閑話 狼煙
お待たせしました。
今回は閑話 序盤はジェシカ視点、以降がリオン視点となります。
魔王軍なんてクソッたれよ、こんちくしょう。
女王にあるまじき暴言を口に出しそうになりながら、私は次々とやってくる報告書と諸々の仕事をこなしていく。
魔王軍の幹部が結集している。
各地で投獄した魔王軍幹部が同日、同時刻に消えたことでヘンディル王国を含めて諸国は一種の混乱状態に陥っていた。
強力な力を持つ犯罪者が示し合わせたように脱獄したのだ。
それに関連性を見出さない方がおかしいし、何より実際魔王軍の動きが活発化しているのが本当に性質が悪い。
「……」
しかし、カイトとリーファのいる手前、かっこよく啖呵を切ってしまった手前挫けるわけにはいかない。
ここが頑張りどころだ……!
とりあえず、この書類が終わったら少し休憩をとって甘いものでも―――、
「ジェシカ様、セントレアルから通達が!」
「見たくない!」
「そんな凛々しく言われても見なきゃ駄目です! 外交問題になります!」
「うぅ」
臣下の言う通りなので、泣き言を零しながら嫌々書状を開く。
“魔王軍の拠点の場所が判明。複数存在するため魔王の所在は分からず。こちらの動きを誘導する可能性もあることから、各王国は守りを固め、戦力として勇者を拠点近くに存在する三王国に派遣するべし”
「……」
書状の中身は想像を遥かに超えた爆弾であった。
魔王軍の拠点が判明し、そこを―――攻め入る。
内容を読み、思考を停止させた私は、我に返ると同時にリーファ達を呼ぶように臣下達に呼びかけるのであった。
●
言い訳のつもりだけど悪気はあったけれど、悪意はなかった。
魔王軍を作った理由もあったし、切羽詰まった状況でもあった。
だから信じてほしい。
私の行動は、全てはこの先の未来のためを考えた必要なものだっということを―――
「———分かって欲しいんだ、カイト君……!」
「一人でなに言ってんだ、気持ち悪ぃ」
「気持ち悪いとはなんだい」
テラスで一人、カイト君達への言い訳の台詞を考えていると背後からウィルが煩わしそうな声を上げる。
彼の傍らにはシフの兄弟である大型犬がおり、深海のような青色の瞳をこちらへ向けながら静かに座っている。
「ようするにお前の悪事が明るみに出そうなんだろ」
「悪事ではないよ。私の行動の全てが善意によるものだよ」
「その隠しきれねぇ傲慢さが、周りの奴らを苛立たせんだよボケ」
相変わらず辛辣だね。
まあ、これが彼の平常運転なのでスルーしよう。
すると、ウィルの足元でくつろいでいた大型犬が私を見上げてゆっくりと口を開く。
「母の考えることは私にも理解はできん。母よ、そなたは少しばかり隠し事が多すぎる」
「いや、なんで君他の子達と比べてそんな老成してるの? あと母はやめてね?」
ものすっごい悟ったような口ぶりの大型犬に首を傾げる。
おかしいな、年齢的には一歳未満のはずなんだけどな……まあ、それなりの知識はあるはずだけれど。
「人間はな、そう簡単な生き物じゃねぇんだよ。全部が全部、お前の思い通りに動くとは思うな」
「それは勿論、理解しているよ。だからこそ私は人間の側についているのさ」
むしろ、そうでなくては私が手を貸すようなことはしないだろう。
例え、多少程度の被害が出ようとも重要視するべきは、この先起こりえる災厄だ。
重いため息をついたウィルが、近くの椅子の背もたれに背を預けるのを見ながら私は、空を見上げる。
「メデュラリアムが考えていることは大体分かった」
というより、つい先日非常に図々しい態度で私に命令してきた。
態度こそ気に入らなかったが、その内容は私にとって非常に興味深いものであった。
だからそれを受けた。
「さて、予定を大分早めるようにはなったけれど、これはこちらにとっては好都合かな」
しかし、メデュラリアムの行動は私の予想を超えていたなぁ。
何かをするだろうと思ってはいたが、まさかここまで早く“あの子”を見つけるとは思いもしなかった。
「利用はしていたけど、守っていたつもりだったんだけどなぁ」
まあ、魔王として利用していた私には、悔いる資格はないか。
メデュラリアムは悪女もびっくりな外道ムーブしているから、それに感化されないか心配しているが……。
……いや、この思考は後にしよう。
まずは今の状況の整理だ。
「状況は見ていなかったけれど……私の予想を超えた成長を遂げたのは素直に驚いた。少なくとも、あの段階に達するまで三年は要すると思っていたけれど……やっぱり、君達は原石そのものだ」
カイト君の成長も凄まじいが、リーファとニーアの融合も驚愕ものだ。
あれはまさしく芸術の域にまで達しているといってもいいだろう。
一人では耐え切れないほどの神獣の力を二つに分け、その上魂としての繋がりが強い双子に発現させるとはこの私ですら思いつかなかった。
結果として、リーファとニーアは人間ながらに神獣の領域に足を踏み入れた。
「まあ、ウィルは人間としては規格外どころか、例外的な存在だしカウントするべきじゃないか」
「おい、聞こえてんぞ」
「聞こえるように言ったからね」
神獣の雷。
クルックライザーの持つ、天空より降り注ぐ雷を扱うことを可能にさせたカイト君は、より彼女に近しい人間となった。
いずれは、彼女のように複数の神獣の力を振るうこともできるだろう。
「だがそれ以上に注目すべきは……」
クルックライザーは間違いなくカイト君を殺害するつもりだった。
理由は……さっぱり分からないけど、そうさせなかったのは彼の人徳によるものだ。
「その純真さが私は、とても尊く、愛おしく思うよ」
実のところ私はメデュラリアムと同類だ。
あの邪知暴虐を体現させた蛇と同じと思うと納得ならない感情が湧き上がるけどね。
ウィルさんの傍にいる大型犬は“ニューファンドランド”という犬種のイメージとなります(謎のこだわり)




