第二百三十一話
第二百三十一話です。
久しぶりのカイト視点となります。
ラッセさんと共に落ちた地下遺跡で遭遇した敵。
全身が真っ黒で影で作られたそれらに襲われた僕達は、なんとかそれらを撃退しながら暗闇に包まれた遺跡の中で出口を探していた。
恐らく、あれは神獣に由来する影で作られた兵士だろう。
リーファの作り出す分身の姿に酷似していたし、何より倒したら闇に還るように消えていく。
僕達が今すべきことは、この地下遺跡で上層に上がる出口を見つけ、リーファとニーアと合流することだ。その際に、また同じような敵が出てくることを考えた僕は―――、
「そろそろできたかな……」
「香ばしい匂いもしてきたな!」
とりあえず、休憩がてら腹ごしらえをすることにした。
魔具の明かりで照らされた遺跡のど真ん中で、持参した折り畳み式の調理器具と食材を用いながら、僕はシチューを作っていた。
遺跡の中を探索するのも大事だが、確実に戦闘が起こる状況なので、体力と魔力だけはしっかりと補給しなくてはならない。
「フッ、シーナさん特製、サバイバル式シチューのレシピを教えてもらってよかった……!」
「うむ、簡易的なことに加え栄養価もあるのはいいな。彼女からは多くのことを学んだ」
シーナさん、今貴女の教えを生かしています……!
内心でひたすらの感謝を彼女へ送りながら、器にシチューをよそり、使い魔達とラッセさんに配る。
「どうぞ、ラッセさん」
「あ、ありがとう。しかし……落ち着きすぎじゃないかな?」
「慣れてますから」
「僕が言うのもなんだが、こんな状況に慣れるのは些かおかしな話だと思うんだが」
たしかにラッセさんの言うことも尤もだ。
この状況で落ち着いていられるのは、傍から見ればちょっと不思議に思われるだろう。
手元のカップに注いだシチューを口にしながら、思い当たる理由を口にする。
「……以前も、同じように閉じ込められそうになったことがありましてね」
「そうなのかい?」
「ええ、神じゅ……いえ、ある女の子に監禁されそうになったりして……」
「君の身に何があったの!?」
しまった、一気に犯罪感が増した……!?
いやしかし、ここで神獣に監禁されかけましたと言って信じてもらえるかどうか分からない。
い、一応、あながち間違いでもないのでそういうことにしておこう。
「それに、これまでも色々と騒ぎに巻き込まれたりしていますからね。そんなこともあって、慣れてしまったって感じです」
「……」
「ラッセさん……?」
なぜか苦々しい表情をされてしまう。
もしかして何か気に障るようなことを言ってしまったか?
「嫌に、ならないのかい?」
「はい?」
「そういう……なんていうのかな、理不尽な目にあって……君はそれを嫌になったりしないのかなって」
「……そうですね」
嫌、か。
これまでのことを思い返せば、僕の身に起こったことは良いことばかりじゃないだろう。
むしろ、悪いことの方が多いかもしれない。
命の危機に何度も陥ったこともあるし、多くの人の命がかかった戦いをしたこともあった。
「散々だなって思ったりはしますけれど、逃げ出そうと思ったことはありません。……僕が一人だったなら、そうしていたかもしれませんが、頼れる使い魔達と仲間がいますからね」
僕の傍らにいるハクロとユラン、そして膝の上に乗っているシフとライムに視線を移しながらそう言葉にする。
「君は、強い人間だ」
「いえ、そんな……」
「最初に君と顔を会わせた時もそうだった。僕から目を逸らさず、悠然と佇むその姿は……僕が知るどの人間よりも強く……それでいて、僕が今まで見てきた人間の強さそのものだった」
え、僕、街中でそんな姿してました?
ラッセさんと初めて会った時って、街中だったはずだけど。
そこまで覚悟を決めた顔をしていただろうか……?
「ラッセ殿、それは一体いつの話をしているのだ……?」
「シフ……?」
なにやら表情を険しくさせたシフが、ラッセさんを睨みつけている。
ハクロも僕を守るように身体を起こす。
使い魔達の警戒する姿に苦々しく笑ったラッセさんは、シチューをスプーンですくい口に運ぶ。
「カイト君、君はいい人だ」
「え、えーと、ありがとうございます?」
突然の誉め言葉に照れながらお礼を返す。
困ったように笑みを零しながら、彼は続けて言葉を発する。
「僕のことを怪しんでいたことは分かっている。……正直、君と同じ立場だったら僕も疑っていたことだろう」
「……」
「それなのに、君というやつは痛いくらいに僕を慕ってくれて……挙句に、地下に落とされようとする僕を助けようとしてくれた」
言葉が途切れる。
彼がなにを言おうとしているのか、それを理解するために聞き手に徹していると、彼は意を決した様子で口を開いた。
「君は、神獣と縁のある人間だ」
「! どうして、それを……?」
「君は拒否権すら与えられずに、過酷な運命を背負わされた」
僕の疑問には答えず、ラッセさんは続けて言葉を発する。
その声は悲痛そのものであり、ただ口にするだけでも苦しそうであった。
「カイト君、僕はね。人間が好きなんだ。それは異世界から来た君も例外じゃない。彼女のおかげで大地の素晴らしさを知った。地上で生きる人々の健気さを、輝きを知った」
「ラッセさん、貴方は……」
———もしかして、彼の正体は……。
苦悩するように自身の手を握りしめた彼は、まるで僕に対して懺悔するように言葉を吐き出していく。
「いずれ、死ぬより辛い目に合うかもしれない。いや、それ以上の地獄を見させられることだってある。ましてや、あのフィリュリオーンの考えることだ。もっと悪いことだってありえる」
「……」
「だから……もし……生きたまま苦しむようなら……いっそのこと―――」
彼が続きの言葉を口にしようとしたその時、猛烈な殺気が僕達へと襲い掛かる。
すぐにその場を立ち上がり、使い魔達を手元に引き寄せた僕は、気配のする方へ視線を向ける。
———さっきまでの影連中とは違う……!
カツン、カツン、と硬質な足音がこちらへ近づいてくる。
そのまま魔具の明かりの照らされた距離にまで近づくと、その全貌が明らかになる。
「な、なんだ、あれは……」
「氷で作られた、人……?」
全身を氷で構成された女性型の人形。
顔は能面そのものだが肩ほどにまで切りそろえられた髪までも氷で作られており、明らかに先ほどの影とは違うことが分かる。
しかも、あれからは明確な意志を感じる。
思わず身構える僕に、氷の女性は恭しくお辞儀してくる。
『……』
「あ、これはどうもご丁寧に……」
とりあえずお辞儀を返すと、嬉し気な素振りを見せてくれる。
もしかして敵じゃないのか? と思った次の瞬間、氷の女性の手にリーファと同じ影が纏われ―――爪のように変化する。
「ッ、やる気か……!」
『———』
さっきのお辞儀はただの挨拶だってことか……!
どちらにしろ、敵対することには変わりないらしい。
ライムを武器に変形させながら、僕は後ろに立っているラッセさんに声をかける。
「ラッセさん、お話は後で聞きます」
「……ああ、気を付けてくれ。それは……強い」
『———♪』
「……分かってます」
佇まいからしてただものじゃない。
そもそも人間かどうかすら怪しいが、とにかく必要とあらば逃げることを視野にいれながら、応戦していこう。
なにが悪いって、リオンさんが信用ないのが悪い。
カイトの方には二人目の眷属さんが出てきました。
※私のもう一つの作品『治癒魔法の間違った使い方』第12巻が本日、3月25日より発売いたしました。




