第二百四十二話
第六章 開始となります。
ヘンディル王国に帰還した僕達を待っていたのは驚きの知らせであった。
デウスを含めた捕まえた魔王軍幹部の脱獄。
どのようにして脱獄されたか手段は不明の上、ほぼ同じ時間に幹部達の姿が監獄から消えたため、どこの国もある意味の混乱状態に陥っていた。
「メルクさん、母さんからもらった土産のお野菜。ご飯作って」
「お姉ちゃん、妹が能天気すぎて心配なんだけど」
「はぁ……」
城への諸々の報告と事態の終えた後、ようやくヘンディル王国の家である宿に帰ったリーファは、真っ先にメルクさんにシーナさんからいただいた野菜を差し出していた。
ニーアの魔法によって冷凍保存されたソレを見たメルクさんはどこか感心したような様子だ。
「ほう、随分といいのを持ってきたな」
「それと、母さんからの手紙もある」
「ああ、後で読んでおく」
手紙を受け取ったメルクさんは、エプロンのポケットにそれを入れると野菜の詰められた箱を持って厨房へと戻っていく。
僕達の座っている席に戻ってきたリーファは満足そうな表情をしている。
「それで、里帰りはどうだった?」
同じ宿に住んでいる冒険者ライラの質問にリーファとニーアは首をひねる。
本当に色々あったが、神獣関連は話してはいけないのでそれを省いて話そう。
「リーファとニーアの母親に会って、古い遺跡の調査とかをしたんだ」
「そうなんだ。どんな人だった?」
「僕の師匠であり先生って感じ」
「んー、どういうこと?」
ライラにシーナさんのところで学んだことを話す。
時折、リーファとシフが補足しながら話していく。
旅の思い出といっていいか分からないけど、シーナさんの元で学んだことも話す。
「カイト、街中であの変なマスク被ろうとするんだよ? もうどうしたらいいと思う?」
「はは、微笑ましいじゃん。この都市では子供に大人気らしいし」
「大きな大人にも人気だったのはどうかと思うんだけど……」
なぜかリーファはヘンディル仮面が不服なようだ。
というより、僕の覆面をまだリーファが持ったままなんだけど。
普通に返してほしいんだけど。
「いっそのこと燃やした方がカイトのためになると思うんだけど」
「あ、さんせー」
「大反対だよ!?」
自身の影から覆面を取り出し、人質に取るように掲げるリーファに賛成するニーア。
慌てて取り返そうとすると再び影に戻され、取り戻せなくなる。
「僕のヘンディル仮面……!」
「カイトよ。おぬし、少し病んでいるのでは……?」
「あ、あははは……これは重症だね……」
悔しがる僕にライラが引いた様子を見せる。
しかし、たかが覆面を一つ奪われた程度で僕がめげるはずがない。
そもそも誰がヘンディル仮面の覆面が一つだけと言った。
「フッ、甘いぞリーファ」
「え?」
「僕の覆面が一枚だけかと思ったら大間違いだ。僕の部屋にはジェシカ様からいただいた予備の覆面が一箱分ストックされてい―――」
「重影技」
瞬間、僕の身体をリーファが作り出した影で拘束される。
椅子ごと僕の身体を拘束した彼女に当然の如く僕は慌てる。
「な、なにをする!? しかもこれ君の必殺技みたいなものじゃないの!?」
「シフ、私がカイトを押さえている間に姉さんに覆面の場所を教えて」
「な、なにぃ!?」
まさかの強行!?
シフを見ると、ものすごく気まずそうな顔で目を逸らされる。
ライムにもユランにも同じような反応されてしまう。
「すまぬ、カイト。これもおぬしのためだ……!」
「シフゥ!?」
「え、えーと、ごめんね? カイト君」
ニーアと共に上階へ上がっていくシフを見送ることしかできない。
そうして、僕の予備の覆面はリーファに隠されてしまうことになってしまった。
ぐぬぬ、絶対に取り返して見せるからなぁ……!
●
あの後、普通にメルクさんが作ってくれた夕食を食べた。
ストックの覆面が奪われた程度で怒るほどでもないし、シフも僕を想ってそうしてくれたのはなんとなく分かっている。
しかし諦めたわけではない。
ジェシカ様に頼めば覆面を用意してくれるだろうが、忙しい彼女に頼るのはいい選択とは思えない。
「諦めんぞ……!」
「うぅむ、これはもう放っておいた方が正解なのだろうか……」
自室のベッドに座り唸りながらシフを撫でる。
ライムもユランもハクロに、やや呆れた視線を向けられているが僕はめげない。
「……しっかし、デウスが脱獄かぁ」
「うぅむ、あやつは恐ろしい相手だったからな」
フィルゲン王国を襲撃した魔王軍幹部。
巨大な魔物、ベヒモスを操った彼の襲撃はなんとか防げたものの、彼との戦いは僕にとってはかなり記憶に残るものとなった。
黒煙を操る獣人。
触れれば大怪我を免れない熱を持つ煙の魔法も驚異的だが、何より恐ろしいのは彼の手段を選ばない戦術にある。
「力じゃなくて、あの狡猾さが恐ろしかったな……」
「今の実力を考えればカイトに軍配が上がるが、それを覆される可能性があるからな。もし、再び戦うことになったら用心してかかるべきだろう」
「そうだね」
いくら強くなったとしても思いもよらないことで足元をすくわれるかもしれない。
魔王軍が動こうとしているのか?
これまで襲撃という過激な行動をしてきたけど、なんだろうか……ここに来て、初めて得体の知れない動きをしているように思える。
「まさか、魔王が動き出した……?」
そういう可能性もある。
ここまで誰もその姿を知らなかった魔王が動いたとなれば、何か大きなことが起こるかもしれない。
「いざという時のために備えるべきだな」
本当は冒険者としての依頼を受けたいけれど、そう悠長なことも言ってられないかもしれない。
リーファとニーアは合体という新たなパワーアップを果たした今、僕も今以上に成長していかなければならない。
「よし、明日からまた頑張ろう」
「? よく分からないが、おぬしがするというのならそうしよう!」
依然として実体の掴めない魔王軍であるが、それでも今できることをやっていこう。
いざという時に自分に力が足りなくなることがないように。
予備のたくさんあった覆面でしたが没収されました。




