第二百四十三話
第二百四十三話です。
ヘンディル王国に帰ってから一週間。
未だに魔王軍関係で城の方は忙しそうではあるが、リーファと僕には普段通りに生活していいとジェシカ様に伝えられていた。
とりあえずは休息を取りながら軽くギルドでの依頼をこなしていた僕達だが、今日はオロチのいる遺跡の近くでリーファとニーアと特訓を行っていた。
「じゃあ、やるよ。姉さん」
「合体するなら私を元の姿に戻した方がいいんじゃないの?」
これからするのは二人が融合? 合体? する力の練習だ。
二人が最高潮の力を発揮した状態で融合することが可能らしいが、今はニーアが子供のままの姿だ。
これじゃあ、少し前に見せたような弱体化した形態になってしまうだろう。
「駄目だよ」
「えー、カイト君。もう私逃げたりしないよ」
「君のことを信用していないわけじゃない。むしろ、逆だ」
やや面を食らうニーアに、続けて話しかける。
「まだ君達はリファーナとしての力を十分に発揮できていないし、操れてもいない。それは訓練で克服するべきだろうけど、君達の場合は話が違う」
「危ないってこと?」
「うん。リファーナとしての姿なら問題なく戦えていたのはベルンさんから聞いてるけど、その上の形態は暴走するかもしれない」
僕が言わんとすることが分かったニーアは、がっくりと肩を落とす。
まあ、元の姿に戻りたいと思う気持ちは分からなくもないけど、今の状態になった理由はこの子の自業自得でもあるので戻すことはできない。
「だからこそ、君はその小さいリファーナ……いや、ミニファーナで練習していくべきだと思う」
「ちょっと待ってカイト……! 勝手に私達の融合先の名前を決めないで!?」
「そんな安直な名前嫌だよ!?」
非難の声が聞こえるが、僕は両手をリーファとニーアの肩に置き、純魔の魔力を流し込む。
驚愕の表情を浮かべた二人は驚きながら後ろへよろめくと、一瞬にして純魔覚醒―――その上の全身を黒と白、それぞれの色に染まる形態へと変わる。
「さあ、訓練開始だ」
「くっ、しょうがない。やるよ、姉さん」
「はぁー」
魔力に全身を包まれた状態で、リーファとニーアが一つになる。
お互いが引き寄せられるように激突した瞬間、光と共にその姿が一人の少女へと変わる。
白と黒の髪を持つ少女、リファーナ。
本来の姿とは異なる子供の姿の彼女に、僕は腰にかけているロープを取り出し、ハクロを出現させる。
「ミニファーナ、準備はできてるか?」
「とりあえずミニファーナはやめてね?」
縄を両手で緩く持ちながら、ハクロの風を纏わせる。
相手は格段に力が落ちているとはいえ、リーファとニーアの力を合わせた状態。
生半可な力では、こちらが押し切られる。
こちらが使うのは肉体強化、ロープ術、ハクロの力。
シフ達は近くで見学してもらっているので、僕も限られた力だけで臨まなくてはならない。
「あぁ、もう。しょうがない! 行くよ、怪我しないでよ!!」
リファーナの足元に冷気が発せられる。
それには影のような黒いオーラが入り混じっており、リーファともニーアのものとも違う雰囲気が感じられた。
それらを纏いながら、黒い氷で作られたナイフを手にして斬りかかってくる。
子供の姿とは思えないほどの速い攻撃。
それらを目で追いながら、右腕に肉体強化の金色の光を纏わせ―――ナイフの刃を受け止める。
「な!?」
「部分肉体強化」
そのまま衝撃を逃がすように腕を引き、両手に持ったロープをリファーナの身体に引っ掛け、後ろへ放り投げる。
「流し縄」
「へにゃぁ!?」
地面に手を突き、体勢を立て直したリファーナが後ろへ下がろうとするが、すかさずロープを投擲する。
魔力で操られた縄は正確にリファーナへ向かって行くが、彼女はそれを容易く避けてしまう。
「ハクロォ!」
「ウォォォン!」
ロープが生き物のように直角に曲がり、さらにリファーナを追う。
彼女を捕まえるというところで、影での転移で逃げられてしまう。
少し離れた木の影から姿を現した彼女は、引き攣った笑みを浮かべて、ふわふわと浮いているロープを指さす。
「か、カイト、なにそれ」
「ロープ術が届く範囲はハクロの射程範囲。名付けるなら……狼の縄張りってところだ」
「なんでそのネーミングセンスを私の名前に発揮してくれないの……?」
ハクロの風が纏われたロープを手元に引き寄せ、地面に垂らすようにして構える。
悔しいが、僕のロープ術はまだまだシーナさんの足元にも及ばない。
だからこそ、ハクロにサポートしてもらうことでこのロープ術を実践レベルにまで扱えるように昇華させた。
「遠慮しなくてもいい、本気でかかってこい」
「……上等だよ。子供の姿でも、私は怖くて強いんだから……!」
リファーナは両手に氷を纏わせ、黒い氷で作られた爪を作り出す。
それを振りかぶった彼女が思い切り爪を振り下ろすと、まるで弾丸のように氷の礫が放たれる。
「ふんっ!」
風を纏った縄を回し、礫を叩き落とす。
飛び道具で牽制か? なら、次の狙いは……!
予想通り、先ほどまで木陰にいたリファーナの姿はどこにもいない。
「隙ありだよ、カイト!」
僕の背後の影に転移してきた彼女の爪を身体を傾けながら回避する。
リーファのいつもの手順。
相手の影に転移して不意の攻撃を行う、のだがそれは相棒を務めている僕には通じない。
「戦法が甘いわぁ! このバカ者!!」
「ひゃぁぁぁ!?」
攻撃を避けられ、体勢を崩した彼女をロープでぐるぐる巻きにする。
地面に落ちた彼女は目を回しながら、ぐったりとしている。
そんな彼女にため息を漏らした僕は、シフをこの場に呼ぶ。
「シフ、総評」
「自分の強みを生かし切れていない。強力な個性を有するであろう黒い氷をただの武器としてしか扱っていない。これでもまだ優しいが、端的に言えば戦法が雑」
「ぐむむむ……!」
縄を外した彼女はその場で座り込み、悔しそうな表情を浮かべる。
なんというべきか、この子は二人の力を別々のものとして使っているんだ。
自分がどれだけのことができるか、どう応用できるのかをまだ分かっていない。
……まずはそれをうまく扱えるようにするのが課題か。
「こ、こうなったら!」
「ん? いや、ちょっと待っ―――」
「純魔覚醒!」
リファーナの身体を黒と白のオーラが包み込む。
一瞬卵のような楕円球へと変わったそれは、氷解するように消え失せる。
リファーナの強化形態。
思わず構える僕の前に現れたのは―――、
「がおぉぉ!」
「……猫?」
それは、僕の膝くらいの大きさの猫……いやライオンの子供であった。
僕を見上げ、一生懸命に吠える子ライオンは普通のものではなく、白と黒のオーラでその姿を形成しているようだ。
これが、子供状態のリファーナの強化形態……?
大きさはシフより二回り大きいくらいか。
「ぐるるる……!」
「……」
「カイト、落ち着け! 顔が一般テイマーからかけ離れた不味いものになっているぞ!?」
「ハッ!?」
シフの声で我に返った僕は改めてライオン状態のリファーナを見下ろす。
暴走はしていない。
していないのだが、どうやら話すことはできないようだ。
「がぁぁ!」
「カイト、襲ってくるぞ!?」
とりあえず飛び掛かってきた子ライオンを目にした僕は、掌に作り出した純魔玉を軽く放り投げる。
すると、突然方向転換をした子ライオンは純魔玉の方に向かい大きな口を開けて食らいついた。
満足そうに喉を鳴らした彼女は、僕の前にやってくるなり行儀よく地面に座る。
「ぐるる♪」
「懐くの早すぎじゃない……?」
「これはあれだな、意志よりも本能が優先されている感じだな。最初は、普通にカイトと戦おうとしたのだろうが……」
即座に野生を忘れているんだけど。
間違いなくリファーナとしての意思はあるだろうけど、子供状態でこれなら大人状態はもっと危険だろう。
「どうしようかな……」
「なら、私が教えましょうか?」
「ッ!?」
子ライオンの頭を撫でながらそんなことを考えていると、すぐ後ろからそんな声が聞こえた。
咄嗟に子ライオンを抱えてその場を飛び下がると、僕の背後にはついここにいるはずのない人物―――アーミャさんがいた。
「あ、アーミャさん!? どうしてここに!?」
「リーファちゃんとニーアちゃんを導け、というベルン様の命でここにやってきました。どうやってここに来たという質問については、影での転移を用いてやってきました」
姉もそのうち顔を出しますよ? と言ったアーミャさんは僕が抱えている子ライオンを抱き上げる。
嫌そうに暴れるリファーナの姿をジッと見つめた彼女は、一つ頷いた。
「力の解放の仕方がよくできていますが、そこから先がまだまだのようですね」
「大丈夫そうですか?」
「ええ。二人ならきっとものにできるはずです。ん~、えいっ!」
そんな軽い声と共に、アーミャさんは子ライオン状態のリファーナを、リーファとニーアに分離させてしまう。
呆然とした様子で地面に落ちた二人から、僕を見た彼女はナーヴァさんと同じ、人懐っこい笑みを浮かべる。
「カイト君、あとは私にお任せください」
「はい。……僕になにかできることはありますか?」
「お気持ちだけで嬉しいです。私が、お二人に力の扱い方を教えている間、貴方は貴方の日常をお過ごしください」
「了解しました。リーファ、ニーア。頑張るんだぞ?」
そう二人に言うと、なぜか慌てた様子が返ってくる。
これも君達のため、そう思いスルーしつつ僕はこれからどうするべきか、考えるのであった。
リファーナ(完全体)→巨大なライオン
ミニファーナ(子供)→子ライオン




