第二百四十話
第二百四十話です。
ラッセさん―――ライザさんの正体が神獣だと判明した後、僕達は遺跡を出ることになった。
ライザさんを含めた僕達がその場を後にする時、リーファとニーアの力の由来であった獅子の神獣、ベルンさんは僕達に優しく―――、
「私はあまりお前達の素行に口出しはしたくはないが慎みを覚えるべきだ。リーファ、お前は少しは食い気を押さえるべきだ。厳しいことをいうようだが、餌付けされているようなものだ。カイトは感性が麻痺しているので、強く怒られないだろうが、普通なら間違いなく怒ることをしているからな、お前は」
「へうぅ……」
「ニーア、お前はリーファと概ね同じだ。あと魔王軍については多少反省しているようだが……もっと反省しろ」
「あうぅ……」
……優しく、説教してくれた。
崩れ落ちる二人を見下ろした彼は、軽いため息をつきながら続きの言葉を口にした。
「お前達は今日、共に力を合わせ分かたれた力を一つにしてみせた。だがしかし、それでもお前達は二人の人間であることには変わりない。———力を合わせよ。お前達が進む足を止めぬ限り、人を想う気持ちを持つ限り、あらゆる障害を打ち砕く可能性を見出せることだろう」
ベルンさんは、リーファとニーアに力の扱い方を教えるために彼のいるこの場所に招いた。
さすがに僕達だけではなく、ライザさんが来たことは予想外だったようだけど、それもなんやかんやでなんとかなったようだ。
ベルンさんの言葉の後、彼の眷属であるナーヴァさんがとてつもない勢いでこちらに飛び掛かってきた。
まさかのフライングアタック!? と思い、真正面から受け止めたが彼女が笑顔を浮かべている。
『カイト君、また遊ぼうね!』
「ええ、今度は手加減されずに戦えるようにしましょう……!」
『うん!』
『姉さん、話が噛み合ってないことに気付いてる……? あ、ご迷惑をかけたお詫びをかねて、どうぞ召し上がってください』
終始僕は手加減されていた。
彼女が自身の力を解放した後は、防戦一方だった。
だから、次は手加減されないように鍛えよう。
アーミャさんから、菓子と思われる包装された箱をいただきながらそう決心する。
それから僕達は、アーミャさんとナーヴァさんに遺跡の出口にまで送ってもらった。
遺跡に入る前まで、いなかった二人を見たシーナさんは驚いた様子だったが、それでもリーファとニーアの無事な姿に安堵している様子だった。
そして―――、
「僕も、いつまでもこのままというわけにはいかないな」
遺跡から出ると夜になっており、周囲の森は暗闇に包まれていた。
入る時に降りた穴から地上に出た僕達は、明かりを灯した魔具を手にしながら、ライザさんと向かい合っていた。
ここに来る前までと変わらない、大きなリュックを背負った大柄な男性の姿。
そんな彼に、シーナさんが話しかけた。
「まさか貴方が神獣だったとは思いもしませんでした」
「隠していてすまない」
「いえ、謝らなくてもいいんです。神獣と隠す理由も理解できていますから……それより、貴方が遺跡を調査していたのは……」
彼女の言葉に、ライザさんは軽く微笑む。
「いいや、特別な理由なんてない……趣味なんだ。ただ地上を見ることが目的だったのに、いつしかその地上の歴史も好きになっていたってところかな」
「ふふ……ならこれ以上は私から言うことはありません」
遺跡調査も彼にとっては、僕達に近づくための手段ではなかった。
その事実だけで嬉しくなる気持ちを押さえ込んでいると、ライザさんは僕達へと向き直る。
「僕は間違いを犯すところだった」
「もう気にしていませんよ」
「いいや、僕は気にするよ。君のことを知らずに、その命を奪おうとしたことは覆すことのできない事実だ。その償いは必ずする……その手始めに……シフ君」
「む?」
ライザさんがシフの名を呼ぶ。
不思議そうにしながら僕の肩に飛び乗ったシフの頭にライザさんが手を置く。
瞬間、シフの身体に微かな電撃が走る。
自身の身体に起こった異変に、シフは目を丸くする。
「な、なにを……?」
「僕の“雷”の力をシフ君に分けた。今後はシフ君を通して、僕の電撃を扱えるようになる」
神獣の雷の力がシフに……?
驚いているシフを抱きかかえて異変がないか確認していると、続けてライザさんが説明をしてくれる。
「少し前の君には扱えなかったものだけれど、数々の苦難を乗り越え成長してみせた今の君になら扱えるはずだ」
「……ありがとうございます」
「だけど、気を付けてくれ。神獣の力は強大だ。扱いを間違えれば周りも、君自身も滅ぼすことになる。できることならあまり多用しないようにね」
「……はい」
「……よし! これだけじゃ足りないけれど、今はこのくらいにしておこう」
満足そうに頷いたライザさんは、後ろに下がる。
僕達から十分な距離をとった彼は、名残惜しそうに微笑む。
「君と話せて本当によかった。これから、君が自分の道を切り開いていくことになる。僕は、君の運命に大きく干渉することができないけれど、それでも困った時は呼んでほしい」
「いつか……」
「ん?」
「いつか、また遺跡調査のノウハウを教えてくださいね」
「……はは。ああ、約束するよ」
そう言葉にすると、ライザさんの身体が光に包まれる。
まるで雷がなったような光の明滅と、轟く音が鳴り響いた後―――僕達の頭上には、黄金色の輝きを放つ巨大な鳥が羽ばたいていた。
「やっぱり、クルックライザーだったんだね」
空に浮かぶクルックライザー、ライザさんに目を奪われたリーファが呟く。
セントレアルで、僕を殺そうとしていたクルックライザーが、ラッセさんと名乗っていた神獣であった。
『———また会おう』
雷を纏った翼が大きく羽ばたく。
その余波で周囲の森が大きくざわめき、光に照らされる。
一瞬で空高く舞い上がった彼は、そのまま文字通り雷の如き速さで夜空を切り裂くように消えて行ってしまった。
閃光のように消えていった彼を見上げていると、僕の元に一枚の羽根が降りてくる。
「……ええ、また会いましょう。ライザさん」
優しい光を帯びた金色の羽根を掌に乗せた僕は、それを懐にしまっておいたメモ帳に挟む。
「あぁ! また身体ちっちゃくなっちゃったよー、もう!」
「姉さんはちっちゃい方が、それらしい」
「ぐぬぬ」
「そうね、ニーアはこのくらいがちょうどいいかもしれませんね」
「母さんまで!?」
少しすると、リーファ達の話声が聞こえてくる。
長い一日がようやく終わりを迎えようとしている。
知らないうちに命の危険があったわけだけど、それでも僕は神獣と―――ライザさんと心を通わせることができた。
それだけでここに来た価値はあると思えた。
リーファとニーアはベオル・ヒドゥン、カイトはクルックライザー、それぞれ二体の神獣と関わる章でした。




