第二百二十話
第二百二十話です。
港は中々にすごいことになっていた。
もう完全に観光地にするつもり満々の飾り付けっぷりだったし、木の板で作られた大魚のレプリカも人食いサメの出てくる映画の如く吊り下げられたりしてもう大変だった。
「くぅ、なんてことだ。ここでもみんなのお土産が売っているなんて」
中でも僕の使い魔達を人形にして売っていたのも驚いた。
在庫に元々あったのだろうか? 勇者であるリーファが生まれ育った町だから、彼女関係のお土産を推していただけだったのか、今日は僕の使い魔関係のお土産が売られてしまっていた。
「こんなもの、買わなくちゃいけないだろうが……!」
「いや、ほとんどヘンディル王国と変わらんではないか」
「ご当地に全然違うでしょ!?」
「なんで私は怒られたのだ……?」
片腕に抱えた使い魔ぬいぐるみシリーズを目にしながら、シフが引いた様子を見せる。
全てデフォルメ化された4体の使い魔達。
シフはゆるキャラみたいになっているし、ハクロはそもそも二本足で立っている。
使い魔達が受け入れられるのは嬉しいことでもあるが、
「まあ、僕はそんなに特徴があるわけでもないから、人形とかがないのはよかったな」
「なんで私はあるの……?」
「それはおぬし、見た目がいいからだろう」
シフの言葉にリーファは照れた様子を見せる。
すると、そのまま道を歩いている僕に振り返る。
「えへへ、カイト。私、かわいい?」
なるほど、これは褒めてもらいたいんだな。
少し微笑ましい気持ちになりながら、素直に褒めることにする。
「うん、シーナさん譲りだね」
「ぶん殴るよ?」
「なんで……?」
笑顔のまま物凄い力を籠めた拳を見せてくるリーファ。
どういうことだ……? 僕はなにを間違えたんだ……?
むくれるリーファに疑問に思っていると、不意に脳裏にひらめきが走る。
「———まさか」
あれか? かわいいって認められて欲しかったのか?
いや、さすがにそれを臆面もなく言うのはちょっと恥ずかしいんだけど。
「フッ、君も女の子というわけか」
「世間一般で機嫌を害して殴りかかろうとする女子はいない気がするぞ」
シフの言う通りではあるが、今回に関してはシーナさんの名前を出して褒めた僕が悪いのだろう。
「まったく、そんなこと一番近くにいる僕が分からないはずがないだろ?」
「え、う、うん」
「さあ、家も近くなってきたし行こう」
怒りは収めてくれたようなので、家に帰ろう。
少し歩くとシーナさんとニーアのいる家が見えてくる。
すると、家の前でになにやら棒のようなものを振るっているニーアの姿が見える。
「てい! ふん! やー!」
「なんか……微笑ましいね」
「子供の姿だからね……」
今のニーアは十二歳ほどの姿なので、棒を振るっているだけの姿は可愛らしいものである。
しかし、中身はリーファと同じ年頃なので経験と技術はそこなわれてなく振るわれる棒も鋭く、速い。
「やってるね、ニーア」
「……あ、帰ってきたんだ」
僕達に気付くと、ニーアは困ったように笑いながら木の棒を肩に乗せる。
「体が小さくなって、久しぶりに訓練をしてみたけどやっぱり子供の身体は勝手が違うね」
「うん。今はゴリラというより子ザルだね」
「そういうリーファは、駄犬だよね。カイト君、いつも困らせてるしー」
「「……」」
「喧嘩はやめなさい」
血走った目で睨み合う二人の間に立つ。
まったく、姉妹仲は悪くないのにどうして喧嘩するのだろうか。
「あ、カイト君。ちょっと手合わせしてくれない? やっぱり、この身体で人と手合わせしておかないと思うし」
「構わないよ。その前に荷物を置いてくるね」
ありがとー、という彼女の声を聞きながら家へと入る。
入ってすぐに探検道具と思われる道具を整備しているシーナさんと目があう。
「あら、おかえりなさい。カイト君」
「ただいまです。この後、庭の方でニーアと訓練しても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。……でも訓練ですか……それならロープを使ってみてはどうでしょうか?」
「午前に教えてもらった捕縛術のことですか?」
午前、ロープを投げて空き瓶を掴み取ること以外に、近接戦闘における捕縛術も教えてもらったんだよな。
「はい。カイト君、呑み込みが早いこともありますが、なにより実践した方が覚えやすいですから」
「分かりました」
「私も、見に行きますので、先に始めていただいても構いませんよ」
シーナさんに頷き、食材の入った手提げ袋をテーブルの上に置いた僕はそのまま外へと戻る。
外ではニーアが棒を持っており、いつでも始められるようだ。
リーファは……どうやら、観戦するつもりなのか木製の長椅子に座っている。
「皆、今回は手合わせだから僕だけの力でやる」
「うむ、ならばリーファのところから見ているぞ」
「キュー」
「シャー」
「ウォン!」
僕から離れた使い魔達がリーファの元に移動するのを見送りながら、家の壁に下げてあるロープを手にする。
「あれ? それを使うの?」
「シーナさんに勧められてね。……魔法は、なしでいいよね?」
「うん、てか肉体強化の君と戦うのは危ないし」
たしかにそうだ。
間違って子供状態のニーアに怪我でもさせたら大変だからな。
「じゃ、軽く始めよっか」
「ああ」
特に始まりの合図もなく、手合わせが始まる。
視線の先にいたニーアの姿が、一瞬にして掻き消え目の前に現れる。
「っ」
「小さいっていいね!」
姿勢を低くして全力で飛び出した。
ただそれだけのことだろうけど、それだけに虚を突かれた……!
突き出される木の棒。
その先を微かに目で追い、両手でゆるく持った縄を引っ掻け受け流す。
「ふんっ!」
「あれ!?」
ニーアの持っている木の棒が本物の剣だったら縄の方が切れてしまっていただろうが、今は違う。
斜め後ろに受け流された彼女に、縄を投げつけ捕縛を試みる。
「っとぉ!」
寸前で地面を蹴ったニーアがくるりと縦に一回転する形で縄を避ける。
「それ覚えたの昨日だよね……?」
「ああ、投げるのはまだまだ難しいけれど、こっちの方はいつもの戦い方とそこまで変わらないから……あとは、慣れだ」
「やっぱり、ライムっていう変幻自在武器を使っているテイマーは言うことが違うね!!」
木の棒を短く持ったニーアが再び攻撃を仕掛けてくる。
ロープ術の近接はこちらから攻撃せず、カウンターを狙う。
縄で攻撃を防御、いなし、体勢を崩した後に拘束する。
「ほらほらほら!」
「むっ……!」
しかし、ニーアもそれが分かっているのか、僕の周囲をちょろちょろと動き回りながら木の棒を振り回してくる。
本当に子ザルみたいな戦い方だな……!?
「———そこだっ!」
「わわっ!?」
上からの振り下ろし。
あえて前に踏み込みながら手元の部分に縄を引っ掻け、後ろに受け流す勢いで放り投げる。
「やっぱ、手強いなー。カイト君」
空中で態勢を整え、スタッ、と着地するニーア。
身体は小さくなっても、彼女の動きは十分に脅威的だ。
「母さんほどではないけど、よく使えるね」
「まだまだだよ。本当は疑似的にリングとか作って、プロレス技かましたいとか考えてたけど、道のりは遠そうだ」
「ん、んー? ごめん、私、今子供だからカイト君がなにいっているかわかんにゃい」
なにやら引かれてしまった。
まあ、今はロープ術の習得を優先させて、リングは後だな。
とにかく遺跡に向かうために少しでも習得しておかなければならない。
そのために今みたいな実戦を繰り返していこう。
戦闘中にロープでリング作り出す主人公を想像したら最高に意味が分からなくなりました。




