第二百三十三話
先週の金曜に更新を休んでしまい申し訳ありませんでした。
更新のお休みに関しましては、Twitterにて告知しておりますのでそちらを確認していただければと思います。
第二百三十三話です。
突如、僕達の前に現れた謎の敵。
氷でできた女性の強さは僕達の想像を遥かに超えるデタラメさであった。
恐らく、手加減をしてもなお僕の攻撃を簡単にさばいてみせる戦闘力。
本体とほとんど変わりない力量を備えた影を用いた分身。
もう、どっからこんな強い人が湧いてきたって疑問に思えるほど出鱈目な人に追い込まれた僕は、もう色々とやけくそになっていた。
「カイト、なにをするつもりだ」
「とっておき」
「本当になにするつもりなのだ!?」
短くそう答える僕に、帽子に変身しているシフは慌てたような声を漏らす。
周囲を影でできた分身に囲まれ、目の前にはこちらを興味深そうに伺う氷の女性ただ一人。
「貴女がどうして襲い掛かってくるのかは分かりませんが、そっちが僕を害そうとするなら―――」
『———!』
え? 思いっきり首を横に振っている?
違う? 僕を害するつもりはない?
そう訊くとこくりと頷かれる。
「なら、戦う必要は、ない?」
『———』
そこでなぜか首を横に振られファイティングポーズを取られる。
それに合わせて、周囲の分身達も動き出そうとする。
い、意味が分からんぞ!? また純魔の魔力絡みかこれ!
どちらにしろ、戦闘は避けられそうにない。
「ライム! ユラン! あれをやるぞ!」
「……キュ!」
「アレとは!?」
球状へと変化させたライムと巻き付いたユランに渾身の魔力を与える。
氷の女性が飛び込んでくる前に、ユランとライムを頭上へと軽く放り投げる。。
「頼む!」
「キュー!」
『!?』
瞬間、その身体を大きくさせたライムが四方へ銀色のロープを伸ばす。
それらは蜘蛛の糸のように綱がり、周囲の石柱へと絡みつき―――僕と氷の女性と分身達を阻むように展開させる。
それはまるで石柱を柱とさせたリングロープ。
その中の一つに巻き付いているユランに、僕は声を張り上げる。
「ユラン! ライムに合わせて魔力の壁を張り巡らせろ」
「シャァァ!」
リングの隙間を覆うように分厚い魔力の壁を作り出し、分身と僕達を完全に分断させてくれる。
『!?』
「スライム闘法、鹿角固め。ふふふ、これで一対一のリングは整ったな……!」
本来は相手を枝分かれした触手で捕縛するための技ではあるが、今だけは疑似的な戦いの場―――リングを作るために発動させた、
僕がライムとユランに与える魔力が尽きるまでに、なんとかこの人を戦闘不能に陥らせる。
「カイト、おぬしの武器となるライムがいないのは、どうするのだ」
「フッ、心配ない。僕にはこの拳がある」
「少しも安心できないのだが!?」
だがあのままタコ殴りにされる状況よりかはマシだ。
例え、今の時点から分身を増やそうとしたとしても、この距離なら無理にでも止めることができる。
「さあ、やるぞ! シフ、拳に炎を!」
「あー、もうっ! 慣れた慣れたといったが、私もまだまだだな!! だが、それでこそ我が主だ!!」
ぼうっ、と手袋に包まれた拳が炎に包まれる。
いつでも攻撃に移れるように拳を構えると、眼前にいる女性は自身の影に包まれた手を見つめてから、こちらを見る。
『———♪』
「武器を解除させた……?」
影で作り出した爪を解除させた彼女は、拳を構える。
さらにリズムを取るように、たん、たん、たん、と軽くその場で跳びはじめる。
その姿に呆気にとられていると、強烈な踏み込みと共に目の前まで迫る。
「ッ!」
かろうじて目で捉えることのできる拳。
冷たく、凍えそうなほどの冷気を放つそれをクロスさせた両腕で受け止める。
―――衝撃。
渾身の肉体強化を用いた防御すらも容易く崩してしまいそうなそれを歯を食いしばり、堪える。
「速……!」
「カイト!!」
「ぬぅ!」
こめかみに、何かが迫る。
咄嗟に体をのけぞらせると、僕のこめかみがあった場所を蹴りが通り過ぎる。
「キック……ボクシング!?……いや、またそれとは別の格闘技……!?」
『♪』
「かと思いきや……!」
掴み技も仕掛けてくる……!
手首を掴まれ、力任せに引っ張られそうになる。
しかし、逆の手で掴み返し、一瞬だけ力を上回らせ身体をロープへ変形させたライムへと叩きつける。
「ユラン、防御して! 行くぞ、シフ!」
「おう!」
電撃を走らせる。
本来ならば、絶対にしない技ではあるが―――この人多分、とんでもなく強いから大丈夫だろう。
むしろ、こうでもしないと逆にされる!
「電撃地獄! ライムリングデスマッチじゃああ!」
『!?!!?』
バチバチバチ!! という電撃音がリングと化したライムに走る。
電光は明滅を繰り返し遺跡の中を照らし、氷でできた女性の身体へ襲い掛かる。
これでしばらくは、このリングは帯電する!
この状況を利用して、このまま決着を―――、そう思ったその次の瞬間、僕の腕を未だに掴む手に、力が籠められる。
「まずっ……!」
そう思った時には既に遅く、すくりと電撃を纏いながらその場に着地した氷の女性が僕を見上げる。
強烈な悪寒に襲われ、自分の身体が力任せに振り回される。
「ぐおおお!?」
「ぬおおお!?」
瞬きする間もないうちに僕の身体は、彼女と同じく未だ帯電しているリングへと叩きつけられる。
僕とシフの体中に電撃が走り、痛みとしびれが襲い掛かる。
意趣返しのつもりだろうが、この程度の電撃では僕は倒れん!!
「ッ、シフ、離れてて」
「う、うぅむ……」
頭を振り、痺れたシフを僕から離しながら、僕の腕を掴む女性を睨みつける。
電撃を食らいながらもこっちも手は離さない。
「おおお……!」
『———!?』
必然的に、真正面から組み合う形になった僕と彼女は、拮抗するように両腕に力を籠め続ける。
地面に亀裂が入るほどに力を籠めるが、あちらは僕を上回らんばかりの力を出してくる。
『カイト君!』
歯を食いしばって対抗していると、僕達が試合をしているリングに、ラッセさんが駆け寄ってくる。
「ラッセさん……!」
『どういう状況なのこれ!?』
「話せば長くなります……!」
分身達は大丈夫だろうか?
と、一瞬だけ分身のいる方に視線を寄越すと、分身それぞれが野次馬のように手を振ったり、食い入るようにリングの隙間から僕達の戦いを見ている。
アホみたいな光景だが、あの分身一体一体に自我がある事実に戦慄するしかない。
「ラッセさん、そこでジッとしていてください……! 僕がこいつと戦っているうちは、貴方は狙われることはありませんから……!」
『で、でも、君が……』
「オオオ!」
それ以上は会話できず、僕は目と鼻の先にいる女性を睨みつける。
髪までもが柔らかな氷で構成されており、その下には目も口もない素顔。―――ただ、鼻のような顔の凹凸などがあることから、その人がかなりの美人だということも分かる。
だが、持っている力は現状の僕と同等かそれ以上。
ならば、相手がこちらの土俵で戦ってくれている間に、決着をつける。
「ッ」
さりげなく未だに帯電しているロープを目にした僕は、肉体強化をさらに強める。
しかし、同時に目の前の彼女も同じように力を籠める。
考えることは同じだったのか―――僕達は同時にリングに飛び込み共に感電する。
「あばばば!?」
『——————!?』
『カ、カイトくーん!?』
暗い洞窟内に光が走る。
まだ戦いに終わりは見えない。
勝ち筋も見当たらないが、それでも襲ってくるのなら負けるわけにはいかない……!
ライムリングデスマッチ開幕。
当初、まったくやる予定のなかった電撃デスマッチ。
なんでこの主人公異世界で電流爆破やっているんだろう……?




