第二百四十一話
第二百四十一話です。
遺跡での騒動から三日が過ぎた。
ベルンさんとライザさん、二体の神獣と関わることになってしまったが、その後はそれほど大きな騒ぎもなく穏やかに過ごすことができた。
……いや、軽く嘘をついた。
ちょっとばかし騒ぎがあった。
家に戻った後、リーファと子供姿のニーアが、純魔覚醒状態で融合し―――遺跡で見た“リファーナ”の姿になろうとしたのだ。
自力で純魔覚醒になれるようになっているリーファは別として、子供状態のニーアは僕の純魔の魔力を使わなければ純魔覚醒に至れないほどに幼いからか、それに伴う融合した姿も変わってしまっていた。
『って、私も小さくなってるぅぅぅぅ!?』
僕が遺跡の地下で見たリファーナは、リーファとニーアの要素を混ぜ合わせた上で、数年ほど成長させた姿だったのだが、僕とシーナさんの前に現れたリファーナは子供の姿だったのだ。
子供状態のニーアに引っ張られたのか、その姿もニーアと同じかそれより幼いくらいの年齢になってしまっていた。
唖然とするリファーナに、シーナさんは驚きながらも彼女を抱き上げた。
『あらあら、不思議なこともあるものですねー』
『ちょ!? 母さん、子供じゃないんだからやめてよー!?』
どうやら、シーナさんの腕の中から抜け出せなかったことから子供状態のニーアと融合すれば、弱体化してしまうようだ。
なんとも不思議な仕組みだなあ、と他人事のように僕とシフは思った。
そんなこともありながら三日間、しっかり休息をとった僕達は荷物をまとめヘンディル王国に戻ることになった。
「ニーア、リーファ、今度はちゃんと連絡を取るようにしてくださいね」
「うん。分かった」
出発の支度を終えたリーファとニーアが、シーナさんに頷く。
まあ、連絡に関しては……僕がちゃんと見ておけばいいだろう。
荷物の確認をしながら、リーファ達の会話に耳を傾ける。
「リーファ、私は貴女にとても期待しています」
「む?」
「このままでは貴女はこの先、誰もいい人を見つけられず孤独な余生を過ごすと思っていました」
「母さんって、私の母親だよね……?」
「勿論です。だから、貴方達のことをよく理解しているんです」
なにやら大事な話をしているようだ。
片手間で聞いているので、内容はよく分からないけれども。
「おお、カイト。それはこちらの荷物ではないか?」
「あ、そうだね。ありがとう」
「ウォン!」
「ハクロもありがとう」
風を操り荷物を仕分けしてくれるハクロにお礼を言いながら、中身を確認した荷物の口を閉じる。
これで、よし。
忘れ物は……ないな。ここに来る時、魔馬の手綱を引いてくれたおじいさんにも、ヘンディル王国に帰ることは伝えたし、荷物に関しては大丈夫だろう。
額を拭いながら立ち上がると、まだリーファとシーナさんの話は続いているように見えた。
「最悪、ニーアと力を合わせてください。むしろ、貴方達は二人でようやく一人前なのですから協力してください」
「内容はともかく、激励してくれているんだよね……?」
「いいえ、脅しているのです」
「「脅す!?」」
にっこりと微笑んだシーナさんに、リーファとニーアが顔を青ざめさせる。
たしかに、力を合わせるべき時にそれができなければ、取り返しのつかない事態を引き起こすかもしれない。
「シーナさんの言う通りだぞ」
「「「え?」」」
僕の呟きになぜかシーナさんまでこちらに振り返る。
口に出したからには止めらないので、続けて言葉を口にする。
「君達は力を合わせることで、すごい力を引き出すことができるんだ。仲良く、とまではいかないけれど、お互いに尊重し合えるようになれば、君達にできないことなんてないと僕は思う」
「その通り、分かりましたか?」
「「……」」
「返事は?」
「「は、はい!」」
威勢のいい返事をする二人。
そんな二人に満足そうに微笑んだシーナさんは僕の方へと向き直る。
「ここは、もう貴方の家です」
「……え?」
突然言い放たれたその言葉に一瞬何を言われたのか理解できなかった。
呆気にとられる僕に、微笑んだ彼女は続けて言葉を発する。
「だから、いつでもここに帰ってきていいんです」
「……はい」
「貴方の本当の帰る家ではありませんが、少なくとも私にとっては貴方は家族も同然と思っています」
———僕が、元の……自分の家に帰ることは二度とない。
元の世界にいる家族にも会うことはないし、それを無理やり納得させていた。
納得できるはずがない。
しかし、納得しなければならない。
だから今、シーナさんに言われた言葉は素直に嬉しかった。
例え、本当ではなくともこの世界に僕の“帰っていい”場所ができたのだ。
「シーナさん。その……ありがとうございます」
「こちらこそ、娘を支えてくれてありがとうございました。きっと、たくさんご迷惑をかけてしまいましたが……」
「勿論、これからも変わらず支えていくつもりです」
少しだけ、心を重くさせていたものが軽くなった気がした。
ここに、リーファの故郷に来て良かった。
改めて、シーナさんに別れの挨拶を口にした僕は、リーファとニーアと共に彼女の家を後にする。
「ありがとうございましたー!」
「「いってきまーす!」」
シーナさんの姿が見えなくなり、馬車が用意されている町へと入る。
最早、勇者であることを隠す必要もないのでリーファはフードを被らずに普通に歩いている。
注目を集めてしまうが、本人はそれほど気にした様子ではないようだ。
「最初はどうなるかと思ったけれど、ここに帰ってこれてよかった」
「うん。正直、私もここにあまりいい思い出はなかったけれど……」
隣を歩いているニーアがこちらを見上げる。
「私も、来てよかったと思う」
「姉さんがそう思うのは、ちょっと意外」
「自分でもそう思っているからわざわざ言わなくてもいい。……あ、カイト君の前で母さんに恥かかされそうになったことは普通に嫌だったからね!」
リーファとニーア、ここに来る以前より仲が良さそうに話す彼女達を見て安心する。
神獣云々よりも、ここに来たことは二人にとってもいい方向に向かってくれるようだ。
「あとは、僕のこれから……か」
ライザさんが危惧していた僕の未来。
苦難続きで、想像もできないほどに苦しい未来が待っていることが予想されるけれど、なにが起こるかまでは全く想像ができない。
恐らく、リオンさんはそれを知っているのだろうが―――恐らく、彼女は僕にそれを話さないだろう。
「……はぁ」
悪意はない。
多分、よかれと思って僕に隠しているのだろう。
然るべき時に話してくれることを期待して、今は自分の日常を暮らしていくしかない。
何かが起こった時は―――それからだ。
第五章はこれにて終わりとなります。
次回は閑話を予定しております。




