第二百二十八話
第二百二十八話です。
今回はニーア視点です。
ライオンが前足で手招きする姿を想像したら、なんとも言えないシュールさがあることに気付きました。
カイト君がラッセを追って落ちていった。
一つ遅れて私とリーファが彼を引き上げようとするも、それも間に合わず彼は遺跡の地下深くへと落ちて行ってしまった。
状況はあまりよくはない。
助けを呼ぼうにも帰りの道が壁によって塞がれているし、なによりここはなんらかの仕掛けが施されている空間だ。
またラッセを落とした穴が突然開くこともありえる。
そんな警戒をしながら、なんとかカイト君を助けに周囲を調べようとしていると、この空間でひときわ目立つ玉座のある場所が動き出し、床に隠し階段のようなものが現れた。
―――誘われている。
そう直感しながらも、後にも下がることのできない私達はその階段へと足を踏み入れることにした。
「……」
カイト君達と分断されてから見るからにリーファの様子がおかしい。
最初は目を血走らせながら、床を壊そうとしていたこの子だが、今はどんな感じなのだろう。
「またカイトと離れ離れ……」
めっちゃしょんぼりしてるじゃん……!?
魔具で照らされたリーファの横顔を見て驚愕する。
「だ、大丈夫だって! カイト君も強いし、きっと合流できるって!」
「……。はぁぁ……」
「おい。なんで私を見てため息をついたのかな?」
じろりと私を見てから露骨なため息を漏らすリーファにイラっとする。
こ、この、姉として元気づけようと思ったのになんだその態度は……!
「姉さん、ゴリラだし、チビだし、うるさいし、乱暴だし、食いしん坊だし、だらしないし―――」
「その七割はあんたに当てはまることを忘れてないよね……ッ!」
少なくとも私生活においては私と同レベルでしょ……!
そう指摘するとリーファはフッと笑みを浮かべ、親指で自身の顔を指さす。
「私の方が可愛い」
「双子だから同じ顔だよ!」
なぜ、そこまで自信が持てるのだ。
いや、私達は母さんと似ているから間違いなく自分の容姿には自信を持っていいのだけれども……!
なんかこう言われるとすっげぇイラっとする。
「そもそも姉さん、戦えるの?」
「元の身体ほどじゃないけど、足手まといにはならないよ」
武器は氷でいくらでも作れる。
体格で劣る相手には、考えて戦わなくちゃならないけど、元より俊敏さで相手を翻弄する戦い方をしていたから、実のところ戦闘スタイルにはそれほど変わりはない。
「さすがにこの身体で魔物の力を解放することはできないかな。できても一段階くらいだと思う」
「じゃあ、戦闘になったら私が率先して戦うことになるね」
そうなってしまうね。
子供の身体で体力も少なくなっているから、サポートして戦うことを意識しよう。
「……前もカイトと離れ離れになったことがある」
未だに終わりのない階段を降りているとふと、リーファがそんなことを呟く。
前も、か。
いったいどういう状況なんだろう。
「へぇ、その時はどうしたの?」
「神獣に洗脳されたカイトと戦わされた」
「……」
よ、予想以上に大変なことになってるじゃん……!?
カイト君、ガチ洗脳されてたの……?
「あの時は私とシフ……そしてイリスと力を合わせてなんとかできたけど、本当に大変だった」
「へ、へぇ、イリスと」
「うん。本当に彼女には助けられた。私達のために一人で神獣を足止めしてくれたし、本当に感謝してもしてきれない、いい人」
———あっ、多分、その時に関わっちゃったんだな。
なんとなくイリスの状況を察すると同時に、あの私に対して毒舌しか口にしなかった彼女の行動の変化に驚く。
前の私なら信じなかったけれど、多分、イリスもカイト君達と関わって変わったんだな。
生き別れの父親とかそういう部分を抜きにしても、窮地に陥るカイト君達を助けるためにたった一人で神獣と相対するほどにまで、入れ込んだ。
「……でも、なーんで連れてきちゃうかなぁ」
魔王軍に神獣が潜り込んでいる時点で、ほぼほぼ終わったようなものだ。
魔王なんてどうあがいても力があるだけの生き物に過ぎないし。
「そういえばさ」
「ん?」
「ラッセさんと落ちて、大丈夫かな?」
「……うーん、分かんない」
カイト君はラッセと共に地下へと落ちた。
よく考えると、あの状況でなぜラッセだけが落とされたのか。
邪魔者である彼を、私達から引き離そうとしたとも思える。
「……悪い人じゃない、はず」
たしかに一瞬ではあるが、肌がざわりとした―――それこそ神獣を前にした時のような感覚はあった。
でも、それもすぐに消え、それ以降はそんな感覚はしなくなった。
物腰の柔らかいラッセという人物の性格もあってか、私からもそれほど悪い人には見えない。
しかし、それでも人間に化ける神獣を知っている身としては警戒せずにいられなかった。
「彼にはシフ達がいるし、なにかあっても大丈夫だと思う」
「……でも、早く合流しなくちゃ」
階段の奥をジッと見つめたまま歩き続けるリーファ。
そんな彼女の後ろをついていくと、不意になにか音のようなものが聞こえる。
「……うん?」
「……リーファも聞こえた?」
その場で立ち止まり耳を澄ます。
微かに、ごうっ、という風のようなものが吹き荒れる音と、振動が聞こえた。
カイト君の技か……?
「……うぅ、カイトぉ……」
「情緒不安定か、この妹」
「お腹空いても、カイトがいない……」
「その話はやめて」
考えないようにしていたのに……!
食料とかはカイト君に預けていたのだ。
このままお腹がすいたら、私達には餓死する未来しかない。
「カイトもきっと私のこと心配してる」
「その自信はどこから来るの……?」
「私達がお腹を空かせてるって、今頃必死になって探そうとしてるはず」
「ちょっと待って。カイト君の私達への認識が、食いしん坊のペットに対するものと同じなんだけど」
私はそこまでじゃないよね?
……今までの行動振り返ったらそう思われても仕方がないと思えた。
駄目だぁ! 世話焼きの彼とダメダメな私達との相性が、変に良すぎる……!
「だ、駄目にされる……!」
「……あ、終わりが見えてきた」
思わず頭を抱えてしまうと、階段の終わりが見えてくる。
先の方から微かな明かりが見えてくる。
魔具から放たれる温かい明かりではなく、白く、どこか冷たさを感じさせる光。
それをどこか懐かしく思いながら、私達は階段を降りていく。
「———うわ……」
階段を降りた先の光景は、いくつもの柱が並ぶ広大な空間。
天井が高く、どこから照らされているか分からない白色の光が周囲を照らしている。
そして先には、上の広間にもあったような玉座と――――その傍らで、ゆったりとくつろいでいる大きな獅子の姿を見つける。
「「……!」」
知っている。
あれを、彼を、私達は知っている。
夢と現実の狭間で私達に声を投げかけた、神獣。
ゆっくりと顔を上げ、私達に目を向けた獅子の神獣は懐かしそうに眼を細めると、前足を軽くかかげ、こちらに手招き? 足招きしてくる。
『少し遠いから、こちらに来なさい』
「「あ、はい」」
思ったより、優しい声にびっくりしながらおどおどしながら近づく。
すると、影のようなものが蠢き、テーブルと椅子の形に変化する。
『座るといい』
促されるままに席につくと私達の元に影で作られた女性が、飲み物とお菓子を差し出してくれる。
これも影で作られたのかな? と思い、その顔を見ると影で身体を構成された女性は、にこりと笑みを向けてくる。
「え?」
思わず顔を上げると真っ黒い影でできた女性は、私の頭を優し気に撫でてくる。
普通なら子供扱いと怒るべきなのだが、その作られた人影があまりにも人間らしい素振りをしていることに驚き、声が出なかった。
『———♪』
おぼんを持った女性の姿をした影はぱたぱたと獅子の傍らに控えるように移動する。
……いや、本当にどういうこと!?
リーファも同じく混乱しているのか、目の前のお菓子にも手を伸ばさずに硬直している。
『人間の勝手で人身御供とされた憐れな娘だ』
『———』
『……好きに眷属となっている物好きな者でもあるがな』
ふるふると親し気にこちらに手を振ってくる女性型の人影。
もう、いよいよどうしていいか分からずにいると、獅子が私達を見下ろす。
『いくつか手違いもあったが、よく来てくれた。お前たちの来訪を、歓迎しよう』
目の前の神獣は、リオンと呼ばれた神獣より、私を監視していた神獣とも違う。
威圧感も敵意もなく、むしろ穏やかな雰囲気を感じさせる獅子を前に、私達は不思議な感覚に苛まれるのであった。
人影さん。
神獣が生きていた時代にベオル・ヒドゥンへの生贄とされた少女。
ベオルさん、特に悪いこともしてなのに生贄を捧げられて普通に困る。




