閑話 彼の独白
今回はあるキャラの独白となります。
二度と現れるはずのない、白銀に至る可能性を秘めた金。
それを持つのは、この世界ではない別の世界から招き入れられた異世界人であった。
殺さなければ、いけない。
彼の存在を知った時、僕はすぐにそれを決意した。
“ライザ! 空だけが綺麗なわけじゃないわよ! 地上にだって綺麗なものが沢山あるんだもの!!”
今でも、僕達を導いてくれた“彼女”のことを覚えている。
神獣に寄り添った唯一の人間であり、もう存在するはずのない金の純魔。
だが、彼は別世界からこの地へやって来た。
フィリュリオーンの企みにより、僕達神獣の問題に巻き込まれてしまったのだ。
人間の子供に、フィリュリオーンはなにをさせようとしているんだ。
僕達、神獣の側に引き寄せて、彼の歩むべきだった運命を歪めようとしているのではないか。
“彼女”のもたらした平和が終わりを迎えているのは理解できている。
また、神獣同士が争い合う時代が迫っているのも予感している。
そんな中に、あんな子供を放りこもうとしているなんて、どう考えてもまともじゃない。
奴は学ばなかったのか。
人間がどれだけ同族に対して残酷になれるのかを。
“彼女”は人間の悪意に晒された末に、僕達のために自らその命を絶った。
彼にも同じような運命を辿らせようとしているのか。
いや……きっと、死よりも辛いことになる。
他の神獣は、二度目を許すほど寛容な生き物じゃない。
最悪、彼を手中に収め永遠に魔力を搾取し続けられる運命を辿る可能性だってある。
というより既に彼の周りには、あのメデュラリアムの気配がまとわりついている。
あの執念深く、自身以外の他の生物を見下すような乱暴者に魅入られている時点で、まともな人生すらも送れなくなっている。
フィーリヘルトはまだいい。
彼女は、能天気で自由気ままなだけの龍だ。
だけど、メデュラリアムとフィリュリオーンという平気な顔して災厄を引き起こしていた奴らが彼を囲っているのはまずい。
いっそのことあの二柱の傀儡にされる前に、理不尽に晒される前に……楽にさせてやるべきなんじゃないかと考えた。
残酷な運命を背負わされる前に、助けなければ。
苦しい思いをさせないために、殺してあげなければ。
死よりも恐ろしい現実に直面する前に、なんとかしよう。
そんな一心で、僕は―――セントレアルにいる彼を襲撃することを決めた。
彼はとても強い人間だった。
自分以外の誰かのために命をかけて、魔力で誘き寄せて戦う勇気を持っていて……そんな彼を慕う者もいた。
それでもまだ力のない人間だということには変わりはなかったが、その姿がどうしようもなく彼女と重なり、僕の心を大きく揺さぶった。
自分の決意が鈍る前に、行動に出よう。
そう思い、彼の命を奪うつもりで攻撃に出た。
―――彼は目を逸らさなかった。
神獣である僕の攻撃を前に命の危機にあったとしても、最後までその足で立っていようとした。
筆舌しがたい感覚に襲われる。
かつて、主として従い背に乗せた彼女の姿と重なる。
彼は、ただ金の純魔を持つだけの少年ではない。
それが痛いほど理解できてしまったのだ。
●
彼を、知らなければ。
何も知らずに彼を殺してはいけない。
彼を前にしたことで、今更ながらにそれを理解した僕は、人間の姿となり彼と接触することにした。
次に彼と顔を会わせたのは、ベオル・ヒドゥンが潜む遺跡のある町。
僕は古くから人の姿で遺跡などを歩き回っているので他の神獣以上に擬態に特化している。
それにより、彼を守っているフィーリヘルトと、常にあらゆる場所を覗き見ているフィリュリオーンと、使い魔の蛇を通してカイトを覗き見て好意に似た感情? 電波?を送り続けているメデュラリアムを欺くことを可能にした。
……まあ、擬態に特化しすぎたせいで重さに変化を及ぼすことができなかったけれども。
用心のために、町からかなり離れた距離から歩いて近づいたこともあり僕がどういう存在であるかは悟られることはなかった。
古い友人の住む町で人の姿で彼と出会った時は、正直、何度自分の動揺を抑えるのに必死だったか分からない。
なにせ彼の主であるリーファが、僕の古くからの友人であるウルガルの家系のものだとは思いもしなかったからだ。
そういえば誰かに似てるなーと呑気に思っていた矢先の出来事なので、少女だったシーナが大人になり、その上双子の娘がいたことに素で驚いた。
それに加えて、純魔の持ち主―――カイト君だ。
彼の距離感が、とても苦しかった。
純粋な尊敬の念を向けてくる彼に、どんどん持ち直した決意が崩されていくのが分かったからだ。
普通に気が合ってしまうのも、それを楽しく思ってしまうことも辛かった。
彼の人となりを知るべきだと考えたのは間違いだった。
彼と関われば関わるほどに、殺したくないという思いが強くなってしまう。
あの頃の―――“彼女”と話していた頃のような、感覚にさせられてしまう。
どうして、僕を怪しいと気づきながら親しくしてくれるのか。
どうして、穴に落ちる僕を必死になって助けようとしてくれたのか。
どうして、僕を守ろうとしてくれるのか。
カイト君の戦う姿をこの目で見て、人間の強さを思い出させられた。
ベルンの眷属を相手に奇抜な戦いを仕掛ける彼に、必死に声を投げかけた。
最早、僕の意思は変わっていた。
彼を殺す覚悟なんて、もう跡形もなく消え去り後に残ったのは―――かつて、僕が彼女に抱いた感情と同じもの。
この騒動も終わりに近づいている。
ならば、僕もようやく彼に自身の正体を明かさなければならない。
彼から見ると、カイトはとてつもなく性質の悪い悪霊二体に憑りつかれているようなものでした。
楽にしてあげなきゃ(使命感)




