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第二百四十五話

第二百四十五話です。

 夜、宿で夕食を食べた後、僕と使い魔達は街外れにある湖へと足を運んでいた。

 リーファとニーアはこの場にはいない。

 昼間のアーミャさんからの訓練が苛烈なものだったのか、ものすごい疲れた様子で夕食を爆食いした後に休んでしまったようだ。


『ママ、ムリ、ツライ、ネル』

『むりゅる』


 リーファは片言、ニーアはよく分からない擬音を口にするほどなので、相当な訓練を行ってきたのだろう。

 そんな彼女たちを引き留めるようなマネをせず、僕は自分の訓練をするべくこの湖にやってきた。


「うむ、静かだな」

「うん。それに綺麗だ」


 昼間ならいくらか人の目がある場所ではあるが、夜なら誰も近づいては来ない。

 湖面が空に浮かぶ月を映し出している光景は、とても幻想的で思わずずっと魅入ってしまいそうになる。


「さて……フィーリー!」

「子供を呼ぶ母親みたいだ……」


 来てくれるかどうか分からないが、フィリの名を呼んでみる。

 僕の声が木霊し、静寂に包まれた周囲に響き渡る。

 数秒ほどすると、湖面に移る月が大きく揺らめき―――そこから一体の龍が飛び出してくる。


「クァァー!」


 綺麗な鳴き声を上げた神獣フィーリヘルト――フィリは、ふわりと湖面に浮遊すると勢いよく僕の元にやってくる。

 身体の大きさを小さくさせながら僕に飛び込んできた彼女を受け止める。


「来てくれてありがとう。フィリ」

「クァー」


 純魔の魔力を纏わせた手でひんやりとした頬を撫でると、気持ちよさそうに目を細めてくれる。


「今日、君を呼んだのは教えてほしいことがあったからなんだ」

「クァ?」

「僕の使い魔のシフは知っているよね? この子がライザさん……クルックライザーから神獣の雷を授けられて、その力の扱い方を教えてほしいんだ」


 餅は餅屋と言うべきか、神獣のことなら神獣に教えてもらえばいい。

 そう伝えると、フィリはこくこくと頷いてくれる。


「クァ! クァー!」

「えーっと、シフ?」

「……試しに自分に撃ってみろ、と言っている」

「え!? いきなり実戦!? それもフィリに向かって雷をぶつけろって!?」


 ゲームとかでは水属性っぽいフィリに雷をぶつけたらダメなんじゃ……?

 躊躇する僕の腕から軽く飛び出たフィリは、空中に浮かび上がりながら周囲の水を操りだした。

 天に昇る水の柱を作り出しながら、こちらを見据えたフィリは、揚々とした様子で僕へと声をかけてくる。


「“くくるんの雷はビリビリして気持ちいいからいいよー”といった感じのことを言っている。……多分」

「く、くくるん……」


 ライザさんの驚きの渾名に衝撃を受けながらも、どうしようか悩む。

 するとフィリが、陽気な鳴き声を僕へと向ける。


「クァー!」

「……分かった」


 そこまで言うのなら断る方が駄目だな。

 フィリなら心配はない、そう信頼してやってみよう。


「ライム、君は籠手に。ユランは僕の周りに盾を。ハクロは僕の傍に控えてて」


 使い魔達に指示を出し、深呼吸をする。

 神獣の雷。

 字面だけでそれが生半可なものではないのは分かっているので、僕自身も肉体強化を発動させながら湖面の上に浮かぶフィリに籠手に包まれた右の掌を向ける。


「シフ、感覚としてはどのように放つ?」

「方法としては支援魔術とは違う、別の要領で放つことになる。おぬしは高めた純魔の魔力を私に注ぎ込んでくれ」

「了解」


 早速、純魔の魔力を高めて帽子に変身しているシフへと流し込む。

 シフと僕の身体をバチバチと電撃のような魔力が走る。

 頭上の、遥か上空にある空に真っ黒い雲が広がり月の光を隠し―――ゴロゴロという雷の轟く音が響く。


「む、むむむ!」

「……!」


 僕だけではない、明らかに異常な現象が起きているのは分かり切っている。

 だが、今はそれを気にせずに黄金色の輝きを放つ籠手に左手を添えながら、前方へと突き出す。


「今だ!!」

「ハァァァ!!」


 ―――僕の掌から電撃が放たれることはなかった。

 その事実に拍子抜けするが、その次の瞬間には頭上から眩いばかりの雷がフィリへと叩きつけられた。


「へ?」


 呆気にとられた声を漏らした僕を襲ったのは、今にも耳がおかしそうになるほどの轟音と閃光。

 その次に、常軌を逸した衝撃が僕へと襲い掛かり、ユランの防御をあっさりと砕き後ろへ吹き飛ばされる。


「ワォォン!?」

「ぬぉぉぉ!?」


 危うく背中から木に激突しかけるが、ギリギリでハクロが風で衝撃を和らげてくれた。

 服と髪についた土ぼこりを払いながら顔を上げると、蒸発した水蒸気を纏ったフィリが上機嫌な様子で飛び跳ねている光景が視界に入りこんだ。


「クァー! クァー!」

「こ、これが神獣の雷……? うっ、むぅ……」

「カイト、大丈夫か!?」

「いきなり魔力を持っていかれただけだから、大丈夫」


 大体、三分の一くらい削られたか。

 いや、逆を言うならこの程度の消費で強力な落雷を落とせてしまったということになる。


「……カイト」

「シフ……?」


 帽子から猫の姿にもどったシフが雷が落ちた場所を見て声を震わせる。


「これは……この雷はおぬしから発せられたものではない。自然の法則に従って作り出された雷が、指向性を持って、落とされたのだ」

「つまり、僕達は天候を操った……ということ?」

「いいや、それ以上だ。いいか、カイト……これは最早、権能に近い。ライザ殿は、クルックライザーが持つ雷を司る権能の一部を、私の身体に分け与えたということになる……!」


 大自然の力を一個人が扱う。

 僕にでもその異常さが理解できてしまった。

 これまで支援魔術を用いて作り出した電撃はあくまで人間が発揮できる範疇の力だとするならば、先ほど僕達が落とした雷は、自然の法則を捻じ曲げる神獣のみが可能にするものであった。


「……とりあえず、技名を決めよう」

「カイト、現実逃避しないでくれ!?」


 威力だけの技かと思っていたら、予想以上にやべぇ力をもらっていたことに気絶しそう。

 現実逃避していると、雷の直撃を真上から受けたフィリが、また僕の元へと飛び込んでくる。

 無傷。

 変わらず綺麗な鱗を持つフィリに僕は語り掛ける。


「クァー!」

「フィリ、怪我はない?」

「クァ、クァァ!」


 褒めて褒めて、と言わんばかりに頭を擦りつけてくるフィリを撫でながら、僕は改めて自身の力の危険さを認識する。

 これは、安易に使っていい力じゃない。

 ライザさんの言う通り、僕の身も滅ぼしかねない力だ。


神獣の雷という壊れ技。

普段使っている電撃よりも強力なものですね。


明日の更新はお休みとさせていただきます。

次回の更新は次の月曜日を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「……とりあえず、技名を決めよう」 >神獣の雷という壊れ技。 もう「神雷」でよくね?
[気になる点] えーとつまり この神獣の雷は お外でしか使えないと言うことでせうか? 地下で使ったら岩盤ブチ抜いて落ちてくるとかだと怖すぎる。
[良い点] 本編と感想欄で笑えるネタが多数ある事 危うくチョコスティックパン吹き飛ぶとこだったぜ・・・!
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