第二百三十五話
第二百三十五話です。
私達はいつだって競争していた。
森の中を走る時も、悪戯をする時だって、いつだって競い続けていた。
それも姉さんが暴走し、魔王軍に入ったあとからは競うようなことはなかったけれど―――、
「ハァァ!」
「でぇぇい!」
『———!』
今は違う。
協力もなにもへったくれもなく、私達は全力の力を以て目の前の影で形作られた女性へ襲い掛かる。
どちらが先に一泡吹かせてやるか。
ただそんな子供じみた目的だけのために放たれた影と冷気による攻撃は、大波のように影の人を飲み込む。
『———!』
だがそれは、彼女の剣の一振りで薙ぎ払われる。
生半可な攻撃じゃ防がれる……!
「なら!」
両手に影を何重に編み込んだ爪を作り出し、それを叩きつける。
僅かに驚いた様子を見せる影の人―――そこに、私と同じく冷気を凝縮させた剣を作り出した姉さんが襲い掛かる。
「そぉっらっ!」
姉さんの剣を防御し、僅かに体勢が崩れる。
その隙を突くように、次に私が繰り出した一撃が叩き込まれる。
『———ッ!』
「やっば……!」
かろうじて目で追えるほどの剣が迫る。
咄嗟の回避が間に合わず、防御を固めようとする私の肩を後ろから姉さんが引き寄せる。
「ほら、危ないよ!」
「むぐぅ!?」
くっ、姉さんに助けられた。
目前を剣が通り過ぎる光景に歯噛みしながら、繰り返し攻撃を加えるべく前に向かう。
それを認識した直後に、影から分身を作り出し影の人に向かわせ拘束し――
「「ふんっ!」」
『———!』
――私と姉さんが同時に繰り出した蹴りが直撃する。
「硬いね。まるで攻撃が効いた気がしない」
「ならもっと攻撃しよう。私が動きを止めてあげる」
両手を地面につき、魔力を流し込みはじめる私に姉さんは訝し気な視線を送ってくる。
「アレを止められるの?」
「本当は、カイトとの模擬戦に使うための技だったけれど、今ここで使う」
対カイト専用の技。
あまりにも使える相手が限定しているということで、カイトと他数名以外には使うことはないと思っていた技だ。
「私の野性的直感からして、あの人は可愛いもの好き」
「いや、なんでよ」
カイトの変な戦い方に興味を抱いていたあたり、好奇心旺盛。
ならば、対カイト用に作り出したこの技を繰り出せるはず……!
「影猫、影犬、影鳥、影兎―――」
影で作り出した小動物たちが溢れだす。
あくまでこれらは影で形作っただけのもの。
本当の命があるわけではないけれど、見た目は本物そっくりの愛嬌を持つそれらは別々に動き出しながら影の人を包囲しながら、飛び掛かる。
『!!??!?』
目の前で飛び掛かってくる小動物たちを前にして、影の人が剣を下ろしてあたふたとし始める。
たとえ、影で作った分身だとしても、見た目は庇護欲をそそられる小動物だ。
案の定、影の人は自身にしがみついた小動物を振り払えないでいる。
「取りつけ!」
その間に続々と影で囲み、小動物の姿を形どったまま拘束させていく。
「これぞ小動物と化した影で相手の戦意を削ぎ、動きを止める技……! 重影技・獣!」
「これ、カイト君にクリティカルじゃないの……?」
「姉さん!」
「わ、分かったよ……」
私の傍で強烈な冷気を纏いながら、氷の尾を作り上げている。
相変わらず悪趣味な形態ではあるけれど、その尾から繰り出される凶悪な一撃は身を以て経験している。
「食らえ!」
跳躍からの一回転。
遠心力によって繰り出された尾は、氷によって巨大化し、影に包まれた影の人へと叩きつけられる。
けたたましい音の後に、さらに姉さんが放った巨大な氷塊が落とされ、あたりは吹雪に包まれる。
「……攻撃面では、姉さんの方が上かな」
私のは攻撃よりも相手を捕まえたりするのに向いているけど、姉さんはああいう質量に任せた攻撃をすることができるのが強みだ。
……ここまでやれば、少しは効いてくれてもいいんだけど。
「そうもいかないか……!」
攻撃が殺到した場所から破裂音が鳴り響き、靄の中からほぼ無傷の影の人が飛び出してくる。
「来るよ!」
「うん!」
振るわれる剣を二人で防ぐ。
私達の身体能力を遥かに上回る力で繰り出された一撃は、容易く防御に回した魔力ごと私達を吹き飛ばす。
「ッぐ」
「あぅ……」
でも刀の一撃は防いだ……!
着地した影の人が、手に持っている剣とは別の冷気を纏う。
それらは次第に人の形を取り、氷で作られた人形が二体できあがる。
『———♪』
「え?」
私と同じ分身!?
影の人の合図でこちらに襲い掛かってくる分身を迎え撃つ。
「姉さん、こいつら!」
「うん、全く出鱈目だけど、力は本体と全然変わらないみたい!」
冷気や影のような能力こそは使ってこないが、その力は本体となんら変わりない。
これと比べれば、私の分身は中身が空っぽといってもいい……!
「強い……!」
繰り出される拳を爪で受け止めるが、ただの分身のはずなのにその力はとてつもない。
次々と現れる分身に劣勢を強いられ、後退を余儀なくされる。質で劣るなら物量で攻めようとすれば、私が作った分身の数だけ、同じ数の分身が作られ一瞬でかき消される。
本体が繰り出した蹴りを腹部に食らい背中から石柱に叩きつけられる。
「うぐ……」
頭を打ったのか視界が揺らぐ。
頭を押さえながら、満身創痍のまま、よろよろと立ち上がる。
絶対的な実力差。
私を庇うように分身達の前に立った姉さんを見上げる。
「リーファ、早く立って!」
「……う……」
まだ、視界がぐらぐらとしている。
この絶望的な状況は、多分なるべくしてなったものだ。ベルンも、現状の私達があの影の人に勝てるとは思ってはいない。
なら、この試練を達成するなんらかの条件があるはずなんだ。
「カイトなら、どうするのかな……」
絶対に諦めたりはしないだろう。
逃げたりすることが許されない状況なら……彼はあえて分身を無視する戦法を取るはずだ。
……。
……あれ?
「え、まさか、そのためにあの意味わからない戦法!?」
今その事実に気付きたくはなかった。
まさかあの意味不明な状況は、一対一の状況に持ち込むための作戦だったとは……!
「リーファァ!! もう限界! 無理! タスケテ!!」
「あ!? ご、ごめん!?」
素で謝りながら、必死で分身と本体からの攻撃を凌いでいる姉さんの肩に伸ばし、影を用いた転移を行おうとする。
全身に冷気の魔力を纏わせた姉さんの肩に、影の魔力を纏わせた私の手が触れる―――その時、不自然に私の手が姉さんの肩に沈み込む。
「いぃぃ!?」
え、なに!?
私の手と姉さんの身体が融合してる!?
どういうこと!?
「り、リーファ! 私に何かしてる!? なんか、肩のあたりに不思議な感覚が―――」
「と、とにかく転移!」
「わ!?」
動揺しながらも影での転移を行い、少し離れた石柱の裏に隠れるように転移する。
窮地を脱出した姉さんは、荒い呼吸のまま石柱に背を預けるように座り込む。
「あ、危なかったー」
「大丈夫?」
「ちょっと休めば大丈夫。それより、あれ本当にどうするかなぁ。あんな出鱈目な存在、正攻法で倒すわけじゃないのは分かっているけど……攻略法が分からないのがね……」
……。
今、私と姉さんはどちらも神獣としての力を最大限にまで解放させている状態にある。
その証拠に私は全身を真っ黒い影に包まれ、姉さんは白い冷気に包まれ、どちらも特性を前面に表した形態へと変化している。
先ほど、姉さんに触れていた手を見る。
無事に元に戻っているが、たしかに何かが起ころうとしていた。
「もし、それが神獣としての力を解放させているのなら……いや、そもそも元々私達の力は一つのものだから……」
可能性、あるかもしれない。
どちらにしろ試している時間はないので、すぐに姉さんへと声をかける。
「姉さん!」
「な、なに? いきなり大声出して……」
「魔力を纏わせたまま、手を出して」
「え? い、いいけど、冷たいよ……?」
姉さんが冷気を纏わせた手を差し出してくる。
少しだけ躊躇しながら、私も影を纏わせた手を差し出し―――姉さんの手を掴む。
「わ!?」
「な!?」
瞬間、握手をした場所を中心に、お互いの身体が引き寄せられる。
身体が激突したような感覚はない。
不快感も、痛みも感じられない。
ただ、視界に光が溢れたその時―――私達の視界は一つになった。
リーファとニーアがジョ●レス進化。




