第二百五十一話
第二百五十一話です。
セーラさんの直感により僕が神獣と関わりのある人間だとバレてしまった。
これは非常に大問題なのだが、バレた相手がリーファと同じ勇者であるセーラさんでよかったという気持ちもある。
セントレアルの事件を通じて彼女が信用のできる人なのは分かっているからね。
「こちらがカイトさんのお部屋となります」
「ありがとう」
案内されたのは、丁度いい広さの部屋であった。
正直、広い部屋だと落ち着かないので、リーファの影から出しておいた荷物を置きながら扉の前にいるイオさんにお礼を言う。
「夕食にまで時間がありますので、よければ屋敷をご案内しますか?」
「え、いいの? 忙しいんじゃ……」
「私一人だけでここを回しているわけではないので大丈夫ですよ? それに、客人をもてなすのも私の仕事でもありますから」
そういうことなら、ご厚意に甘えようかな。
シフ達も興味があるようなので一緒に部屋の外に出た僕達は、近くの部屋にいるリーファとニーアを呼ぶことにした―――が、
「……眠って、いますね」
「嘘だろ、君達」
別れて十分も経っていないのに、この姉妹は部屋で眠っていた。
旅の疲れがたまっていたのだろう。
風邪をひかないように布をかけた上で、夕食時まで休ませよう。
「こちらが浴場になります。入浴時間につきましてはこちらからお伝えしますが、何分カイトさんは男性なので……」
「ああ、気を付けるよ」
間違いがあってブッキングするようなことがないようにしなければ。
「もし、そのようなことがあれば僕は腹を切る」
「そこまでしなくてもいいのですが……」
「腹を切るとは、比喩なのか? カイト」
「僕の故郷の表現だ」
「おぬしの故郷は修羅の国かなにかなのか……?」
いや、現代では絶対にやらないけれど。
というより素直に言い方を間違えた。
正しくは、腹を括る、だった。
それからイオさんに屋敷を案内されながら、場所は外へと移る。
「兄上、この先に花壇がある見に行かないか?」
「……カイト、構わないか?」
僕を見上げてそう訊いてくるシフに笑みを返す。
「行ってくるといい。あっ、それなら……ハクロ」
僕は自分の内にいる精霊、ハクロを出現させる。
足元に近づいてきたハクロの背を撫でていると、イオさんが興味深そうな視線を向けてくる。
「カイトさん、この子は……前に見た姿と少し違いますね?」
「うん。本来の姿を取り戻したって感じかな。……撫でてみる?」
「い、いいのですか?」
「ウォン!」
「ハクロも構わないって」
恐る恐るイオさんがハクロの背に触れる。
数秒ほど撫でて、すぐに手を引いた彼女は感慨深そうな吐息を零した。
「もういいの?」
「はい。これ以上は、これからの仕事に影響が出そうなので」
「そ、そう?」
どういうことだ……?
不思議に思いながら、僕はユランとライムをその背に乗せる。
「シフ、この子達もついていってもいいかな?」
「もちろん構わないぞ! カイトはいいのか?」
「僕はまだイオさんから聞くことがあるから、君は心置きなく楽しんでくるといい」
「……うむ、了解した」
そう言うと使い魔達は、花壇のある方へと向かって行く。
ここはセーラさんの家の敷地内なのでどこかに向かう心配もないだろう。
「キッシュがあんなに楽しそうにしているのは初めて見ます」
「僕もだ。あの子も兄弟と交流できて嬉しいんだろうね」
シフにとってはまさしく家族と同じ存在だからよほど嬉しいのだろう。
僕はそのまま屋敷の外の案内を願い出る。
「ここに働いている人はどれくらいいるの?」
「基本的に屋敷内で働いているのは私を含めて十人ほどですね。私が幼いころからヴィングル家に仕えていた方がほとんどです」
「そうなんだ」
屋敷を案内される際に紹介されたけれど、ベテラン感が凄かったな。
でも、こんな大きな屋敷にして働いている人が少ないと思えてしまう。
「幼い頃というと、イオさんはセーラさんとは昔ながらの間柄って感じなのかな?」
「はい。私の母もヴィングル家に先代の当主様に仕えていたので、その縁でセーラ様と出会うことになりまして」
幼馴染って感じなのかな。
セーラさんの接し方からしてあながち間違いでもなさそうだ。
そんな会話をしながら、屋敷周りを歩いているとターンッ! というなにかが弾くような音が聞こえた。
「ん? 今の音は……」
「どうやらセーラ様は、訓練をなされているようですね」
訓練……?
イオさんについていくと、屋敷から少し離れたところに射撃場のような場所を見つける。
射的場といっても、的までの距離がとてつもなく遠く、目算にして一番近いところでも50メートルほど離れている。
そこに、ライフルに似た魔具、魔筒を構えるセーラさんの姿があった。
魔筒の先端を丸太に置く形で固定した彼女は、あろうことか地面にうつぶせになる形で狙いを定めている。
「———」
呼吸を止め、魔筒を構えるセーラさんの視線に先にあるのは遥か遠くに見える的。
肉体強化で小さく見える的を確認した僕は、その距離に驚きながらも邪魔をしないように静観する。
「———」
無言のまま、音もなく引き金が引かれる。
空を切りながら彼女の魔法である矢が高速で撃ちだされ、ターンッ! という音を響かせながら的のど真ん中を撃ち抜いた。
緊張を解くように軽く吐息をついた彼女は、近くの大きな切り株に魔筒を置く。
「うーん、ちょっとだけズレた。目視ではこれが限界かしらねぇ。戦いも控えていることだし、これの改良点も考えないと……」
小さく何かを呟いたセーラさんは切り株に置かれた魔筒を手慣れた様子で分解していく。
あっというまにそれぞれの部品へと分解されたそれを一つずつ確認した彼女は銃身にあたる部分を目にして顔を顰める。
「げ、歪んでる。……乱暴に扱いすぎたかしら……はぁ、私もまだまだね」
ため息をついた彼女は他の部品を確認した後に、もう一度魔筒を組み上げる。
形になったそれを構え、調子を確かめたところでようやく彼女は僕達の存在に気付いた。
「あれ? イオにカイト、どうしたのよ?」
「カイトさんにこの館の案内をしていまして」
「あぁ、なるほど。でもここって別に紹介するほどの場所でもないと思うわよ?」
手を振りながら苦笑するセーラさんだが、僕としては表には出さない彼女の努力を見て感嘆の気持ちを抱いていた。
「ここでいつも訓練を?」
「ん? そうよ。私の勇者としての取り柄はこれしかないから、ちゃんと練習しておかないと駄目なのよ」
そう言葉にしながらセーラさんは自身の手に持つ魔筒を掲げる。
「それに、この魔筒ってあくまで試作段階の魔具でしかないから、まだまだ改良する余地がたくさんあるのよ」
「結構分解とかしてましたよね」
「ええ、パーツの変更で性能が変わりやすい部分もあるから、その都度調子を確かめなきゃいけないのも困りものよね」
「へぇ……」
「触ってみる?」
「え、いいんですか?」
「構わないわよ。減るもんじゃないし」
さっぱりしているなぁ。
実のところ、興味はバリバリにあったので恐る恐るではあるが魔筒を受け取って眺めてみる。
見れば見るほど、ライフルにそっくりだな。
「すごいですね。スコープもなしにあんな遠くにある的を狙うなんて」
男心にくすぐるものがあるので感嘆としながら魔筒を眺めていると、セーラさんが不思議そうに首を傾げた。
「すこーぷ? ねえ、カイト。すこーぷってなに?」
「え? この部分に遠くが見える望遠鏡をつけて、遠くを狙うようにできる……やつ? 僕もよく知らないけど」
魔筒ってできたばかりの魔具ってきくし、そういうカスタムとかはまだできないんだろうな。
そう納得していると、何を思ったのか突然セーラさんが僕の両肩を掴んでくる。
「それよ……」
「は、はい……?」
「私が求めていたのはそれよ!」
な、なにが? スコープが?
ものすごい勢いのセーラさんに気圧される。
「貴方の世界のこれは確かジュウって言ったわね! それも魔力を撃ちだすの!?」
「え、いえ、火薬で鉄の弾……銃弾を撃ちだす武器で……」
「なにそれやっば! それってどれくらいの歴史があるの!?」
「……具体的には分からないけど……百年以上はあるんじゃないかな?」
結構適当に言ったけれど、西部劇とかやってたのはそれくらい昔……だよね?
いや、もっと前なのかな?
僕はそういう銃とか本当に詳しくないので、そちらの知識は映画とかのものからくるものがほとんどだ。
「歴史があるということは、それだけの発展があるってことね! ジュウの種類はどれくらいあるの!?」
「種類? えっと、これがライフルだとしたら、ハンドガンとかショットガンとか……ガトリング……とか?」
「ガトリング……良い響きね! たくさん撃ちそう!!」
ものすごくテンションを爆上げさせているセーラさんに引く。
ガトリングという響きから、正しいイメージを連想させているのも何気に凄すぎる。
「言葉だけじゃよく分からないけど、確信したわ!」
「な、なにが?」
そのまま右手を握られた僕は、勢いに押されながらも尋ねる。
「カイト、今から私の部屋に来なさい! 技師に送りつけるためのアイディアをまとめてるわよ!」
「いや、駄目です。何考えているんですか」
「いいからいいから……!」
「駄目ですって!」
「私は気にしないから!」
「僕が気にするんです……!」
なぜに部屋なのだろうか……!?
客間でもいいのでは……!?
それでも引っ張ってくるセーラさんに困っていると、彼女はイオさんへと助けを求める。
「イオ、説得手伝って!」
「分かりました。セーラ様、カイトさんに迷惑をかけないでください」
「なにが分かったの!?」
その後、セーラさんの部屋ではなく客間でアイディアをまとめることになった。
僕のつたない知識でもセーラさんの助けになれればいいと思うが、その一方でセーラさんの武器がどのような進化を遂げるのか気になっている自分がいるのも確かだ。
セーラ強化フラグが立ちました。
この子を主人公にすると楽しそう……。




