第二百三十四話
第二百三十四話です。
今回はリーファ視点です。
やばい負けそう。
影で体が構成された女性の蹴りで姉さんがぶっ飛ばされた光景を目の前で見た私の感想であった。
戦闘が始まってから数十分。
私達は、ベオル・ヒドゥンが作り出した眷属に劣勢を強いられていた。
「げふぅ!?」
「ね、姉さーん!?」
一瞬の隙を突かれ、強烈な蹴りをお腹に叩き込まれた姉さんはあっという間に後ろに吹っ飛んでいく。
そんな姉さんの姿を見送りながら、私は片刃の剣を構える女性を警戒する。
『———』
「っ!」
襲い掛かってくる氷の刃をなんとか影で作り出した分身に受けさせる。
容易く分断される分身を見て冷や汗をかきながら、それをものともせずに連撃を放ってくる彼女の攻撃に必死に対処しようとする。
「くぅ……!」
氷で形作られた片刃の剣は鋭く、それでいて使い手である彼女自身の技術も合わさって厄介すぎる……!
腕力すらも私と姉さんを容易く上回り、こちらからの全ての攻撃を真正面から全て叩き切られてしまう。
『———!』
「影槍!」
地面から影でできた槍を作り襲わせるも、ただの一振りで全て壊される。
技術だけではなく、腕力すらも力を解放された私達以上に強い!
ふわり、と軽く跳躍した彼女が地面を滑るように、透明な刃を走らせる。
「むぅ……!」
それに合わせて、この人の攻撃、なんだか対応しにくい……!
リズムというか、なんというか攻撃のタイミングそのものが独特なのだ。
だから、攻撃されるたびに調子が崩されてしまう。
「影沼!」
足元に影を広げて動きを制限してやる!
泥のように伸びる影を見た女性は、氷の剣の切っ先を地面に軽く突き刺し、それを軽く振り上げ―――一瞬にして張り巡らせた影ごと地面を凍結させる。
「嘘ぉ!?」
慌てて後ろに跳び、凍結から逃げる。
ね、姉さんの魔法とは違う……! 魔力に任せたものではなく、周囲の冷気を取り込みそれを一気に解放させることで最大限の効力で氷という能力を発揮させている……!
「リーファ、避けてね!!」
「ッ!?」
振り返ると頭上に氷塊を作り出している姉さんの姿。
慌てて、自身の影に潜りその場を離れるとさっきまで私のいた場所に氷塊が叩き落とされる。
「私に当たるところだったんだけど……!」
「貴女なら避けれるでしょ。はぁ、いきなり蹴られるとは思わなかったよ。あー、とんでもない威力だった」
お腹をさすりながらげんなりとした表情を受かべる姉さん。
こちらとしては攻撃に巻き込まれかけたことを文句言いたいが、この状況ではそれも無理なようだ。
姉さんが叩きつけた氷塊が真っ二つに断ち切られ、影の人が現れる。
「ありえないくらい強いね。全く歯が立たないよ」
「しかも、手加減されてるし」
「でしょうねぇ。大きな攻撃もほとんどしないし、全部剣だけで圧倒されちゃってる」
黒の冒険者に近い実力。
たしかにその言葉に偽りはないだろう。
少なくとも金の冒険者と同じかそれ以上の実力を備えている私達二人を相手に、剣技だけで戦っている。
「姉さん、もっと私に合わせて」
「リーファ、もっと私に合わせて」
「「……ん?」」
互いに顔を見合わす。
目の前のあいつと戦うためには力を合わす必要がある。
「いやいや、合わせるのは姉さんの方だよね?」
「なに言ってるの? リーファの方がサポート向きでしょ」
「そういう姉さんだって、氷で相手の動きを鈍らせることができるし、なによりあっちと同じ属性じゃん」
「そんなこといったらそっちも同じだし。あれ全身真っ黒の影人間だから、その気になれば影魔法も使ってくるよ?」
「「……」」
お互いに一歩も譲る気はない。
短い無言の後に、私と姉さんはお互いの胸倉をつかむ。
「脳筋ゴリラ!」
「ぐーたら駄犬!」
「だいたい姉さんは、さっきから私を巻き込むような攻撃ばっかりしてなにがしたいの!?」
「リーファだって、私ごと影で飲み込もうとしてたじゃん! それに分身もわちゃわちゃ動いて目障りだし!」
目の前の影の人のことを忘れ、私達は額がぶつからんばかりの距離で怒鳴り合う。
「「まずはお前と決着つけてやる!!」」
「いい加減にしろ」
「「あぐぅ!?」」
頭に氷の礫が落ちる。
痛みのあまり頭を抱える私達に、玉座の傍らにいる神獣、ベルンはジト目でこちらを見下ろしている。
「お前達はどうしてそう、互いにいがみあうんだ。生まれた時から同じ時を過ごした姉妹だろうに」
「「だって姉さん(リーファ)が!」」
「黙れ」
窘めるようにそう言われ黙らざるを得なくなる。
大きなため息をついたベルンは、私の方へ視線を移す。
「協力して戦わないこともそうだが、集中できてはいないようだな」
「……カイトが危険な状況にいると聞いて、安心できるはずない」
カイトがラッセという危険な人物と一緒にいる事実だけが、心に引っかかる。
例え大丈夫、安全と言われたとしても安心できるはずがない。
そんな私に、ベルンは静かに語り掛けてくれる。
「……現状は心配はない。今はお前達と同じように私の眷属と戦っている最中だ」
「カイトも……!? でも、貴方の眷属はそこに……」
「我が眷属は一人だけではない。実力的には、お前達が戦っている彼女と同等程度だが、神獣を多少は足止めできるほどの強さを持っている」
だから、もしもの時は大丈夫と?
それでも訝しむ私に、ベルンは自身に纏う冷気を操り氷で作られた鏡のようなものを作り出す。
なにをするつもり、と思ったその時、鏡に映し込まれた景色が歪み、別の光景を映し出す。
「地下にいるカイトの状況を映し出した。確認してみるがいい」
「え……」
食い入るように見る私と姉さん。
一体、カイトはどうしているのか。
明滅を繰り返す景色、その先に私達が戦った影の人とは違う、全身を氷で作られた女性がカイトの首を腕で締めるように羽交い絞めにしている光景が映り込む。
『ぬ、ぐ、おおお……!?』
『——ッ!』
「カイト!?」
「カイト君!?」
押さえ込まれているカイトに思わず声を上げてしまうが、彼は苦し気な表情から一変して笑みを浮かべると、そのまま自分を拘束している氷の人諸共後ろへと跳び―――背後に張り巡らされたライムが変形したと思われる銀色の縄へとぶつかる。
『シフ!』
『お、おう!!』
映し出されている光景の外からシフの声が響くと同時にライムに電撃が走り、氷の人とカイトを感電させる。
『ぐぉぉ!?』
『———!?』
カイト、なにやってんの……?
拘束から外れ、地面に膝をついた彼に、張り巡らされた縄の外からラッセが必死の形相で駆け寄ってくる。
『カイトくん! 急いで距離を取れ! 押さえ込まれたらあちらの思うつぼだ!』
『そうだ! カイト! 自分の持ち味を生かすのだ! ッ、来るぞー!! 構えろー!!』
ラッセの声に合わせて、シフの声も響いてくる。
彼らの声にすぐに後ろを振り向いたカイトは、向かってきた氷の人と真正面から組み合う。
『ぬ、ぐぐぐ!』
『———♪』
傍目から見ても楽し気な様子の氷の人と組み合ったカイトは、自身に纏う肉体強化の力をさらに強めると、ジャンプしてからの後ろ回し蹴りを叩き込む。
それで氷の人が怯むと同時に、彼は全力でその場を跳躍。
横に体勢を傾けながら両腕をクロスさせ、首目掛けて強烈な体当たりを叩きつける。
『あ、あれは!?』
『シフ君、知っているのかい!?』
『カイトのろーりんぐそばっと、からの、ふらいんぐくろすちょっぷだ! 変な技だから覚えているぞ!! だが、あぁ!? 掴まれた!?』
『か、カイト君! またさっきのあれがくるぞ!!』
カイトのフライングなんちゃらを怯みながらも受け止めた氷の人が彼の胴体に腕を回すように抱え、そのまま共に地面へと倒れ、動きを無理やり止めて見せる。
ぎりぎりとカイトの胴体と首の部分を締め付ける。
『ふんっ!』
『———!?』
しかし、すぐにその拘束を脱出したカイトはそのまま体勢を入れ替え、足を絡めるように氷の人の腕を取り、そのまま関節を極める。
『腕ひしぎ―――』
しかし、それで攻防は終わらない。
なんと氷の人はカイトに腕を極められたまま無理やり、彼の身体ごと腕を持ち上げ、帯電しているように見える変形したライムが張り巡らされたロープに彼の身体を叩きつける。
『ぐあ―――!?』
『か、カイトく―――ん!?』
『カイトぉぉ!?』
———うん、なんだか楽しそうだ。
まったくどういう経緯でこんな戦いになったのかは理解できないけれど、とりあえずは大丈夫そうに見える。
というより、当のラッセさんがカイトのことを応援しているという意味不明な展開になっているし、もう滅茶苦茶だ。
『……』
私達と戦っている影の人は、口にあたる部分に人差し指を立てながら、羨ましそうに氷で作り出された光景の先で戦っているカイト君達を見つめている。
「なにをしているんだあの子は……」
「え?」
「……む、いや、なんでもない。それよりカイトに心配はないことは分かっただろう? さあ、真面目に戦うがいい」
呆然としたベルンの呟きに呆気にとられるが、確かにカイトの方は大丈夫だろう。
……既に、相手もラッセもカイトのペースに巻き込まれているだろうし、余程の心変わりがなければ大丈夫だろう。
なら、ここは私は私の戦いをするべきか。
「……姉さん」
カバンから取り出したカイトの純魔の魔力が込められている魔具を姉さんへと投げ渡す。
「これは……」
「そのボタンを押せば、カイトの魔力を取り込むことができる」
「なるほど、そういうことね」
もう一つある魔具を手に持ちながら、影の人と相対する。
「そもそも、合わせるって考えが間違ってたんだよね」
「そうだね。私達姉妹には、私達らしい協力の仕方ってのがある」
同時に魔具を発動させ、純魔の魔力を自身へと取り込む。
それにより魔物―――否、神獣の力を解放させた私達は、それぞれが黒と白に包まれた姿に変身する。
「さあ、どっちが速くあいつに一泡吹かせられるか競争だね」
「上等……!」
全力の力を解放させながら私達は同時に飛び出す。
勝機はない。
だけど、そんなものはこれから見つけ出せばいい。
カイトの時とは違う、協力するつもりのないコンビネーションってやつを見せてやる……!
なんだかんだで無茶苦茶楽しんでいる眷属二号さんでした。




