第二百二十七話
第二百二十七話です。
落とし穴? に落とされたラッセさんを助けるべく、穴に飛び込んだ僕は彼と共に地下深くにまで落ちることになった。
幸いラッセさんに怪我はないようだけど状況はあまりよくはない。
今僕達がどれだけの深さにいるかも分からないし、そもそも上層に戻る道があるのかさえは分からない。
「僕の経験上、上層に戻る道は必ずある」
「必ず、ですか?」
「うん。ここは人間によってつくられた場所だ。それなら上に帰る道があってもおかしくはないし、それなりの広さもある空間だから、その出口が一つだけとも思えない」
魔具で先を照らしながら暗闇の中を進むラッセさんの言葉に僕とシフは得心がいったように頷く。
こんな状況でも一つも動揺せずに行動できる彼の冷静さに感嘆すると同時に、その冷静さに僕は少しだけ疑問に思う。
「ラッセさん、本当に大丈夫ですか? やっぱり……かなりの高さから落ちたと思うんですけど」
「普通の人間ならば、あれだけの高さから落ちれば大なり小なり怪我を負うはずだが……」
もしかすると我慢しているのだろうか。
さりげなく肉体強化で嗅覚を強化させるが、血の匂いはしない。
本当に怪我をしていないのか……?
いや、怪我をしていてほしいわけじゃないけれど。
「じ……実は、僕は体質的に体が頑丈なんだよね。身体が重いのも、それが関係しているんだ」
「なるほど……つまり……筋肉がすごいってことですね?」
「へ? ……あ、ああ、そう。そんな感じ」
体質ならしょうがない。
僕も純魔の魔力を持っているので、ラッセさんのように身体がひたすらに頑丈な体質があってもおかしくはない。
「……二人は大丈夫かな」
次に心配するのは、上に残してしまったリーファとニーアだ。
僕がいなくなって大丈夫だろうか。
そんな心配をしていると、前を歩くラッセさんが元気づけるように声をかけてくれる。
「彼女達の実力なら大丈夫だと思うよ?」
「いえ、お腹を空かせてないか心配で……食料とか僕とラッセさんが持っていますし」
「そういう心配……?」
くっ……やっぱり僕だけじゃなく二人にも食べ物を持たせるべきだったか?
「いや、持たせたら持たせたらで全然関係ない時につまみ食いして肝心な時になくなってるだろうし……! 食欲の権化みたいな子達ですし……!」
「彼女達への信用ないの……?」
「むしろ逆です。信用しているからこそです……!」
心配すぎる。
特にリーファは考えも無しに穴に前に進もうとしていないか。
幾分か冷静なニーアがいるから無茶な行動はしないと思いたいけれど、もしものこともある。
「カイト、二人のことも心配だがまずはここを上に昇ることを優先させよう」
「……そう、だね」
まずはこの状況を何とかする方が先か。
そう思いながら、意識を歩く先へ向けると―――唐突に、いくつもの気配が前触れもなく現れたことに気付く。
まるで湧き出たように出てきたそれに、僕とラッセさんは足を止める。
「———ラッセさん……」
「これは……」
「下がっていてください」
右手にライムを変形させたトンファーを持ち構える。
現れた複数の気配は、ふしぜんなほどに揃った足取りで魔具によって照らされた場所に出てくる。
その姿は―――人のものではない。
「……これは……!」
それは純魔覚醒を果たしたリーファが作り出す人型の影と同じもの。
黒いマネキン人形のようなそれは、それぞれが氷で作られた透明感のある武器を持っており、どう見てもこちらに敵意を以て近づいているのが理解できた。
「話が通じそうな雰囲気じゃないな! ユラン!」
「シャー!」
左腕に移動したユランから魔力の壁を作り出し、背後で周囲を照らしてくれているラッセさんの周りを覆ってもらう。
「か、カイト君!?」
「僕が護ります!」
手袋とトンファーに炎を纏わせ、明かりがわりにしながら構えを取る。
徐々に人影の気配が増えていっている。
全てを相手にしている余裕はないので今いる奴らだけ対処して、頃合いを見てラッセさんと共にこの場を離脱する……!
「さあ、来い!」
僕の声に合わせてこちらに襲い掛かってくる黒い人影達。
雑に振り下ろされる槍を強く握りしめたトンファーで受け止めながら、その腹部に拳を添え―――ハクロを放つ。
「吹き飛ばせ!」
「ガァァゥ!」
拳から暴風と共にハクロが現れ、黒い人影の一体に至近距離からの噛みつきを食らわせる。
吹き飛ばすための一撃―――そのはずだが、ハクロはそのまま黒い人影の胴体を引きちぎるように食い破る。
「カイト! 実体はあるようだが、脆いぞ!」
「生き物じゃないなら、存分にやるぞ!」
ラッセさんに攻撃を仕掛ける一体を、回転させたトンファーを叩きつけ消滅させる。
振り向きざまに腰のロープを取り出し、10メートルほど先にいる個体の腕に巻き付け、そのまま力任せに引き寄せる。
「フンッ!」
引き寄せた人影の胴体をトンファーから剣へと変形させライムで貫く。
それだけでどろりと崩れ落ち消滅したところで、さらに五体ほどの影が前方からやってくる。
「同時に来るぞ!」
「猪口才な……! フンッ!」
左手に握られた縄を伸ばし、一体の首に巻き付け引き寄せる。
そのまま引き寄せた影を盾にさせるように相手に切りつけさせながら、そいつもろとも剣で刺し貫く。
「———」
「甘い!」
三体目が氷で作られたレイピアを突き出す。
剣で防御するのは間に合わないと判断し即座に左手の縄に持ち替えた僕は、攻撃をいなしながら逆にレイピアを奪い取りその胴体へと突き刺す。
———まだ二体、くる!
「ふっ!」
縄をしならせ、氷の剣の先端に巻き付け、こちらに引き寄せる形で奪い取る。
ひんやりとした手触りに、改めて氷で作られていると確認しながら武器の無くなった個体に氷の剣を突き刺し、最後に襲い掛かってくる五体目の人影の顔面を掴み取る。
「喋れるか!? どうだ!?」
「いや、なんらかの命令には従っているようだが、こやつらに意志はない!」
「ならば、ぬぅん!」
肉体強化に任せ、掴み取った頭を振り回し他のやつらを吹き飛ばす。
強さはそれほどでもない。
だけど、数だけは多い。
正直、こいつらが出てこなくなるまで戦えるけれど、それはあまりいい選択肢ではないだろう。
「足止めか……!?」
「その可能性が高いな。なにが目的かは分からないがな!」
ここで僕らを消耗させるつもりか?
それとも単純に排除しようとしているのか?
分からない。
分からないけれど、このままここで戦うのは意味がない!
「一気に吹き飛ばす! 皆、行くぞ!!」
大剣へと変えたライムに、僕の使い魔全ての力を合わせる。
炎を纏い、風に包まれた大剣を大きく振りかぶった僕は、際限なく湧き上がり続ける人影目掛けて、それを振るう。
「薙ぎ払え! テイマーズブレイドォ!」
瞬間、暗闇に包まれた遺跡内に炎の嵐が巻き起こる。
僕の眼前に放たれた炎は大量に湧き出てた人影を呑み込みながら、広大な遺跡を駆け巡っていく。
「ラッセさん! この場を離れます!! 走れますか!?」
「あ、ああ!」
それを見届ける前にラッセさんの周囲を覆う魔力の壁を解除させ、彼と共にその場を走る。
大柄な体に見合わない脚力で走るラッセさんに並走しながら、先ほどの人影について質問してみる。
「ラッセさん、あれなんですか!」
「恐らく、ベルン・ヒドゥンの作り出した眷属だろう!」
「それがどうして僕達に襲い掛かってくるんですか!?」
影と氷というリーファとニーアの魔法に似通った点があったから薄々そうなんじゃないかと思っていたけども。
「いや、多分襲われているのは僕だ! 君はその邪魔をしていただけだと思う!」
「どうして貴方が狙われているんですか!?」
「さあね! やっぱり、遺跡調査ばかりしていると目に見えない呪いとか受けまくっているかもしれないから、それだからかもしれない!」
ラッセさんが狙われる理由は分からない。
もしかしたら、彼が何かを隠しているのかもしれないが、今はこの場を離れることが先だな。
縄で引き寄せてぐさり。
縄で引き寄せて敵を盾にする。
縄で武器を引っ張って奪取。
ロープ術とは……?




