第二百二十三話
第二百二十三話です。
ラッセさんが遺跡調査に参加することが決まった。
何十年も遺跡を探検してきたその道の達人である彼が同行してくれることで、不安のあった調査も安全に行えることだろう。
その後は亀裂の下がどれほどの深さかを目で確認し、下見をしたところで僕達はラッセさんと別れ、家に戻ることになった。
『———それで、遺跡に行くのはいつぐらいなの?』
「明後日という話」
夜、部屋でシフと他愛のない雑談を交わしていると、机の上に置いてある通信用の魔具が作動した。
早速魔具を手に取り、その通信を受け、フィルゲン王国にいるチサトと話をすることになった。
『いいなぁ、私も行きたいなぁ』
遺跡に調査するという話を聞いた彼女は羨ましそうにそう呟いた。
ベッドに座った僕は手慰みにロープをいじりながら、彼女の言葉に苦笑する。
「君には勇者としての仕事があるだろう?」
『そりゃそうだけど、君達と一緒にいた時ほど騒がしくないというか……刺激がない』
「君はどういう日常を求めているの?」
『修羅場りたい』
どういう意味だよ。
“修羅場”の動詞かなにか?
机の上に立てかけた空瓶にロープを投げる―――失敗。
ロープを手元に引き寄せながら、ふと思いついたことを彼女に口にする。
「ああ、そうだ。三日間、僕からの連絡がなかったらここに人を寄越すようにお願いできるかな」
『そんな縁起でもないこと……』
「用心のためだよ。ほら、映画でもあるだろ? 洞窟とか建物に閉じ込められた時に、不幸にも外に連絡が回らなかったって展開」
『あ、それ分かる。まさしく、パニック系の始まりって感じだよね』
ああいう遺跡に入った瞬間、魔具が使えなくなるって展開も予想できるから一応の備えってやつだ。
「だから、そういうことが起こらないために、今のうちに君に伝えておこうかなって」
『……分かった。君達になにかあったらすぐに駆け付けるから』
これでもしものことが起こっても大丈夫そうだな。
ジェシカ様に文も送っているから、保険みたいなものだけれど。
「ま、その前にリオンさんやメリアが遺跡を破壊してでもこっちに来そうではあるけれども」
『あー、それはありそう。というより、フィーリヘルトに転移してもらえば普通に脱出できるんじゃない?』
「……はっ!?」
たしかにそうだった。
あまりにも便利すぎる力だからそもそも思考にいれてすらなかったわ。
うーん、これまでの話が無駄になってしまったな。
『あのさ、カイト君』
「ん?」
『さっきからひゅんひゅん、ひゅんひゅん聞こえるけど、なんの音?』
「ああ、ロープ術の練習だよ」
『緊縛?』
「なんでいかがわしい言い方にしたの?」
君、女の子だよねぇ?
僕から見ても信じられないんだけど。
『あ、ごめん。今の無し』
「はい?」
『私、勇者だから言動に気をつけないと』
「手遅れだと思うんだが……そもそも、今まで気を遣っておいてあれだったのか?」
愕然とするシフ。
今までも結構なパワーワードを連発していたチサトではあるが、まだまだ先があるらしい。
「シーナさんから教えてもらった技術だよ。縄に魔力を薄く纏わせることによって、縄の軌道を操作するんだ。今は離れた場所にある空き瓶をロープで引き寄せる訓練をしていたんだ」
『カイト君に必要なくない? 君にはライムがいるし』
チサトの言葉に、枕元にいるライムが得意げに身体を揺らす。
たしかにライムがいれば操る必要もなく変形も思いのままだろう。
「武器を扱う技術を鍛えれば、ライムをもっと強く戦わせてあげられるって考えたんだ」
『ふーん、そうなんだ』
「まだ習ったばかりだから全然うまくできていないけれど、うまく使えるようになれば、ライムの変形に応用できたり、リングを作ったりできるようになるかもしれない」
「おぬし、まだそのようなことを……」
刀身を鞭のようにしならせ、より正確な攻撃もできるようになる。
それに加えて、僕とライムの息が合えば新しい戦い方が見つかるかもしれない。
『ふと思いついたんだけどさ、ライムを馬に変形させてスライムホースとかしてみるのはどう?』
「「!?」」
僕だけではなく、ライムですら驚愕する。
いや! でも、いけるのか……? ライムの身体を大きくするにはそれなりの魔力が必要だ。
実現すれば色々とすごいことになるんじゃないか?
「……いや、チサト。複雑な変形はまだライムには無理だろう」
『そうなの?』
「うむ、現状でオロチ……蛇のような動きの単調な生物の動きは再現できるが、馬のような……いわば全身の動きが必要となる変形は至難の業だ」
「キュウ……」
……たしかに、ライムを別の生物として形にするには、それを再現しなくてはならない。
馬そのものの身体の構造にするのは、さすがに厳しいかもしれない。
「でも、今後の成長次第では不可能じゃない、でしょ?」
「その通りだ。ライムの潜在能力は相当なものだ。おぬしの成長に合わせて、ライムも、私達も力をつけていっている」
これからの頑張り次第だな。
色々な生き物に変形させることができれば、ライム単独で活動させることもできるだろうし。
まずは目の前のことをしっかりできるようにならなくちゃな。
「チサト、魔力を操るコツってある?」
『んー、フィーリング』
「天才かよ」
『最優ですから』
そうだった。
魔具越しでドヤ顔のチサトを思い浮かべながら、肩を落とす。
『ちょうど、近くに縄があったのでカイト君と同じことをしてみた』
「どうだった?」
『普通にできた』
「やばくない……?」
片手間であっさりと成功させているチサトに戦慄するしかない。
彼女の持つ大量の魔力で霞みがちだが、それだけの魔力を制御する技術も並外れている。
『私は魔力を自分の手としてイメージしているよ。このロープの場合は、手を添えるように魔力を動かしてロープの軌道を操っていくとやりやすいかも』
「なるほど……」
彼女の言葉通りに、投げた縄の先端に手を添えるイメージで魔力を操り、曲げさせる。
すると縄の端っこは空瓶へと掠るようにあたり倒れる。
「おお、できるようになった」
『ただ操ろうとするだけじゃ駄目。頭ごなしに動かそうとするんじゃなくて、イメージを添えて動かしてあげようとすることが大事なの』
「ありがとう。コツがつかめた気がする」
明日、もっと離れた距離で試してみよう。
この調子なら明日中にいけそうな気がする。
『私もこれ練習してみようかな。いざという時、使えそうだし』
「魔力の扱いが巧い君なら、わざわざロープを使う必要もないだろうしね」
『じゃあ、鞭とか……鉄球とか面白そう』
「僕が言うのもなんだけど、発想がバイオレンスすぎない……?」
鞭はともかくどこから鉄球なんて出てきたの?
普通に魔力弾飛ばされるよりえぐい気がするんだけど。
『水で操りながら、鉄球でぶん殴りたい』
「なにか嫌なことでもあったの……?」
『? そんなことないよ? ……あ、君達と会えないことが、私にとっての嫌なことかな?』
とってつけたような言葉じゃなければ、感動していたところだよ。
相変わらずな彼女に苦笑しながら、会話は続いていく。
しかし……鉄球は真面目に怖すぎると思うんだけどなぁ……。
水で高速で射出され、追尾してくる鉄球という地味にえぐい攻撃。
ナチュラルに天才肌のチサトでした。




