第二百二十五話
先日は更新をお休みしてしまい申し訳ありませんでした。
現在週五日更新の殴りテイマーですが、治癒魔法の方を優先させるため更新日を減らすことになるかもしれません。
第二百二十七話です。
何事もなく亀裂にまで到着し、ラッセさんと合流した僕達は早速地下へと降りることになった。
亀裂から地面のある地下まで大体30mほどの崖を降りていくわけだけど、今の僕にとってはそれほど恐れる高さではない。
「僕が先に降りて安全を確かめます。———ハクロ、ユラン」
ハクロが僕の身体を風で包み込み、ユランがいつでも空中に足場を作れるように備える。
肉体強化を籠めれば、普通にここからジャンプしても着地できるが、着地の衝撃で地盤が崩れる可能性もあるのでそれは駄目だ。
遺跡調査において、足場の確認は最優先で行わなくてはならない。
シーナさんの教えをもう一度頭の中で繰り返し思い浮かべる。
「カイト君、ニーアは身体が小さいので任せてもいいでしょうか?」
「いや、母さん子供扱い……」
「構わないですよ。僕がおぶります」
「だからぁ……ッ、もぉー!!」
地団駄を踏むニーアに背中を向け屈む。
ぶつくさと文句を言うニーアをおぶった僕は、そのまま前に進み出るように崖を飛び降りる。
「え、カイト君!?」
ラッセさんの驚きの声を聞きながら、ハクロの力で空中で態勢を整える。
落下の速度がゆっくりとなると同時に、ユランの魔力で足場を作ってもらい、そこを足場にしながら下へと降りていく。
「うわー、安定感がすごーい……」
危なげもなく地下に軽く着地した僕は、頭上を見上げて無事に降りたことを伝える。
「分かりましたー」というシーナさんの声が返ってくる、少しすると空の光が差し込む頭上から長めのロープが垂らされてくる。
とりあえず背中のニーアを下ろして待っていると、頭上からロープでできた影を伝って黒いなにかがこちらにまで降りてくる。
それは、僕の足元にまで辿り着くと大きく広がると、影から浮き上がるようにリーファ、シーナさん、ラッセさんが現れる。
「“影道”……到着」
「便利な魔法ですねぇ」
「いやはや、これは楽だ……」
リーファが影で連れてきてくれたか、こういう時彼女の魔法は便利だなって思い知らされるな。
さて、皆がここに降りたことだし、あらかじめ渡されていた魔具型の松明に種火となる炎を灯す。
「シフ、炎を」
「うむ」
シフの発生させた火炎により、明るい光を発する松明。
明かりに照らされた場所は遺跡のようにタイルや壁画などが刻まれていた。
「ここが、遺跡……」
「このすぐ先に扉があります。まずはそちらに向かいましょう」
それぞれが松明を持ちながら遺跡内を進んでいく。
なんというべきか、不思議な感覚だ。
自分の知らない領域に足を踏み入れるような、そんな不安と高揚。
「カイト君」
「はい?」
「その気持ちを忘れないように」
僕のそんな感覚を察したのか、シーナさんは笑いかけてくれる。
「未知への探求心。それは私達にとって言葉では表すことのできない高揚感をもたらしてくれるものであると同時に、自身の命を脅かす危険なものです」
「……はい」
彼女の言葉を胸に刻みつけると、目の前に大きな扉が現れる。
両開き型の古びた扉。
他の遺跡部分が砕け、損傷しているがこの扉だけがどういうことか欠けもせず、それどころか無傷なように見える。
「シーナさん、この扉が……そうですか?」
「はい。最後に見た時と全く変わっていないということは、未だに誰も中に入れていないと言うことですね」
近くに寄ってみれば扉には白い模様の入った黒色の獅子の姿が壁画のように刻まれている。
その下には眠りにつく何十人もの人の姿が描かれており、それを目にしたラッセさんは眼鏡に触れながら興味深げな様子で唸り始める。
「これは、間違いないね。人の死、眠りを守る神獣。その吐息は苦しむものに安らぎを与え、その瞳は慈悲なる心で人を見定める……すごい、これはとても……とてつもないほどに長い間開くことのなかった扉だよ……」
神獣ベオル・ヒドゥン。
ここに、その神獣がいるかもしれない。
その事実に少し身構えると、シーナさんがリーファとニーアに向き直る。
「とりあえず、二人とも扉の前に立ってみてはどうでしょうか?」
「そんな簡単に開くかなぁ」
「まあ、試しにやってみよう」
微妙な表情のリーファとニーアが扉の前に移動する。
それから十数秒ほど経つが、扉はうんともすんとも反応しない。
「駄目っぽい?」
「全然開かないね……」
二人も首を傾げているけど、ここで扉があかないとどうしようもない。
これは一度出直すべきか?
帰る可能性を考えていると、ラッセさんが二人に声をかける。
「二人とも、試しに魔力を練ってみてはどうかな?」
「魔力?」
「二人の力がこの遺跡にいた存在からもたらされたのなら、入る時にも使うんじゃないかってね」
「……。試してみようか、リーファ」
「うん」
今一度扉に向き直ったリーファとニーアはそれぞれの魔法を発動させる。
影を操る魔法と、冷気を操る魔法。
その二つが彼女達の身体からあふれだした瞬間、今までなんの反応を示さなかった扉がゆっくりと動き出す。
……二人の力に反応したのか?
「これも、運命ですか……」
開かれた扉を見て、小さなため息をつくシーナさん。
この後、どうするかシーナさんに判断を仰ごうとすると、彼女は持っていた荷物をその場に置いた。
「事前に相談した通り、私はここで貴女達を待ちます。もし、なにか異常が起こったり、怪我人が出たのなら、すぐに戻ってきてください」
「……うん、分かった」
「私は、ここで貴女達の帰りを待っています」
今から向かう場所は、リーファとニーアの力の根源に迫る遺跡だ。
そこで何が起きるか分からない以上、シーナさんが二人を心配する気持ちは相当なものだろう。
「ラッセさんも、この子達を頼みます」
「……ああ、任せてくれ」
彼女の言葉に頷くラッセさんは、気合いを入れなおすように荷物を背負いなおす。
次に、シーナさんは僕へと視線を向ける。
「カイト君、この短い時間で教えられることは全て教えました。あとはそれを生かすだけです」
「今日までありがとうございました。必ず、教えを生かして戻ってきます」
短期間ではあるが心構え、そして最低限の知識をつけたつもりだ。
まだまだ足りずラッセさんに頼り切りになってしまうようだけど、今は付け焼刃の知識で増長せずに冷静に対処していこう。
「やっぱり、私の跡を継ぎませんか?」
「え? シーナさんやラッセさんのような冒険ができるのなら願ってもないですね。ははは」
「「げ……」」
シーナさんの言葉に、笑いながらそう返す。
今はあまり自由はないが冒険者という依頼を受ける仕事についている以上、そういう機会に恵まれることは多くなるだろう。
……なぜかリーファとニーアが「しまった!?」と言いたげな顔をしているのが気になるけれども。
「そうですか、そうですか。貴方達が帰った時の楽しみができましたね」
なにやら嬉しそうだ。
上機嫌なシーナさんに首を傾げていると、荷物を確認していたラッセさんが立ち上がる。
「それじゃあ、入ろう。まずは軽い調査をしてから、この場所———拠点に戻って情報を纏めよう。急がず、焦らず着実にいこう」
「はい!」
ラッセさんを先頭にして僕達は開かれた扉から遺跡へと足を踏み入れる。
中は、砂埃などが見られるが異様に綺麗な様相を保っており、もうそれだけここがどれだけ歴史的に価値がある場所か理解させられてしまう。
『金の純魔よ……』
「———っ!」
松明に照らされる道を歩いている最中、頭の中に誰かの声のようなものが響く。
どこか穏やかな男の声。
ただ、それだけを呟いて後は聞こえなくなってしまったが、それでも確かに誰かが僕に声を届かせた。
「カイト、どうした?」
「ああ。でも……これは、本当にいるかもしれないな」
心配そうに僕を見上げるシフに返事をしながら暗闇に包まれる通路の奥を見る。
いくつもの柱が並ぶ、天井の高い空間がひたすらに広がっている。
それがどれだけ広く、先に続いているかは分からないが、この遺跡のどこかにメリアのように潜んでいた神獣がいることは確かだ。
とうとう足を踏み入れてしまった遺跡。
少しずつ事態が動き出していきます。




