第二百四十七話
第二百四十七話です。
神獣の雷を実践してから一か月間。
僕達はそれぞれの力を自分のものにするための訓練を行っていた。
リーファとニーアはリファーナとしての力を自分のものにする訓練。
僕は神獣の雷と、自身の戦闘力の強化。
冒険者としての依頼をこなしながら訓練という日常を送っていた僕達だが、突然に城に呼び出されることになった。
「魔王軍の拠点が判明したわ」
「「!?」」
広間に呼び出された僕達にジェシカ様が告げた言葉に驚愕する。
報告書のやり取りだけしかしていなかったが彼女が多忙なのは分かっていた。
そんなジェシカ様がわざわざ僕達を呼び出した時点で大事だとは予感していたけど、まさか魔王軍の拠点が分かったとは……。
「ジェシカ様、拠点といいますと……」
「ニーアの証言で小規模の活動拠点の場所は絞れていたけれど、今回は魔王本人がいる拠点の場所を絞れたと言うことね」
「魔王……!?」
魔王そのものがいる場所が判明したと聞いて、僕達だけではなく元魔王軍幹部のニーアまでもが驚く。
「え、あのいけ好かないクソ野郎が見つかったの!?」
「ニーア、言葉遣い」
「あ、ごめんなさい……いや、子供じゃないよ!?」
見た目が子供なんだから汚い言葉は使ってはいかん。
ニーアを注意しつつジェシカ様の話へと意識を向ける。
「魔王の所在を完全に把握したわけじゃないわ」
「というと……」
「魔王がいると思われる拠点は三つに絞れたということね。そのどれかに魔王がいるらしいわ」
「一つに絞れないんですか?」
僕の質問にジェシカ様が苦々しい表情を浮かべる。
「恐らく魔王軍側の策略なんでしょうけど……なんらかの方法で魔王がそこにいるように見せかけているらしいのよ。三か所、それも遥かに離れた場所に点在する場所に、魔王が同時に存在しているということになると思ってくれても構わないわ」
「……魔王、お得意の魔具の効果ってわけね」
それは厄介だな。
最悪、どこの場所にも魔王がいないという可能性だってある。
その一方で魔王のいる拠点を絞り込めたのは大きな進歩でもある。
「やっぱり一斉攻撃?」
「……本当はそれが手っ取り早いんだけどねぇ……はぁ」
ジェシカ様が疲れたため息を零す。
リーファの言う通り、その三か所を一気に叩けばいいだけの話だ。
それでは駄目なのだろうか。
「セントレアルはこれを魔王軍打倒のための好機と考えているようだけど、同時に罠とも考えているらしいの」
「……あ、そういうことね。拠点を絞れたこと自体が魔王軍の罠で、そちらに戦力を割いている間に手薄になったところを攻め落とすって感じか……」
「概ね間違いないわ。だから、攻め入る戦力は限られているわ。ヘンディルを含めた諸国は自国防衛のための十分な戦力を残していかなければならない」
頭が痛い……。
そうだよなぁ、魔王を倒すことも重要だが、それ以上に人が大事だ。
「それに加えて、大きな軍を動かせば気取られる可能性が高い。動かすのは少人数且つ、金の冒険者に相当する実力者が適任。……ここまで話せば、なぜ貴方達を呼び出したか分かるわよね?」
「……私達が、魔王のいるかもしれない拠点を攻めるってこと?」
「そういうこと。存在する三か所の拠点の近辺にいる勇者を集めて、同時刻に襲撃するのがおおまかな作戦ね」
……勇者でチームを組ませる……?
近辺というと、チサトも参加するかもしれないってことか。
……なんだろう、勇者を都合よく動かすような手にも感じるけれど、おかしな話でもないのがなぁ。
「それで、確認された拠点の近くの国はどこ?」
リーファがジェシカ様にそう問いかける。
「メイデン王国、ライマード王国、ヴィングル王国ね」
「ヴィングルというと……」
「セーラとイオのいる国だったはず」
メイデンとライマードの二国についてはよくは知らないけれど、ヴィングル王国の名には聞き覚えがある。
セントレアルで出会った勇者であるセーラさんとその従者であるイオさんがいる国だったはずだ。
「貴方達はヴィングル王国に向かうことになっているから、少し遠いけれど他の二国は軽く半月はかかる距離にあるから、幾分かマシって感じね」
自国の防衛のために戦力を出せないから勇者であるリーファ達を派遣する……か。
まだまだ実感が湧かないが、展開的にはそのまま魔王と相対する可能性があると考えると、魔王軍という脅威をなくすために―――気合をいれていかなければならない。
●
「チサトの方も同じ感じなんだね?」
『うん、私もヴィングル王国に行くことになった』
城から戻った後、僕は魔具でフィルゲン王国にいるチサトに連絡をとっていた。
彼女はフィルゲン王国の勇者であるので、当然今回の作戦に参加することになっており、一応の確認ついでの連絡をしてみたのだ。
「出発は三日後の朝。ヴィングル王国まで、大体一週間か」
『私達が行動しているのが周りにバレないように配慮するっていうところも結構厄介だよね。だから、商人に偽装させた馬車で移動することになるんだろうけど』
できるだけ秘密裏に行動しなければいけないからか、ヴィングル王国までの移動は馬車ではあるがなるべく身分を隠しながら移動しなければならい。
『でも、本当にいきなりだよね』
「うむ、計画したのはセントレアルだというが、あまりにも突然すぎるという感じはする」
チサトの言葉にシフが返す。
セントレアルといえばリオンさんか。
深読みするのなら、勇者であるリーファ達を動かす必要があったか、それともまた別な理由があったか……。
最早、リオンさんにとって魔王軍は存在する必要がなかった、か。
「まずは、僕達にできることをしていくしかないか」
そう呟いていると、不意に足になにかが触れる感覚がする。
机の下を見てみると、そこには黒と白のオーラが入り混じった子供のライオンがいた。
「リファーナ? 君はまた勝手に部屋に来て……」
「がぅ♪」
『リファーナ? 誰? 新しい女?』
「すっげぇ人聞きが悪い言い方……!」
チサトの言葉に驚きながらも、抱き上げたリファーナを膝の上に乗せる。
なぜかたまに勝手に僕の部屋に来てしまうわけだが、これはリーファもニーアも自覚していることなのだろうか。
まあ、チサトには話していなかったので驚くのも無理はない。
できるだけ分かりやすく、言葉だけで伝わるようにしよう。
「リファーナは、リーファとニーアが融合したことでできた……人間だね。その上で純魔覚醒をして今は子ライオンになっているんだ」
『……どゆこと!? 意味が分からないよ!?』
チサトの驚愕の声。
小さな口を空けて欠伸を漏らすリファーナ。
こんな穏やかな時間ももうすぐ終わりか、と他人事のように思いながら僕はこれから向かうヴィングル王国について考えるのであった。
次の目的地はセーラ達のいるヴィングル王国となりました。




