第二百十八話
第二百十八話です。
昼間は色々と騒がしかったけれど、その後は特に何事も起こらないで夜を迎えた。
夕食を終えた後、シーナさんから話があると言われ、居間に集まることになった。
「貴女達、二人に宿る力についてお話します」
「「!」」
座っているシーナさんの言葉にリーファとニーアが反応する。
シーナさんは、リーファとニーアの持つ力について知っているのか……?
「始まりは……そうですね。私の曾祖母の時代からでしょう」
「私達の、ひい、おばあちゃん?」
「ひいひいおばあちゃんだよ。リーファ 」
「そうなります。私達の家系は少しばかり特殊……というか変なところがありまして、未知を追い求めることに強い好奇心を持っていました。曾祖母も例外ではなく、私と同じようにいくつもの遺跡・文明の謎を解明してきた人物でした」
「えぇー、すごい」
「すごい家に生まれたんだね、私達」
歴史的に見てもすごい人だったのでは?
しかし、姉妹二人の反応は淡白そのものだ。
「そんな曾祖母の話は、母を通じて聞いてきました。遺跡に巣食う魔獣、呪われた海底遺跡、歴史に葬られた地下世界、後に曽祖父となる神獣・魔獣を探求する人間との出会いなど―――……カ、カイト君? ど、どうして泣いているんですか……?」
「先生師匠……!」
「せ、せんせいししょう……?」
もうすごすぎる……!
話を聞くだけでワクワクが止まらない。
伝記とかないかな……!? あったら、後でチサトに自慢しまくろう……!
そうだ、こういう時に魔具を使うべきだな。
「すみません、今魔具持ってくるので、そのお話を僕の友達にも聞かせてもらってもいいです―――」
「カイト、今、大事な話してるから静かにしてて。母さん、続きをお願い」
「友達? カイト君、その方は女の子ですか?」
「どんどん話が脱線する!? 母さん、その話は後でするから続きを話して!!」
やけに必死な様子のリーファに、不承不承といった様子でシーナさんが話を再開させる。
「コホン……おとぎ話みたいに聞かされた話の中で、異質な話があったのです」
異質な話?
濃厚すぎる話の中でさらに際立った話があったのか?
「ある遺跡の話です。曾祖母―――彼女は、冒険の末にその遺跡に辿り着いた。他の遺跡と比べてそれほど難しくなく、あっさり辿り着くことができたらしいけれど、結局彼女は遺跡の内部には入れなかった」
「どうして?」
「扉があったからです。どのような物質で作られているか分からない、扉が」
扉……遺跡への入り口となるそれが、往く手を遮っていたってことか。
でも、それだけじゃまた異質とも思えないな。
「彼女がその扉の前に立ったその時、扉から光り輝く何かが現れた。白と、黒の二つの光り輝く力の塊、それはひとりでに動き出し、彼女の身体に入りこんだ」
「入りこんだって……その後、どうなったの?」
「何事もなく、冒険の限りを尽くして余生を謳歌したらしいです」
「えぇ……」
色々と強くないですか……?
なんだか、そういうところはリーファとニーアに通ずるものがある気がする。
「そして、時代を経て曾祖母の身体に入りこんだ力は、貴方達の代で覚醒した……ということなのでしょう」
「……母さんは、どう思ったの? 生まれた時も、そのこんな耳とか生えてたし」
リーファが獣に似た耳に触れながらそう訊くと、シーナさんは苦笑する。
「不思議なものは沢山見てきましたし、それほど驚きはありませんでしたよ。むしろ双子だったことに一番びっくりしました」
「そう、なんだ……」
「むしろ、怨霊の呪いや呪われた財宝関係ではなくてよかったとすら思います。正直、貴女達の存在に気付く前は、夫と一緒に呪いだらけの地下迷宮で暴れまわっていたので……」
「母さん、少し危機感持った方がいいと思うよ!?」
「私達危うく呪われるところだった……!?」
「すげぇ、すげぇよ、シーナさん……!」
「カイトが壊れていく……」
呪いだらけの地下迷宮ってなんですか、凄すぎる。
「それに、貴方達が生まれる前、不思議な夢を見ましたし」
「夢?」
首を傾げるニーアに、シーナさんは紅茶を口にしてから言葉を発する。
「誰もいない玉座を守る、白と黒の獅子の夢です」
「「!?」」
「やはり心当たりがあるようですね?」
そ、そうなの?
困惑したままリーファを見ると、彼女は頷く。
どのタイミングで遭遇したんだ……? それとも別の形で接触したのか?
「彼が私に口にしたことは、今でも覚えています」
「なんて、言っていたんですか?」
「“すまない、人の子よ。我が力を授ける愚行を、許してくれ” ただそれだけの言葉でしたが、とても夢と切り捨てるにはありえないほど鮮明に記憶として残っています」
———リーファとニーアに力を与えた神獣は、何か思惑があった?
いや、そもそも人間に謝罪をする時点で、もしかしたら友好的な神獣なのかもしれない。
これは、もっと踏み込んで調べるべきなのかもしれない。
「今思えば、あの獅子こそが貴方達の持つ力の由来なのでしょう。そして、その遺跡に力の根源である神獣が眠っている」
「シーナさん、その遺跡はどこに?」
「あっちです」
斜め左方向にシーナさんが指を向ける。
……んん? 方向ではなく地名で教えてほしいのですが?
「曾祖母は、そのような不可思議な遺跡がある地に居を構えたんですよ。私も、その遺跡にも向かったこともありますし、実際に扉を見ています」
「そんな場所があるなんて知らなかった……」
「うん、ここらへんは走り回って、全部知っていると思っていたけど……」
リーファとニーアの言葉にシーナさんは苦笑する。
「貴女達はもう知っているはずですよ?」
「「え?」」
「森の中にある裂け目。あの下に遺跡の存在する洞穴があるんです。それなりの高さがあって普通に危ないので子供の頃の貴方達には近づかせないようにしていたんです」
「「えええー!?」」
なるほど、リーファとニーアが怒られたっていうあれがそうだったのか。
なら、僕達はあそこを調べなきゃいけないってことか。
「そろそろ、貴女達も自分の力の正体を知らなければならないでしょう」
「あそこに入ってもいいの?」
「ええ、もしかすると貴方達ならあの扉を開けるかもしれませんからね」
たしかに、神獣の力を持つ二人ならもしかしたら開けられるかもしれない。
……今後の方針が決まったってことでいいのかな?
すると、居住まいを正したシーナさんが僕達を見回した後に、言葉を発する。
「ですが、なんの知識もなしに遺跡に潜るのは危険なので、準備が必要です。なので―――」
「よろしくお願いします……!」
「私が……って、え?」
「探検におけるノウハウを教えていただけるんですよね……!」
「え、ええ?」
今後の冒険者活動や、従者として役立てるかもしれない。
なにより、そういう分野に興味があるので是非ともご教授願いたい……!
「リーファとニーアは?」
戸惑いながらシーナさんが二人に視線を向けると、リーファとニーアは嫌そうな顔する。
「カイトが覚えるならいいかな?」
「私もめんどいからいい」
「どうして、貴女達は、そんな……!」
「「あばばば!?」」
シーナさんが見事なアイアンクローを二人にかけている間に、僕は荷物の置いてある部屋からあるものを持ってくる。
手のひらサイズの小さな黒色の魔具をテーブルの上に置いた僕は、リーファとニーアを解放したシーナさんに話しかける。
「あら、カイト君、それは?」
「通信用の魔具です。僕の友達に、先ほどの話が好きそうな友達がいるので聞かせてあげたいなと思いまして」
「そうなんですか? その方はどのような方なんですか?」
さすがにいきなり知らない人に話を聞かせるわけにはいかないよな。
ここは彼女についてしっかりと教えておこう。
「彼女は、フィルゲン王国の勇者で、僕のもう一人の主です」
「女の子ですか?」
「はい? あ、名前はチサトっていいます」
首を傾げながら頷くと、シーナさんの目が一瞬だけ鷹のように鋭くなったように錯覚する。
「構いませんよ。魔具の魔力の方は大丈夫でしょうか?」
「はい。自慢ではありませんが、僕は優秀な魔力電池なので」
「それは自慢ではなく自虐だぞ、カイト……」
シフの鋭いツッコミを聞き流しながら、テーブルに座った僕は魔具に魔力を籠める。
慣れた手つきで魔具を作動させ、片割れである端末に通信を繋ぐ。
すると、数秒ほどリーン、という駆動音が鳴った後に、ガチャリと通信が繋がる。
『やっほ、カイト君。私の声が聞けなくて寂しかった? 君から連絡してくるなんて珍しいね。本当はこっちから連絡してもいいかなと思ったんだけど、あまりこっちから連絡しすぎるとなんだか面倒くさい人みたいだし、かといっていつまでも君からの連絡がこないとなにかあったか不安になったりするから、定期的にそういう生存報告くらいは欲しい。でも、君から電話してきてくれてすごく嬉しい好き』
「うん、そうだね」
ものすっごい早口で、最初しか何言っているか分からなかったけれど、元気そうでよかった。
ここ数日は忙しかったから、連絡も送れなかったからな。
なんだか、久しぶりに話す気分だ。
「君に紹介したい人がいるんだけど、構わないかな?」
『……え、す、スルー? い、いいけど……誰?』
なにやら動揺している彼女を気にしつつ、魔具のマイク部分をシーナさんへと向ける。
彼女は笑みを浮かべたまま、マイクへと言葉を発する。
「こんにちは」
『あ、こんにちは。……え、誰?』
「リーファの母です」
『……。……どういうこと!? カイト君!?』
そりゃ驚くよな、と思いながら、僕は混乱するチサトに、改めてシーナさんのことを紹介するのだった。
面倒くさい女、チサト。(声のみ)登場……!
ここ数日、魔具の前で連絡するかしないかの瀬戸際で悶々としていた彼女でした。




