閑話 神獣大暴走
今回は閑話となります。
前半はリオン、後半はイリスの視点となります。
私は、植物を通じてあらゆる場所の景色を見ることができる。
それらを操り、自然を作り出すことのできる―――我ながら強めの能力と自負しているが、神獣の中では中堅やや下くらいの力を持つ程度に収まっている。
まあ、戦闘特化ではないので別段気にしている訳でもない。
「ようやく、入ったようだね」
植物を通じて、カイト君が遺跡に足を踏み入れる光景を見守る。
リーファとニーア。
神獣の力を持つ特別な人間である二人にとって原点ともいえる場所は、私にとってもなにが起こるか分からない未知の場所だ。
植物すらも入りこめない遺跡内に私の目は届かせることはできないし、中の状況を見ることすらできない。
「まあ、ベルンは彼らを害することはないだろうし、任せてもいいだろう」
彼は元より穏やかな気性を持つ神獣だ。
持つ力も強い癖に、率先して戦うことをせずに人間達に寄り添った変わり者であったが、今では彼がなぜそのようにしているのか理解できる。
「さて、どうなることやら……」
庭園の中心に立ちながら一人呟く。
恐らく、リーファとニーアに別々の力が分け与えられたのは、そうしなくては人間という器に神獣の力が収まらなかったからだろう。
ただでさえ、分割した時点で獣人に似た変異をしてしまっていたのだ。
しかし、分からないのはなぜ人間に神獣の力を分け与えることになったのかだ。
「もしかすると、私と同じように動いていたのかもしれないね」
彼は思慮深い存在だ。
少し頭が固くはあるけど他の神獣よりは話が分かる。
彼が、以前と変わりなければ、カイト君に危険が降りかかることはないはずだ。
もしもの時は、彼を庇護する私達が力を見せればいいだけだし。
「ラッセ、か」
カイト君達に同行した流れ者。
大陸全土を回り、遺跡調査を行っている人間とはいうが———、
「怪しいねぇ……うん、とても怪しい」
私自身が近づけば恐らく何者かは分かるだろう。
少なくともこの距離にいる私と、近くにいるニーアの感覚すらも欺けるほどの者だ。
ほぼ確実に普通の生物ではないだろう。
「しかし、悪い感情はないんだよねぇ。どういうことかな?」
カイト君に、敵意を向けるようならすぐさまこちらから攻撃を仕掛けられたのだけど。
監視している合間も、彼がカイト君に向ける感情は親愛と友情———そして、憐憫、哀れみだ。
「さてさて、ラッセ。君はいったい誰かな?」
私の目が届かない場所でなにをしようとしているのかな?
多少の心配はあるけれど、彼にはフィーリヘルトがいるから大丈夫だろう。
「まあ、それなりの手間はかかったけれどね……」
事前に、大陸全土を瞬間移動しまくりながら泳ぎ回る彼女に接触して忠告しておいたし、もしものことにはならないだろう。
……まったく、フィーリヘルトは昔からあんな調子だから困っちゃうなぁ……。
あれでカイト君の呼び出しには速攻で駆けつけるあたり、律儀すぎるよ。
「お姉さまー」
「ん? なにかな?」
暫し考え込んでいると、私の足元から黒色のキツネが声をかけてくる。
その子を抱き上げながら私は、穏やかに笑って見せる。
「疲れてるー?」
「いいや、全然。むしろ元気なくらいさ」
「なら、遊んでー」
「私を気遣ったんじゃないんだね……」
まったく、いったい誰に似たのだろうか。
「おじい様は、ボール転がしてくれるけど全然動いてくれないんだもの! いっつも、お兄様と一緒に椅子でお昼寝しているもの!」
ウィルがボール転がしてくれるだけ優しいと思うのだけど。
というより気まぐれに彼にあてがった子と、地味に仲がいいんだよね。
穏やかな気性の大型犬だからかな?
「はぁ、後で遊んであげるから待っていなさい」
「約束よー」
そう言って私の腕から飛び降りる黒いキツネ。
やんちゃだなぁ、と思いながらも私は能力を使い、カイト君とは別の場所へと視線を飛ばす。
「さて、メデュラリアムはこの状況をどう思っているか……って……げぇ!? やっば!?」
植物を通じて見える現在のメデュラリアムのいる景色に思わず頭を抱える。
どうやら、彼女は以前私に話した通りに着々と状況を動かし付けているようだ。
●
「ねえ、イリス。得体のしれないものを、誰にも知られないように消すのってどうやったらできると思いますか?」
突然、神獣にこんなことを言われて生きた心地がすると思うだろうか?
いや、ない……!
ましてや今の状況を考えると、下手をすれば私も諸共に目の前の者のようなことになるのではないか?
少なくとも私は現在進行形で殺気をまき散らしている上司を前にして、私は何度目か分からない心が軋む感覚に苛まれていた。
「———ッ! ———ッ!」
「申し訳ありません。始末するだけならば貴女様なら容易いことだと思うのですが……」
「いえ、カイト様に気付かれず。それに合わせて、私への心証がよくなれば最高です」
「……」
それは無理なのでは……?
貴方様からの言葉からして、カイトは神獣の嘘を見抜く感覚を身に着けているはずだ。
そんな彼を前にして、恐らく彼の知人である人間を消してしまえば、心証が良くなるどころか最悪になると思うのだけど。
「———ッ! ———ッ!」
「なぜ、そこまでお怒りなのですか?」
「カイト様に近づいたからです」
「すみません。質問を変えさせていただきます。なにが、彼に近づいたのですか?」
メリア様は口元に指を添えながら、近くの机に転がっている大量の魔具を蹴り落としながら、腰を下ろす。
優雅に足を組んだ彼女は、一瞬だけ床に視線を向けながら妖艶に微笑んだ。
「———ッ! ———ッ!」
「未だに判明しませんが、恐らく神獣でしょう」
「……は? またですか?」
「はい。またです。もう、カイト様には私だけがいれば、それで十分だというのに、どうして……」
困ったように笑みを浮かべる彼女だが、その目は決して笑っていない。
付き合い方を間違えなければ、私にとっても最強の味方のはずだ。
それを何度も頭に言い聞かせながら、平常心を保つ。
「———ッ! ———ッ!」
「まあ、この話はいいでしょう」
「いいのですか?」
「はい。視界は依然として私の眷属と繋がっておりますから」
さらっと常に監視している宣言をしているメリア様に、内心でドン引きしながら私はため息をついた後に―――もう一度、床を見てもう一度大きなため息をつく。
「———ッ! ———ッ!」
「……はぁぁ」
「あら、どうしたのですか? 浮かない顔ですが」
「いえ……なんというべきか……」
改めて周囲を見る。
そこは、ごくありふれた街の中に存在する一軒家の一室。
それなりに裕福なのか部屋の中は広いが、あちこちにガラクタが溢れ、見るからに作りかけの魔具や、私達に支給された数多くの魔具がゴミのように散らばっていた。
そして、その部屋にいるのは私とメリア様だけではない。
先ほどから床でのたうちまわり、なんとか逃げ出そうとしている人影が一つ。
「魔王軍も、今日で終わりとは……」
「———むぅ―――!? いいぅ―――!?」
———ここは、魔王の潜む家。
まさか、こんな人に溢れた場所に堂々と住んでいると思わなかった分、驚きしかなかったが、それ以上に驚いたのが魔王の正体であった。
「ふふふ、まだ終わりではありませんよ?」
「———ッ! ———ッ!」
「うるさいですねぇ」
そこでようやく、メリア様は地面に転がされうめき声をあげている魔王を見下ろした。
白色の蛇に簀巻きにされ、口すらも塞がれた人影―――私達に魔王と呼ばれていた少女は、涙を流しながらも小柄な体を必死に動かしその場を逃げようとしていた。
「まさしく、子供だったんですね」
「最初からそう言っていましたよ? まあ! 信じてくださらなかったんですか!?」
「意地悪はやめてください……」
「ふふふ……」
あれか? 私はこんな子供にずっと詰られ続けたというのか?
そもそもこんな子供がどうやって魔王軍なんてものを作り上げられたんだ?
意味が分からない。
「イリス、貴女の疑問は最もです」
「……え?」
「こんな子供が、大層なことをできるはずがない。そうでしょうね。……きっと、どこかの親切な方が魔王軍を作るのを手伝ってくれたんでしょうねぇ……」
そう言葉にしてにやりと口を三日月のように歪めた彼女は、床ではいずる少女の胸倉を掴み無理やり視線を合わせる。
恐怖に歪む少女に、彼女はこれ以上になく明るく無邪気な声をかける。
「さあ、お話しましょう♪」
人は絶対に神を超えることはできない。
私よりも年下の少女の表情が絶望に染まった光景を見ながら、私はつくづくこの方の庇護下にいてよかったと心の底から思うのであった。
まさかの本編外での魔王捕縛。
相手が相手だからしょうがないですね!
名前:魔王ちゃん(仮)
年齢:十代前半くらい
種族:人間
・一般的な家に住んでおり、両親はいない。
・魔具作りの天才。
・いろいろあって性格がねじ曲がった。




