第二百三十話
第二百三十話です。
私達に力を与えられた理由。
その答えが今明かされようとしている。
これまで自分の持つ力を疑問に思ったことは何度もあった。
魔王軍に入ったことで振り切ったこともあり、最近はあまり考えてはいなかったけれど、その力の根源が神獣からのものというなら興味がわかない方がおかしいだろう。
「———お前達に我が力を与えた理由は、危機感を抱いたからだ」
「危機感……?」
「当時、お前達に味方しているフィリュリオーンが何かをしようとしていることを察知してな。もしもの時のために我が力の断片を、お前達の祖先に与えたことが始まりだ」
祖先……私達にとってのひいひいお祖母ちゃんのことか。
フィリュリオーンは、セントレアルにいる私を子供にした神獣。
あれがなにかを計画していたから、力を分け与えたってこと?
「わざわざ人間の私達に力を与えるんじゃなくて、貴方が動けばよかったんじゃ……?」
リーファの問いかけにベルンは首を横に振る。
「どういった形であれ、神獣の力が干渉し合えば惨事は免れない。そもそも相手はフィリュリオーン、無責任に森を広げ、大陸の生命を手中に収めようとした危険な神獣だ。まともに話が通じる相手ではない」
「リオンってやばい神獣だったんだ……」
「今は人間側についてるようだが、それでも奴のすることに私は危機感を抱いていたのだ」
あの神獣、普通にやばいやつだと思っていたけど、マジモンじゃん。
いや、たしかにカイト君のことで私に釘をさした時の顔とかすごく怖かったけれども。
「だからこそ、いざという時にフィリュリオーンの計画を阻止する“勇者”が必要だった」
「それが、私達?」
「……いいや、そもそも私の予想は外れ、フィリュリオーンは人間の側に立つ神獣となっていた……方法こそは、外道極まりないがな」
僅かに顔を顰めさせたベルン。
しかし、すぐに気を取り直して続けて言葉を発する。
「奴が行おうとしていたのは、異世界から純魔の素養を持つ者を呼び出す儀式。それを偶然知りえた私は、我が力を分け与えた人間を受け継ぐ者―――シーナの娘であるお前達に、与えた力を発現させたのだ」
「それが、私の影と……」
「冷気ってわけね……」
「お前達が双子なのは、ある意味で丁度よかった。強大な我が力を二つに分けることで、力を安定させることができたのだからな」
私とリーファの持つ力の起源は同じであり、その力も元は一つのものだったということか。
「それから先は、お前達は運命に導かれ純魔の使い手、カイトと出会うことになった。そこに作為はなく、まさしく大きな渦の中心に巻き込まれるように、お前達は出会ったのだ」
いや、なんというか話が壮大すぎるけど、つまり私達はカイト君を助けるために力を持ったってこと?
「カイトをこの世界に呼び寄せたことには意味がある。いずれ、彼は神獣に関わる大きな問題に巻き込まれていくだろう。———それは、彼一人で立ち向かうにはあまりにも困難で、理不尽なものだ」
「そのための、私達?」
「酷く、身勝手な話ではあるとは思う。だが勘違いしないでほしい。私はお前達に力を与えただけで、それ以外はなにもしていない」
そこで一旦言葉を切ったベルンは、リーファへと視線を移す。
その視線は子を想う親を連想させるような優しい目をしていた。
「リーファ、お前とカイトとの出会いも、冒険者としての日々も、勇者としての戦いも全てお前が選び、紡いできたものだ」
「……うん」
どこか嬉しそうにリーファが頷く。
次にベルンは私の方を向くけど、その表情はどこか険しい。
「ニーア、お前が怒りのままに魔王軍に入り、私欲のままにカイトを攫おうとし、フィリュリオーンに子供にされる経緯も、全てお前の自業自得だ」
「ちょっと待って、私だけ酷くない!?」
事実だけど! 事実だけれども!?
「お前の無鉄砲さに、どれだけハラハラさせられたことか。フィリュリオーンが止めていなければ、セントレアルの黒の冒険者に殺されていたところだぞ」
「ぐっ、うぅ……」
返す言葉もない。
見逃されていたとは思っていたけど、まさかリオンに助けられていたとは。
「しかし、そんなお前達も、より強くならなければならない」
「……?」
「今でも人間の中では十分に強い。だがその程度ではまだ足りない。かつての純魔の肉体に還っていくカイトの肉体はさらに強く、そしてその魔力も純粋なものになっていく」
私達の前にあった影で作られたテーブルが消える。
それに合わせて、周囲の遺跡が作り変えられていく。
「問おう。これからも、最後の純魔―――アリハラ・カイトという人間と共に歩む覚悟はあるか?」
周囲の空間を作り出しながら投げかけられた問い。
恐らく、これからなにかしらの試練を与えられる。
その試練を受ける是非が、この問いかけに籠められている。
「もちろん。なにがあっても、私は彼と一緒」
「……私も彼が気に入っているし、なにより乗りかかった船だしね」
なんだかんだで彼は私を受け入れてくれている。
街での一件も感謝しているし、あの憎たらしい小僧にも一泡吹かせてくれた。
というより、最初は純魔目当てだった私も、いつの間にか彼の人間性に惹かれてしまっていたのだ。
「———ならば、良し」
ベルンが満足そうに頷くと、彼の傍らにいた影の女性が私達の前へと歩み出る。
警戒を露わにさせる私達に女性は恭しくこちらに一礼する。
手元が隠れる程度の長い袖に、足元に届きそうなほどのロングスカート。
その全体が真っ黒な彼女は、薄っすらと刃物のように鋭さを感じさせる闘気を放つ。
「彼女は我が一人目の眷属」
『———』
「これから彼女と戦い、打ち倒して見せろ」
影の女性が右手を軽く振るうと、氷で作られた曲刀が作り出される。
———やばい、あの人めっちゃ強い……!?
それこそ、私達二人が束になっても勝てないくらいにやばい……!
しかも私は、今子供の姿だから―――、
「その身体も元に戻そう」
「わっ!?」
ベルンの瞳が一瞬だけ輝くと私の身体が光に包まれ、元の大きさに戻る。
久しぶりの自分の身体―――なぜか、光と共に服のサイズもぴったりになっている。
驚きのまま自分の身体を触って確認する私に、ベルンは鋭い視線を向けてくる。
「簡単に勝てると思い上がるな。こやつは幾百年の研鑽を積んだ一流の戦士であり、影と冷気を操ることのできる者―――お前達で言う黒の冒険者に近い実力を持っている」
「「ッ!」」
―――黒の冒険者。
そう訊いて身体が震える。
恐怖からではない、そんな相手と戦うことのできる喜びからのものだ。
両手から双剣を作り出しながら、私は隣でナイフを構えるリーファに声をかける。
「リーファ、足手まといにならないでね」
「こっちの台詞。精々、私に置いて行かれないように……!」
「上等……!」
軽口を交わしながら武器を構える。
曲刀を地面に流すように構え、一歩ずつゆっくりと無防備に歩み寄ってくる彼女に冷や汗を流す。
「力を合わせよ。人の強さを武器にしろ。それらを理解し、分かち合えばお前達はさらなる強さを持つことができるだろう」
ベルンの声が遠く聞こえる。
突然始まった試練。
しかしそれは、黒の冒険者に追随するほどの実力者との戦い。
高揚感と緊張のまま、私は今一度氷で作られた双剣を握りしめるのであった。
よくよく考えると、幾百年の研鑽と神獣のバックアップを上回るウィルさんがおかしいという……。




