第二百四十九話
第二百四十九話です。
慣れた馬車での旅を経て、僕達はヴィングル王国へと到着した。
魔王軍の拠点が近くにあるかもしれないということもあって、道中での襲撃も心配していたわけだが特にそんなこともなく僕達は無事に目的地へと辿り着いた。
ヴィングル王国は、ヘンディル王国のように人に溢れた国だが、ヘンディルとは違うのは魔具が広く流通していることだろう。
「カイト、まずはこの都市の名産品を食べに行こう」
「自分の目的を忘れないでね?」
馬車から降りるなり、そんなとちくるった発言をするリーファを嗜めながら、人気のない街はずれの区画を見回す。
たしか、ここに迎えの人がやってくるはずなんだけど、そろそろ来るだろうか?
他国とはいえリーファのことを知っている人がいるかもしれないので、彼女には変装させたほうがいいな。
「ニーア、まずは荷物をリーファの影に積み込もう」
「うん、分かった」
「もしかして私って便利な倉庫って認識されてる……?」
そこまで思ってはいないが、かなり便利だとは思っている。
なにせどれだけの質量が入るかは本人ですら分かっていないようだからな……。
「シフ、僕はここでも変装したほうがいいかな」
「いや、さすがにおぬしはやらなくていいのでは? かなりリーファは印象的な容姿をしているが、おぬしは目立つ見た目をしていないからな」
「たしかにそうだね。なら、帽子を被るだけでいいかな」
「うむ」
ぴょんと飛び上がったシフが帽子の姿に変身し、頭に乗る。
言外に無個性と言われた気がしないけれど、無個性も個性みたいなものなので僕は気にしない。
「ん?」
僕とニーアでリーファの影に適当に荷物を積み込んでいると、人気のない広場に誰かが近づいてくることに気付く。
そちらの方を振り返るとメイド服を着た一人の少女がいた。
彼女の足元には丸っこい黒い猫がおり、ゆったりとした動きでちょこんと座る。
「お迎えに上がりました。リーファ様、カイトさん……と」
メイド服の少女、イオさんはリーファと僕、そしてニーアへと視線を向けて固まる。
硬直した彼女は、暫し葛藤した様子を見せてからゆっくりと口を開いた。
「……お子さん、ですか?」
「ぶっ!? 違うよぉ!?」
「うん。こいつは私の妹のニーアだよ」
「それも違う! 私が姉!!」
見た目が子供だから勘違いしてしまったのか。
僕も少し驚きながら、迎えに来てくれたイオさんに話しかける。
「イオさん、久しぶり」
「はい。お元気そうでなによりです。っと」
イオさんが足元でくつろいでいるキッシュを抱きかかえる。
それに合わせて帽子の姿になっていたシフが猫に戻り、肩の上に乗る。
「兄弟よ。息災であったか。会えて嬉しいぞ」
「むぐ……こちらこそだ、兄上」
感動の再会なのだろうけど、傍目で見るとものすごく和む光景である。
ものすごくほっこりした様子のイオさんだが、すぐにハッと我に返るとこちらに向き直る。
「これから皆様を屋敷へご案内いたします」
「屋敷?」
「我が主、セーラ様の屋敷です」
薄々気付いていたけれど、やはり貴族に関係する人だったんだ。
本人は卑怯上等のゲリラ戦法を取りまくっているけど、そういう“ぽさ”はあったからな。
「一応の用心のためにリーファ様は顔を隠してくれると助かりますが……」
「ああ、そのことなら大丈夫」
「大丈夫とは……?」
首を傾げるイオさん。
こういう時こそ、リーファの魔法が光る。
「リーファ。前みたいに影に潜ってくれ」
「……」
「ん? リーファ」
なにやらむすっとした表情をしたリーファがニーアの方へと視線を移す。
アイコンタクトのようなものをした二人は、なぜか純魔覚醒状態になる。
「ちょ、君達なにを!?」
「なにをするつもりなのだ!?」
驚く僕とシフを他所に二人は目の前で融合し白と黒の色の髪を持つ少女、リファーナへと変身する。
いきなりの融合で呆然とする僕達に、リファーナは自信満々な顔をする。
「これも変装でいいんだよね?」
「どこがだ」
「むごごご!?」
いきなり融合なんつー離れ業をしだしたリファーナにアイアンクローをかます。
人気はないとはいえ、いったいなにをしているんだこの子は。
顔を掴まれ悶えているリファーナを見て、硬直していたイオさんがハッと我に返る。
「こ、これはどういうことですか? リーファ様と子供が合わさった……?」
「あー、これについては後で説明するよ。とりあえず、ここを移動しよう」
「わ、分かりました」
「むぐぐ、兄上の主の主はおかしな構造をしているのだなぁ」
「ひ、否定できん……」
キッシュの言葉に震えるシフに帽子に変身してもらい、リファーナの頭に被せる。
これで髪色を誤魔化せたらいいんだけど、それは難しいかな?
「あ、ありがとう、カイ――」
「シフ、逸れそうになったら伝えて」
「了解した」
「だから子供扱い……!?」
頭を触り、ふるふると震えるリファーナを見てため息をつく。
ヴィングル王国の街並みを見たい気持ちは分かるけれども、ここでは目立つようなマネはしちゃいけないんだぞ?
……あ、そうだ。
歩き出す前に、イオさんに先ほど思いついた提案を口にする。
「イオさん」
「はい?」
「逸れて迷子になるかもしれないから、リファーナと手を繋いであげてくれないかな」
「……え?」
「ちょ、ちょっとやめてよ! そういう扱いの方が恥ずかしいんだけど!! 私達、中身は17歳だよ!?」
いや、君は子供の姿だろ。
ニーアと同じように、肉体に精神が引っ張られているから必然的にその思考も子供に近くなっているのだ。
なので、今のこの子に大人としての判断を求めてはいけないのだ。
「な、ならカイトでもいいじゃん!」
「同性のイオさんの方が変な目で見られないでしょ」
それにリーファにとってもその方がいいかなと思ったから。
そう至極真っ当な理由で返すと、リファーナが腕をぶんぶんと振るいながら怒りを表した。
「なに常識人ぶってんだよ! このバカ! 私達の知る限り、カイトも相当変なことするじゃん!」
「こら! 言葉遣い!!」
「うえーん!? どう足掻いても子供扱いだよー!? 大人の姿が恋しいよぉー!!」
その場で地団駄を踏むリファーナ。
そんな彼女の姿をジッと見つめていたイオさんが無表情のまま頷いた。
「———分かりました」
「分かっちゃうの!?」
「他ならぬカイトさんの頼み。私が責任を持ってお連れいたしましょう」
そう言葉にしてリファーナの手を握るイオさん。
呆然とするリファーナを一瞥してから、彼女は僕へと視線を移す。
「では、向かいましょう」
「そうだね。……セーラさんはもう屋敷で待っているのかな?」
「はい。皆様の到着を心待ちにしているんですよ」
イオさんと会話しながら大通りへ続く道を歩く。
セーラさんが待っているのなら、早く顔を出しにいくべきだな。
ここから先の予定がどういうものなのかは分からないが、まずはヴィングル王国の勇者であるセーラさんとの合流を優先すべきだ。
イオ再登場回でした。
子ライオン形態をイオに見せたら好感度が倍増します。




