第二百四十八話
第二百四十八話です。
ヴィングル王国への移動はできるだけ秘密裏に行わなければならない。
なので変装していかなければならないわけだが、それをすること自体は僕達に関してはかなり簡単なことであった。
「カイト、ヘンディル仮面は駄目だよ」
「ははは、リーファ、何言っているのさ。ここはヘンディル王国だから、そんな目立つ格好できるはずないじゃないか」
「キレそう」
「お、落ち着いてリーファ……」
荷物をまとめ、出発の準備をするべく宿の玄関にいるわけだが、なにやらリーファが変なことを聞いてきた。
自分で言うのはなんだが、ヘンディル仮面は結構名が知られているのでこの都市内では変装している意味がない。
「そろそろ出発しよう。シフ」
「うむ、新形態だな」
僕の肩に飛び乗ったシフが、その場で軽く飛び上がり変形する。
ひらりと、頭をすっぽりと覆う形のローブに変わったシフを被る。
シフの新形態、ローブ。
いつもの帽子とは違う、身を隠すための形態だ……!
「ライム、ユランもいつもの位置に」
「キュ!」
「シャー」
ユランが胸ポケット、ライムが水筒に入りこんだことを確認した僕は、荷物を自分の影に放り込んでいるリーファへと向き直る。
「じゃ、次はリーファ。荷物は積み終わったよね?」
「うん。姉さん、私に捕まって」
「オッケー」
「じゃあ、行くよ。———影潜」
リーファの足元の影が広まると、二人の身体が影に飲み込まれる。
その場には黒い水たまりのようなものが残るが、ひとりでに動いたそれは僕の影に入りこみ、波紋を浮かべる。
「何度も思うけど、君の魔法って本当に便利だよね」
『カイトの影に入りこんだから、移動しても大丈夫だよ』
『リーファって本当に暗殺向きの能力だと思う』
リーファは顔が知られているどころじゃないので、わざわざ姿を現す必要はない。
彼女と、ついでにニーアは影に潜ってもらい、僕一人でヴィングル王国行きの馬車へと向かえば正体がバレる心配もないのだ。
「あ、ついでに僕の荷物も持っておいて」
『影に投げれば入る』
「ほーい」
持っている荷物を軽く影へと放り込むと、どぷんという音と共に荷物が影に入りこむ。
うーん、便利!
見た目は荷物もなにも持っていないから旅に出るとは思われないだろう。
「それじゃ、出発だ」
シフが変身したローブを目深に被った僕は、宿の扉を開けて外へと出る。
目的地はヴィングル王国。
ちょっとした長旅になるだろうが、これも勇者であるリーファの使命とも言えるので気を引き締めていかなければな。
●
馬車までの移動はそれほど怪しまれずに済んだ。
僕自身、できるだけ人目をつかないように移動していたこともそうだけど、なにより早朝だったこともあり何事もなく馬車へと到着することができた。
「ちょっとした隠密ミッションをした気分だったな」
「傍から見るとものすごい怪しかったよ。ものすっごいおどおどしてたもん」
「カイトは、隠れることには向いてない」
「酷くない……?」
僕達が乗る馬車は、どこにでもあるような年季の入ったものであった。
そういう意味では僕達がリーファの故郷へ向かった時のものと似た感じの馬車であり、それほど肩ひじ張らずに乗れるという意味では安心できた。
手綱を引いているのは、ちゃんとヘンディル王国から手配された方なのでこちらの事情をちゃんと理解してくれているのもいい。
「カイトはむしろアレ、真正面から奇襲する方が得意そう」
「真正面から奇襲ってどういうこと……?」
「見た目で騙す」
酷い言われようなんだけど。
「たしかにカイト君って見た目もそうだけど、よく分からない技とか使ってくるし、奇襲向けだよね。というより、神獣の眷属であるナーヴァを悶絶させる技とか使う時点で異常だと思う」
「フッ、ドラゴンスクリューからの腕固めには、さすがの彼女も音を上げるしかなかったようだ……!」
「本人ものすっごい笑顔だったけど」
そうなのだ。
ナーヴァさん「あいたたたた!?」と言いながらものすごく笑っていたのだ。
効いてはいたのだろうが、あくまで笑って受けれるくらいの技の練度でしかない。
「フッ、だけど、どんな格上であれ人体の構造をしているなら、通用する。それが分かっただけでも十分だ」
「カイト、魔物相手でもぷろれすしようとするじゃん……」
む、たしかにその通りだな。
必要があれば魔物相手でもジャーマンをかけるかもしれない。
ならば相手の骨格で判断して投げられるかどうかを決めていこう。
「しかし、セーラさんとイオさんのいるヴィングル王国かー」
「セーラ殿の用いる魔具を見る限り、中々に魔具に関する技術が高い場所と見た」
「たしかに、あの魔具はすごかったな」
“魔筒”と呼ばれる魔具だったか。
セーラさんの“矢”の形状変化型の魔法を弾丸として打ち出すことで、多種多様な攻撃を可能にさせたもの。
手段の選ばなさからして、個人的には絶対に戦いたくない相手でもある人だ。
「あっちはどうなっているんだろうね」
「いや、特になにも起こっていないって聞いたよ」
「……誰から?」
なぜか訝し気な視線を向けてくるリーファ。
その視線に首を傾げながら、質問に答える。
「え、イオさんからの手紙で」
「「……」」
なぜかニーアからの視線も強くなる。
おかしいな、ニーアはイオさんとは会ったことないはずなんだけど。
「シフの兄弟のキッシュの様子とか、お互いの主への愚……悩み事とかを相談したりとか、まあ色々書いているよ」
「文を見る限り、大事にしてくれているということなのでヴィングル王国で、兄弟に会えるのは楽しみだ」
手紙にキッシュのスケッチとかを同封してくれているから、シフも喜んでいるんだよね。
ヴィングル王国に向かう目的は魔王軍との戦いのためではあるけれど、シフが兄弟と再会できるのは僕にとっても喜ばしいことだ。
嬉しそうなシフを見て微笑んでいると、ジト目のリーファが僕を見ていることに気付く。
「今さらっと私への愚痴って言わなかった……? ねえ、言ったよね?」
「うん」
「正直!?」
がびーん、とショックを受けるリーファ。
まあ陰口とかそういうものではないので安心してほしい。
「カイト、私の知らないところで、何かしないで」
「かつてここまで無茶なこと言われたことある?」
僕は5歳児かなんかなの?
中々に無茶なことを言ってくるリーファに頬を引き攣らせる。
とりあえず、むくれるリーファをなだめながら、僕はヴィングル王国までの旅路にちょっとした不安を抱くのであった。
便利すぎるリーファの魔法でした。
申し訳ありません、明日の更新はお休みとなります。




