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第二百二十一話

第二百二十一話です。

 四日目。

 今日は、シーナさんの言っていた森の中の亀裂のある洞窟の下見に向かう。

 あくまで下見だけなので、洞窟へと降りるわけではないので、荷物も装備もそれほど本格的ではない。


「母さん、それなに?」

「お弁当よ」

「ピクニック……?」


 シーナさんもいつものエプロン姿ではなく、動きやすい服装だ。

 ただ持ち手のあるバスケットを持っているあたり、まるでピクニックにでも行くような服装ではある。


「さて、それほど遠くはありませんが道中は気を付けてくださいね?」

「はい」

「私達にとっては庭のよう」

「うんうん」


 まあ、二人は森を遊び場にしていたからそうなのだろう。

 納得していると、笑顔のままのシーナさんが得意げな二人をじろりと見る。


「森で遭難しかけたり、イノシシに追いかけられて半べそかいていたりしましたよね? しかも二人ともおも―――」

「ちょっと待ってごめんなさい母さんそれ以上はやめて!!」

「母さん、本当に私達の味方なの!?」


 慣れすぎるのも危険ということか。

 得意げな様子から一転して、大ダメージをもらっている二人を見て僕はそんなことを思う。


「おも……?」

「カイト、森キケン、油断絶対ダメ」

「お、おう?」


 なんか切実なものを感じたのでスルーしようか。

 面白いことになっていたとかそういう感じだろう。


「では、行きましょうか」

「はい!」

「「はい……」」


 それはともかくとしてまずは目的地に向かおう。

 家を出発して、森へと入りこんでいく。

 碌に人が通っていない道に進んでいくのか、徐々に木々の感覚が狭まっていくのを感じる。


「森は一種の迷路のようなものです。木々に囲まれた空間は認識を惑わし、私達の今いる場所すらもあやふやなものにさせてしまう」


 気づけば周囲は木々に囲まれ、足場は枯れ葉が敷き詰められている。

 シーナさんは、持っていたナイフで木の幹に目印を刻むと、こちらを見る。


「だからこそ、目印が必要です。例え範囲の狭い森であろうとも、迷えば命に関わります」

「なるほど……。自分の感覚だけを信じるのは危険ということですね?」

「その通りです。よくできました」


 僕の言葉に上機嫌に微笑んだシーナさんは、再び歩き始める。

 僕は先ほど教えられたことを忘れないように、懐からメモ帳を取り出す。


「カイト君、なにそれ」

「メモ帳だよ?」


 不思議そうにするニーアに僕はメモ帳を見せる。

 ここに教えられた内容を記すことで、思い出したいときに見ることができるのだ。


「命にかかわることだからね。それに今後の冒険者活動にも生かせそうだし」

「うむ、シーナ殿の教えはかなり実用的だからな。戦闘面での強化も重要ではあるが、あらゆる状況に対処できる対応力も必要だ」

「……なんだか、カイト君そのまま母さんみたいな感じになりそうで怖いよ」

「誰がママだ」

「いや、言ってないよ……?」


 しまった、反射的に返してしまった。

 そんなやり取りを交わしながら、さらに奥へ奥へと進んでいくと、小さな崖に行き当たる。


「前の雨で崩れちゃったのでしょうか?」


 深さはそれほどでもないが、落ちてしまえば怪我をしてしまうかもしれない。

 飛び越えるにしても、地盤が緩んでいたら着地の衝撃でそのまま下へ滑り落ちてしまう可能性もある。


「しょうがないですね。ここは迂回して―――」

「いえ、大丈夫です」

「はい?」


 迂回するにしても時間がかかりすぎる。

 僕は、水筒と胸ポケットから出したユランとライムに声をかける。


「ユラン、ライム、足場、いける?」

「キュー!」

「シャァ―!」

「よし、ならやろう」


 ライムを一旦籠手に変化させてから崖の端に拳を添える。

 そのまま魔力をライムに籠め―――その身体を大きくさせながら橋を作り出す。


「ユラン、補強と手すり」

「シャー!」


 その上でユランの魔力でライムを助けつつ、落ちないように手すりを作る。

 完成したちょっとした橋を目にしたシーナさんは、驚きの表情を浮かべている。


「カイト君、真面目に遺跡調査とか興味ないでしょ―――」

「母さん、早く行こう」

「うん、後がつかえているから」

 

 二人に押されて橋を進んでいくシーナさん。

 僕を含めた全員が渡り終えたところで、橋になってくれていたユランを戻す。


「もうすぐですよ」


 どうやら、ここからすぐ近くのようだ。

 先ほどのような崖もなく、足元の木の葉を踏みしめていくと―――不自然に木々のない空間に出る。

 太陽の光が差し込む場所には、地面に大きな亀裂が走っている。


「おお……」


 幻想的とも思える光景に、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

 ここが遺跡のある場所―――そう思っていると、その大きな亀裂のある場所に僕達以外の誰かがいることに気付く。


「……ん? 誰か、いますね?」

「そのようですね。……まさか、こんなところに誰かがいるなんて、珍しい……」


 シーナさんも驚いている。

 とりあえず、僕達も大きな亀裂の近くにまで移動すると、その人物の姿もこちらに気付く。


「……君達は、昨日の?」

「貴方は……宿を探していた」


 いたのは大きなリュックを背負った大柄な体の男性であった。

 昨日と変わらず眼鏡をかけた彼は、覗き込んでいた崖から離れる。

 すると、訝し気な様子で男性を見ていたシーナさんが、ふと思い出したように男性へと話しかける。


「もしかして、ラッセさん?」

「え……!?」

「ファーラ・ウルガルの娘、シーナです」


 そう言うと、ハッとしたような表情を浮かべる。

 もしかして、知り合いなのか?

 リーファとニーアが「誰?」って顔をしているけれども。


「二十年ぶりでしょうか? 全然老けてなくてびっくりしちゃいました」

「元から老け顔だからそう見えるだけさ! しかし、まさか君がここにいるなんて思いもしなかったよ! 大人になったね!」


 懐かしむようにそう口にする男性、ラッセさんは次にリーファとニーアを目にする。

 数秒ほど見た後に、シーナさんへと視線を戻すとその口元を引き攣らせる。


「も、もしかしてこの二人は……」

「はい。私の娘です」

「……えぇ、まさか、似ていると思ったけれど……嘘だろぉ……時間の流れを感じてしまうなぁ」


 驚きながらも感慨深げに、呟きラッセさん。

 彼は次に僕へと視線を向ける。


「そっちの子は?」

「この子も私の息子です」

「え!?」

「「母さん!?」」


 なぜか先ほどよりも驚くラッセさん。

 僕も驚いたが、これはシーナさんなりのジョークと察したので僕もそれに乗ることにする。


「どうも、カイト・ウルガルです」

「「カイト(君)!?」」


 悪ノリしたらいい反応が返って来てくれた。

 なにやら、無言でこちらを見るシーナさんは、すぐにいつもの笑みを浮かべてくれる。


「彼はラッセ・クーライさん。私にとっての先輩にあたる方で、大陸中の遺跡を調査しているすごい方なんですよ?」

「そ、そこまで大層なものじゃないさ。僕はそういうものを見て回るのが好きなだけの世捨て人さ。君達のような大きな功績を成し遂げたわけじゃない」


 世捨て人で大陸中を探検している。

 もうその時点でかっこいい。

 仕事道具って言っていたリュックもそのためのものだったのか。


「つまりは、未知への探求に人生を掛けるすごい人ということですか……!」

「いや、違うよ? そ、そんな尊敬されるようなことはしていなくてだね……」

「はじめまして、アリハラ・カイトです……!」

「ねえ、聞いてる?」


 困惑するラッセさんに手を差し出す。

 僕が差し出した手を躊躇するように見ていた彼だが、緊張した面持ちのまま登山用の手袋に包まれた手で握手を返してくれる。


「……こちらこそ、よろしく。アリハラ・カイト君」


 ぎこちなくではあるが優し気に微笑んだラッセさん。

 彼がどうしてここにいたのかは、まだ聞いていないけれど、恐らくここにある遺跡を調べに来たのだろう。

 もしかしたら、一緒に調査することもできるのかな?

(……)


冗談に乗ってしまった結果、シーナさんを真顔にさせる主人公でした。

こいつ今章で一番はっちゃけているのでは……?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「カイト君、真面目に遺跡調査とか興味ないでしょ―――」 誤字ではないんですが、これ 真剣に遺跡調査に興味持ってみないか って誘いとも 真面目にする気無いでしょ って呆れとも取れると…
[一言] カイト・ウルガル アリハラ・カイト カイト・アリハラって言った方が良かったんじゃ・・・ ・・・はっ! アリハラ・カイト・ウルガルって事だな!(錯乱
[一言] 真顔のシーナさん「今更吐いた唾は飲み込めねぇぞ...」とか思ってそう。冗談のままで済ませる気がないっすわ。後継者(探検家兼考古学者)として有望、娘達の相手ができる希少価値、性格◎...カイト…
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