第二百二十四話
第二百二十四話です。
ロープ術も大分形になり、シーナさんから最低限の遺跡への知識は教わった。
色々と不安な部分はあるけれども、僕達は遺跡調査に向かう日を迎えることになった。
「———さて、準備はよろしいですか?」
「はい!」
「「はーい」」
背中には道具や携帯食料などを詰め込んだリュック。
腰にはいつもの水筒とロープ。
調査に必要な荷物を持った僕達は、シーナさんの声に返事をする。
「では、向かいましょう」
僕の想像する探検家の服装に身を包んだシーナさんは、腰にかけたロープを揺らしながら前へと進みだした。
「今回の調査についてですが、私は遺跡の中には入りません」
「え、ど、どうしてですか?」
「そうだよ、母さん来ないの!?」
僕とリーファが驚くと、シーナさんは少し残念そうな笑みを見せる。
「いざという時のために私が、外に待機します。もしもの事態があったとしても、すぐに対処できますし、街の方に助けを求めることもできます。それに―――」
こちらへ振り返った彼女は人差し指を立てる。
「うっかり、入っている遺跡を埋められたりしないように見張ることもできますからね」
「……母さん、それ実体験?」
僕達より幾分か小さいリュックを背負ったニーアが頬を引き攣らせながらそう口にする。
シーナさんは、にっこりと微笑むと首を横に振る。
「いえ、違いますよ?」
「な、なーんだ。そうな―――」
「爆破はされましたけど」
「もっと酷い目にあってる!?」
映画のクライマックスシーンかな?
「財宝に目が眩んだ盗賊が、台座にはめ込まれた呪いの宝石を無理やり外したら、遺跡の仕掛けが発動して、どんどん爆発してきちゃったんです」
映画のクライマックスシーンだな!?
「よ、よく無事でしたね……」
「あの時は命を落とすと思いましたが、まあ、なんとかなりました」
す、すごい、説得力みたいなものがあるな。
しかし、僕もシーナさんの言ったような状況にならないように気をつけないと。
「……あのさ、カイト君。ちょっといいかな?」
「ニーア、お腹すいたの? あ、試作品だけどこれ食べる?」
ラッセさんに作り方を教えてもらったチョコバー? をニーアに渡す。
これのなにがすごいってかなり手ごろなこと。
まさか、水分を飛ばすのにあんな方法を使えるだなんて思いもしなかったなぁ。
「もぐもぐ、あ、美味しいね」
「それはよかった。まだまだあるけど、これはいざという時のためにとっておこうね」
「うん!」
笑顔で頷いたニーアに笑いかけ、そのまま前へ進む。
暫しの静寂が続くが、不意にハッとした表情を浮かべたニーアがこちらを見上げる。
「いや、違うよぉ!! 私を子供扱いしないでよ!?」
「誰がママだ」
「だから、君がママだなんて言ってないよ!」
猛烈なツッコミをするニーア。
しかし“ママ”という言葉に反応したシーナさんがこちらへ振り返る。
「はい? なんでしょうか?」
「母さんは前向いてて! 話がややこしくなるからぁ!」
「……ニーア、私ならまだしも、さすがにカイト君をそう呼ぶのは引きますよ?」
「にゃああああ!」
ちょっと引いている様子のシーナさんに、頭を抱えるニーア。
その様子を横目で見たリーファは、僕の隣に並ぶように歩幅を合わせてくる。
「カイト、姉さんにあげたの私にもちょうだい」
「まったく、しょうがないな」
「ありふぁふぉー」
差し出したチョコバーにそのまま齧り付く形で持っていくリーファ。
そんな姿に、動物園のキリンの姿を連想させながら、ニーアへと再び視線を戻す。
「それで、なにかな?」
「……ずっと言おうか迷っていたんだけど……あの、ラッセさんについて……」
声を潜めて真面目な表情で話すニーアに、シフも興味を抱いたのか僕の肩に飛び乗ってくる。
ラッセさんについて……?
「気のせいかもしれないけどさ、最初にラッセさんを見たとき、ちょっとザワッとしたんだ」
「……ニーア、人を印象だけで決めるのは駄目だよ?」
「いや、そういうことじゃなくて。……間違いならそれでいいんだけど、一応、ラッセさんを心から信用するのは早いかもしれない」
ざわってなんだ?
野生の直感的なものだろうか?
「シフ、どう思う?」
「視点を変えれば、ラッセ殿の行動は少しおかしな部分もある。彼の人の好さを信頼してしまったが……たしかに、我々が調査をする時期と、彼がここを訪れた時期には作為のようなものが感じられる」
……あまりラッセさんを疑うようなことはしたくはないけれど、あくまで彼とは会ったばかりだ。
それなら、交流の深いニーアの方を信用するべきだろう。
そもそもここでラッセさんを疑うように誘導して、彼女の得になることは何もないからな。
「分かった。心に留めておく」
「……ありがと、信じてくれて」
「当然だろ。……このことは、シーナさんに言ったか?」
僕の問いかけにニーアはシーナさんを見ながら頷いた。
「一応は、だから外に残るらしい。もしも、彼が裏切った時、いつでも脱出経路を確保して私達を逃がせるようにって」
「……リーファには?」
「あの子は顔に出るから言ってない」
「なるほど」
少し離れたところを歩くリーファを見れば、嬉しそうな表情でもぐもぐと僕があげたお菓子を食べている。
しかし、隠し事をするのは良くない。
リーファも人間なのだ、自分だけ隠し事されるのは嫌に決まっている。
「リーファ。ニーア曰く、ラッセさんが怪しいらしい」
「いやいや、カイト君!?」
ニーアが慌てるが、当のリーファはのほほんとしたまま咥えているお菓子を手に持つ。
「そうなの? あの人、普通にいい人だと思うよ?」
「だとしても、正体を隠している可能性があるからね。僕とニーアが気を付けているから、君はいつも通りでいいよ」
「んー、分かった」
こくりと頷くリーファに満足する。
素直なところがこの子の良いところだ。
そう思っていると、ニーアが疲れたような顔をしている。
「えぇ、それでいいのか妹よ……」
「だって、カイトのこと信頼してるし」
そう断言するリーファに、少しだけ照れくさくなっていると、いつのまにかこちらを振り向いていたシーナさんが嬉しそうにしていることに気付く。
「シーナさん? どうしました?」
「いえ、やっぱりリーファの従者が貴方で良かったと思いまして」
「は、はい……?」
「もうすぐ到着します。気を引き締めるように」
そう口にするシーナさんの言葉に一層気を引き締めながら背中の荷物を背負いなおす。
これからなにがあるか分からない遺跡に行くのだ。
なにが出てきてもいいように、心をしっかり持たなくてはな。
ちょっと怪しまれるラッセさんでした。
ようやく遺跡に入れそうです。




