。……これは面白い発想ね。実現すれば、私でも貴方の純魔の魔力を扱うことができるってことでしょ?」
「僕の魔法が使えてもそれほど使えるというわけではないでしょうけど……」
「そんなことないわよ?」
僕の言葉を、得意げな様子で否定するセーラさん。
単体では美味しい魔力なだけの純魔の魔力になにかしらの利点があるのだろうか。
「魔物は純魔の魔力に引き寄せられるから、それを応用すれば魔物を誘導することもできるわ。特に魔王軍なんかは、戦力として魔物を従えているだろうし、意外に有効な手になるかもしれないじゃない」
「たしかに……」
僕自身しようとは思わない……というより、やったら狙われるだけだ。
でも魔筒で長距離から打ち込めばその場所に魔物を惹きつけ、無駄な争いをしなくてもよくなるということか。
「他にも貴方が考えついたアレも好評だったわよ」
「アレ? 銃身交換機能のこと?」
「そうそう、それ」
我ながら安直なネーミングセンスではある。
あくまで突発的に思いついたアイディアではあるが、構造が単純な魔筒だからこそできることではある。
……銃の知識に詳しくないからこそ、思いつけたということもあるかもしれないな。
「ものすごい勢いで作業に没頭しているらしいから、数日中には試作品が来るかもしれないわね」
「速すぎませんか……?」
「優れた技術者とは得てして変態な者よ」
そ、そうなの……?
まあ、僕の出したアイディアが役に立ってくれているのならそれでいいか。
すると僕とセーラさんのいる客間の扉が開かれ、イオさんが入ってくる。
「失礼します。チサト様、こちらへどうぞ」
「うむ、くるしゅうない」
「は、はぁ?」
なぜか変な口調のまま入ってきた少女、チサトは黒色のストールと、眼鏡という普段とは全く違う装いを身に纏っている。
変装用と思われる眼鏡を外した彼女は僕とセーラさんへと視線を移す。
「やっほ、セーラ、カイトく――」
「カイトー!」
チサトが僕の名を呼ぼうとした瞬間、彼女の首に巻かれたストールが黒猫の姿に変身し、僕へと飛び掛かってきた。
僕は飛び掛かってきた黒猫———アルを正面から受け止める。
「アル、久しぶり。元気だった?」
「うん。チサトは変なことばっかりして大変だったけれど、それなりにうまくやってるよ。……シフも久しぶり」
「うむ、おぬしも壮健そうでなによりだ」
セントレアルで出会ったシフのもう一人の兄弟、アル。
彼が照れくさそうな様子でシフと言葉を交わしていると、頬を引き攣らせた様子のチサトが僕達の座っている席へとやってくる。
「カイト君、私ってキャラ薄い? もっと個性出した方がいい?」
「それ以上出したら大変なことになると思うけれど……」
出会い頭になにを言い出すんだ……?
膝には既に子ライオン状態のリファーナが寝ているので、アルをシフ達と同じテーブルに乗せながら、改めてチサトと向かい合う。
「チサトも無事に到着できてよかったよ」
「寂しい一人旅だった」
「お、おう……?」
「ごめん嘘」
今、なんで嘘をつかれたの?
個性を出そうとしているのは分かるけど、ただの不思議ちゃんだよ?
「相変わらずねぇ、チサト」
「セーラも久しぶり。元気だった?」
「元気の元気よー。もう元気すぎていつもイオに怒られているくらいに元気よー」
「自覚しているなら、直してください……」
げんなりとするイオさんだがセーラさんはこれ以上に無いニコニコ顔である。
すると何を思ったのか、イオさんがキッシュを抱えるとアルとシフの前に下ろす。
新たに現れた丸っこい黒猫は、二匹の黒猫を見つめのほほんとした声を発する。
「むぐ、アル殿も私にとっては兄上ということになるのだな」
「先に目覚めていたのは彼だからな。うむ、そのようになるな」
「……弟。……弟かぁ」
「「……」」
戯れる三匹の黒猫たちに、僕とイオさんは思わず無言になってしまう。
暫し、シフ達を見ていると、いつのまにか僕の隣の席に座ったチサトは不意にきょろきょろと周りを見回した。
「あれ? リーファとニーアは? 部屋で寝てるの?」
「ん? ああ、彼女達なら、ほら」
「ぐむぅ」
僕の膝で惰眠をむさぼっている黒と白のオーラを纏う子ライオンを持ち上げる。
野生を忘れたように、されるがままの子ライオンにチサトとイオさんは目を丸くさせる。
「……か、カイトさん、その子は……? どこから湧いて出てきたのですか?」
「もしかして、その子ライオンが例の?」
チサトは魔具で話していたから知っているか。
それじゃあ、イオさんの方に説明だな。
「この子はリーファとニーアが融合した姿、リファーナなんだけど……まあ、その次の形態みたいなものだね。訳合って小さいライオンの姿になってしまっているんだ」
「この子が、あのお二人だと……?」
「くぁー」
小さく欠伸をする子ライオン。
下ろそうとすると、おもむろにチサトが僕の手から子ライオンを受け取る。
まじまじとイオさんと共に子ライオンを見つめたチサトは、薄っすらと目を細める。
「なんでしょう。見た目は可愛らしいのですが……なんとなく、魂胆が見えますね」
「分かる。カイト君の動物好きに付け込んだ卑しいライオンだ」
「ぐるぅ……!?」
チサトに抱えられていることに気付いたのか、目を開けた子ライオンは動揺する。
そんな様子の子ライオンに構わず、チサトはおもむろにテーブルに彼女を下ろす。
「私達は騙されん。リーファ、ニーア。———今こそ、成敗」
「では私も」
「くぁー!?」
何を思ったのかテーブルに寝かせた子ライオンをわしゃわしゃし始めるチサトとイオさん。
形容できない悲鳴を上げる子ライオン、リファーナではあるがなんだか、あの子も楽しそうなので放っておこう。
「これで全員揃ったってことね」
「一王国少ないですが、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫でしょ。貴方達がいるとすっごい心強いし」
明るく、不安を感じさせない笑顔を浮かべたセーラさんに僕もつられて笑ってしまう。
戦力は少ないが、ここにようやく魔王軍の拠点へと挑むメンバーが揃った。
あとは作戦を決行する日が知らされるのを待つばかりである。
ようやくお仕置きされたリファーナ。
そして相変わらずフルスロットルのチサト。
セーラさんの武器アイディアはDOOMつの森をやって思いつきました。




