第二百四十四話
第二百四十四話です。
リーファとニーアは自分たちの力を使いこなすためにアーミャさんと共に修行をすることになった。
アーミャさんは、あのベルンさんの眷属。
師匠役としては誰よりも適任だと考えた僕は、彼女たちの集中を乱さないようにその場を後にした。ものすごく必死な様子で引き留められはしたけれど、これも彼女達のため、と僕は心を鬼にした。
「ふぅー」
彼女達から離れた僕はギルドの裏手にある訓練場にやってきていた。
限られた空間ではあるが僕の場合は見られて困るような訓練でもない。
「行くぞ、ライム」
「キュー!」
ライムに変身してもらったのは、ベルンさんの遺跡で見せた籠手形態。
右手を前に突き出し手首部分から伸びたロープを、20メートルほど先に置いた空瓶へと向かわせる。
要領はロープと同じ、ロープに手を添えて軌道を修正するイメージで魔力を纏わせ―――水の入った瓶へと絡ませる。
「ほいっ!」
軽くそれを引き寄せ宙を舞ったところで籠手の前腕部分から刃を伸ばし、シフの支援魔術での炎を纏わせた赤熱した刃で真っ二つに切り裂く。
当然、中から弾けるように溢れ出た水が僕に降りかかるが、それはユランが生成してくれた魔力の盾が防いでくれる。
「連続で武器の形を変えるのもいいけど、こっちは最小限の動きで攻撃を繰り出せるってことか」
それなら右腕で相手を引き寄せて左でぶん殴る……ってこともできる感じか。
何も言わずに右手の籠手を見つめていると、籠手の形状が拳に棘がついたようなものや、指の先端が鋭利な爪に変わったり、勝手に変わっていく。
「……ライムのアイディアかな?」
「キュ!」
「ライムって結構パンクだよね……?」
「うむ、センスが過激なのは分かるぞ」
正直、嫌いじゃない。
こういうアイディアもいつかは役に立つから覚えてもらおう。
とりあえず籠手の形態を解除させて、今度はロープへと変身してもらう。
先ほどは、あくまで相手を引き寄せることしかできないので、これから普通にロープの形で練習してみよう。
「シフ」
「うむ、炎だな」
帽子に変身したシフが、ロープに変身したライムに炎を纏わせる。
黒い手袋で炎に燃えるそれを手にした僕は、それを振り回したり、地面に叩きつけて練習する。
「……あとは、電撃か」
ある程度練習をした後、僕はおもむろに自身の掌を見つめる。
“神獣の雷”
シフに授けられたソレを、まだ僕は使ってはいない。
その理由は単純、僕もシフもそれが危険なものだと理解できていたからだ。
「こればっかりは、都市の近くじゃ試せないよね」
「ああ、これは支援魔術とは比べ物にならないほどの技だろう。だが……ライザ殿が私にそれを託したと言うことは、おぬしがそれを扱える技量に達したということだ」
これを使う時がやってくるかもしれない。
肝心な時に、自分や味方にも被害を及ぼす技とかになってほしくはない。
「誰かに教えてもらえばいいんだけどなぁ」
「うぅむ、それが近道なのだが、難しい。少なくとも神獣に理解がある者ではないと」
神獣に理解がある、か。
真っ先に浮かんだのはメリアであるが……。
「メリアは、何か忙しそうだからなぁ……」
「シャァ?」
首を傾げるユランの頭を軽く撫でながらため息をつく。
アーミャさんとナーヴァさんはリーファとニーアの訓練に集中させたいし、後は―――、
「よし、決めた」
「む、どうしたのだ?」
「今夜、街はずれの湖に行こう。フィリに聞いてみる」
呼び出すような形になってしまうのは申し訳ないけど今はフィリしか頼れない。
フィリは言葉が喋られないけれど、それはフィーリングでカバーする。
「頑張ってるね」
「はい?」
内心で今夜の予定を組み立てていると、後ろから声をかけられる。
振り返ると、訓練用の槍を持った灰色の髪の女性がいた。
「あ、スノウさん。こんにちは」
「こんにちは、カイト」
「貴女も訓練ですか?」
「うん、そんなところ」
冒険者としての先輩であり、金の冒険者であるスノウさん。
彼女も僕と同じように訓練場にやってきたということは、同じく訓練しにきたんだろう。
「ここで出会ったのも何かの縁。ちょっと手合わせしない?」
「! 願ってもないです。むしろこちらからお願いします」
かなりの実力者であるスノウさんと手合わせできるのは嬉しい。
僕があれからどれだけ実力をつけられたのか確認できるし、頑張らなければ。
「そ、そういえばさ」
「はい?」
「もう、ヘンディル仮面は……やらないの?」
やや控えめにそう訊いてきたスノウさんに僕は硬直する。
「今の、僕は……もう……」
「ど、どうして? 待っている人もいるかもしれないじゃん……」
そうかもしれない。
だけど、今は無理なんだ。
なにせ僕の覆面は全てリーファに奪われているのだ。
「僕の覆面は、奪われてしまったんです」
「え……? 嘘……」
「すみません。だから、もう当分はヘンディル仮面にはなれません」
「そんな……」
落ち込ませてしまった。
……くっ、必ずリーファから取り返して見せるからなぁ……!
絶対に諦めないからなぁ……!
「そこまで深刻な会話か、これは……? 私がおかしいのか……?」
「シャァ」
「慰めてくれるのか……ユラン……ありがとう」
「キュー」
「ライム、おぬしはカイトに鎖を巻き付けてなにをしたいのだ……? え、そっちの方がかっこいい……?」
鎖を巻き付ける……?
ロープの代わりに鎖ってことか? ジャラジャラうるさそうだけど、耐久面で優秀だから結構いいかもしれないな。
いざというときは腕に巻き付けて籠手代わりにできるし。
「とにかく、今は手合わせをお願いします」
「……うん、分かった。ここは訓練場だからお互い、本気を出さないようにね?」
「了解です」
ライムを棍棒へと変形させながら、スノウさんと距離を取る。
思わぬ形でスノウさんと手合わせすることになったけれど、これはこれでいい機会だ。
僕に足りないのは技術だ。
それは一日二日で会得できるほど簡単なものじゃない。
さあ、ボコボコにされにいくぞぉぉ!
ライムは中々にパンクなセンスをしています。
彼のセンスに任せると武器が禍々しくなります。




