第二百三十六話
第二百三十六話です。
身体が引き込まれるような感覚。
視界が光に見えたのは先ほどと変わらない景色がそこになった。
しかし、変わったのは目に見えている景色ではない。
“私”は自身の掌を数秒ほど見つめて、驚きの声を上げる。
「な、なにこれぇー!? え、私とリーファが合体した!? いや、私と姉さんが合体した!? え、えええ、どうなってんの!?」
声がリーファでもニーアでもない別のものへと変わっていることに驚きながら、慌てて自身の髪を見ると、黒色の髪にメッシュがかかるように白い髪が混ざっているのが見える。
嘘ぉ……縞模様……?
「身長も少し高くなっているし、成長した……?」
……スタイルは、不思議なことに変化はしていないがそれはまあいいだろう。
「でも、人間の姿のままだ……」
神獣の力を解放していないどころか、普通の純魔覚醒すらも発動させていない私には、尻尾すらもない。
白と黒の特徴的な髪を持つだけの人間。
それが、今の私達の姿だった。
「……」
私がリーファでありニーアなのは分かる。
どちらの記憶も持っているし、どちらの人格もあるように感じる。
しかし、そこに恐怖はない。
……まるでこれまで足りなかったものがようやく揃ったような、ただ言葉にできない安心感のようなものがそこにあった。
「リーファとニーアで……リファーナってところかな」
安直だが今はそれでいいだろう。
私は、ニーアであり、リーファ。
これを新しい人格といっていいか分からないけれど、この身に溢れる力は確かなものだ。
「まあ、細かいことはどうでもいっか! うん!」
元から私達は細かいことを考えるほど繊細な性格をしていない。
腕を回し、調子を確かめながら私は足元の影に潜り込み―――影の人の真ん前に転移する。
私達の姿を見たベルンは、感嘆の声を上げる。
「どうやら、至ったようだな。本来、分かたれているはずの力を一つにさせた姿。同じ血、生まれである双子だからこそ可能にさせる奇跡だ」
「私達は元の姿に戻れる?」
「勿論だ。心配せずに思う存分に戦うといい」
それじゃ、お言葉に甘えて……!
身体に溢れる力のまま、自身の力を引き出す。
黒と白の入り混じった魔力を纏った私は、全力で前へと飛び出し一瞬にして影の人の目と鼻の距離にまで接近する。
当然、分身達が襲い掛かってくるが、今の私なら敵じゃない。
「氷影剣――」
自身の周囲に氷の剣を作り出し、それを射出させる。
分身達はそれらをあっさりと避け、続けて襲い掛かろうとするがすぐにその身体は停止したように動かなくなる。
「———影縫い」
射出された氷の剣は分身本体ではなくその影に打ち込まれ、身体の動きそのものを縫い留める。
続けて襲い掛かってくる分身を目にした後に、自身の影に入りこみ連続の短距離転移を行い、包囲の外へ抜ける。
そのまま分身達へと斬りかかる。
「そらそら!」
既に身体能力に明確な差はない。
両断、吹き飛ばされていく分身に目を向けずに本体にまで辿り着くと、これまでとは違う闘気を感じさせる気配を発した影の人がその剣を振るう姿が視界に飛び込んでくる。
飛び込みと共に振り下ろされる剣。
それは私の肩に吸い込まれるように叩きつけられ、身体に衝撃が伝わる。
『———♪ ……!』
「残念」
肩に振り下ろされた剣は、私の身に纏った影と瞬時に生成された氷の盾が受け止めていた。
二ィ、と笑みを浮かべた私は右腕に影を纏わせ爪を作り出し、その胴体に突きを繰り出す。
「私の影で!」
『ッ!?』
腕で防御されるが影で胴体ごと絡めとり、力任せに振り回す。
大きく円を描くように腕を振るった私は、さきほどのお返しとばかりに石柱へとぶん投げる。
「さあ! 次はこっちの私で行こう!」
両手に氷で作られた双剣を生成し、追い打ちをかける。
手に作り出した氷の爪を剣にかちあわせ、さらに爪に内包させられている魔力を冷気から影へと切り替え、影の人を飲み込ませる。
しかし、それすらも一刀で切り裂き脱出した彼女は、独特の緩急で繰り出される斬撃を放つ。
「はあ!」
『———!』
同じ力を持つ者同士の戦闘。
影から影へせわしなく転移し冷気をぶつけ合いながら続けられていく戦闘。
「飛んでけ!」
氷の剣を後ろへ放り投げ、腕を振り上げる。
瞬時に影と冷気により、巨大化し影の人へと叩きつけ、空中へと打ち上げる。
「もう一度ぉ!」
『———!』
追撃に繰り出した巨大化した腕。
宙を舞いながらも影の人はそれを切り裂き、ブロック状に分解してしまうが―――それらはさらに私の分身へと変わる。
「かかった……!」
黒と白、別々に混じった分身達。
影の人の周囲に現れた白色の分身は、彼女に取りつくと同時に凍り付き身動きを封じる。
「影移し!」
空中の黒の分身達と自身の場所を連続して入れ替え一気に空中にいる彼女へと肉薄し、反応される前にその手に持つ剣で斬りつける!
「影薙ぎ!」
『———!?』
氷の拘束ごと切り裂かれた彼女は驚愕に目を見開く。
手ごたえアリ……!
『———上出来です』
!? 影の人を拘束していた氷が一瞬にして砕け散った!?
それに今の声……!
慌てて地面に着地すると、砕け散った氷を切り捨てながら脱出したであろう影の人が刀で斬りかかってくる。
それを受け止めて気付く。
今まで彼女を包み込んでいた影が消え去っていることに。
『さすがはベルン様の力を持つ者。お見事』
今、私の前にいるのは黒髪の私とそう変わらない年頃の少女。
高い位置で結った髪が特徴的な彼女の声に、驚愕する。
「貴女、喋れたの!?」
『今までは力を抑えていましたから。はじめまして。ベルン様、第一の眷属のアーミャと申します』
にこりと笑みを浮かべた彼女は、先ほど以上の力で私を弾き飛ばす。
石柱をいくつも破壊してようやく止まった私が顔を見上げると、既に目の前には剣を振り下ろそうとする。
瞬時に左手に作り出した氷のナイフで剣を受け止める。
余波で周囲の瓦礫が吹き飛ばされるほどの衝撃に耐えていると、アーミャと名乗った彼女は穏やかな声で語り掛けてくる。
『まだ、貴女は本来の力を出し切れてはいません』
「……ッ!」
『大丈夫です。ここには、私とベルン様がおります。恐れず、自身の力を存分に振るってください』
「……ハハッ」
笑みがこみ上げてしまう。
ニーアとしての性質か、戦いに楽しさを見出しているんだ。
壊れたナイフを捨て、長剣を作り出しながらアーミャの振るう剣と打ち合う。
「……まだまだ、及ばないか」
後退しながら、溜息をつく。
リーファとニーアが合体しさらに強さを増したとしても、相手は黒の冒険者に近い実力を持つ怪物。
そう簡単に上回れるはずがない。
だけど、彼女の言う通り私はまだ強くなれる余地を残している。
「なら、出し惜しみはなしにする」
その力も、おそらくしっかりとした形にならないのは分かっている。
今の私は、リーファとニーアの合わさった人間の姿。
まだ、神獣としての力を解放しておらず、髪も伸びていないし尻尾も生えていない。
「純魔覚醒……!」
周囲が冷気と影に包まれる。
心臓の鼓動が激しくなるような錯覚に陥る。
自身の身体を暗闇が覆い、人とは別の形を形作っていく。
「オオオォォォォォォ!!」
影と冷気に包まれたまま、地面に四肢をついた“私”は雄たけびをあげる。
ベルンと同じ、獅子の姿へと変わった私は、衝動のままにアーミャへと飛び掛かる。
リファーナ・ライオンモードでした。
明日の更新はお休みとさせていただきます。
次回の更新は、月曜日となります。




