第二百十四話
第二百十四話です。
ジーグ二リアは湖に面した町である。
綺麗な湖畔は、太陽の光を反射しこれでもかと町に彩りと、さわやかなイメージを与えてくれる。
改めていい町だと思う。
湖も綺麗だし、町も活気に満ちている。
「いい釣り日和だな、ニーア!」
「大きい声で名前呼ばないでくれない!?」
おっといけない、我ながらテンションを上げすぎてしまったようだ。
現在、僕はジーグ二リアの町の中にある港で釣りを行っていた。
隣にはシフを抱えたニーアが暇そうに足を投げ出している。
ここにいないリーファは家の方でシーナさんの家事を手伝っているので、ここにはいない。
「ふふふ、大きいのが釣れるといいな」
「カイト君、ずっとテンション高いね……」
この世界でまともに釣りができるようになったおかげで好きになれたといっても過言ではない。
船の出る場所の近くで釣りをしていいかということについてだが、事前にここで漁をしている漁師さんに、釣りをしてもいいか許可をいただいているのでぬかりはない。
しかし、その際に色々と気になることを訊いた。
「ここでは、釣り竿でまともなものは釣れない、か」
「まあ、そこまで有名な釣場でもないからね。ここで釣れなかったら素直に場所を移動した方がいいと思うよ?」
「穴場とか知らない?」
「ううん、そもそも釣りとかしたことないし。あ、でも川魚とか手づかみでとれるよ?」
それはそれですごいな。
僕もできないことはないけど、ニーアの場合は子供の頃からそれができていたのだろう。
「まあ、気長にやっていくよ。それに僕のする釣りは他とは違うし」
「キュー!」
釣り竿へと変化したライムが答える。
竿だけではなく、糸と針にあたる部分までライムの身体で構成されており、僕の手から流された純魔の魔力が釣り針から発せられ、力を持つ魚を引き寄せる。
「これぞ、純魔フィッシング……!」
「純魔の魔力をそんな使い方したのカイト君だけだと思う」
「うぅむ、カイトが楽しいのであればそれでいいが……」
いつもの湖なら入れ食い状態なのだが、さすがの広さ。
純魔の魔力で誘き寄せてもまだヒットしない。
これは、持久戦になりそうだ。
タノシイ……!
「———おい」
「……」
さあ、来い。
いつでもいいぞ。
水面に全神経を集中させる。
「おい、聞いてんのか!」
「……はい?」
突然、後ろから肩を掴まれる。
男の声―――その声に、少しだけ驚きながら振り返るとなぜか訝し気にこちらを見る、同い年ほどの少年たちがいる。
お世辞にも友好的とは言えない表情と金の髪。
それに、後ろには三人くらいいるけど……なんか、感じ悪いな。
さりげなくニーアに視線を送ると、彼女は「うへぇ」と言いそうな顔でフードを目深に被って顔を隠している。
「お前、誰だ」
「……旅行者ですけど?」
「こんなところでなにしてんだよ」
「なにって……」
やけに喧嘩腰だな。なにか気に障ることでもしてしまったのか……?
とりあえず、まだ水面に繋がっている釣り竿を見ながら首を傾げる。
「……釣り?」
「誰の許可を得て、やってんだ? ああ?」
「……そこにいる漁師さんだけど」
視線だけ向けると、船から荷を下ろしている男性がいる。
彼は僕の視線に気づくと笑顔を浮かべて手を振ってくれるが、近くにいる少年たちを見て嫌そうな顔をする。
その反応だけで目の前の彼らが、ここでどんな立ち位置にいるのかが分かる。
「悪いが、そりゃ駄目だ。よそ者にはここを使わせちゃならねぇんだ」
「……」
少年の言葉に取り巻きらしきメンバーも嫌味な笑みを浮かべている。
———うわ、面倒くせぇ。
地元寄生型のヤンキーって感じか。
面倒事はごめんなので、素直に釣り場所を移動するか。
まあ、そっちにまでついてきたら、こっちも相応の手段に出よう。
「ダッド、いつものあれを教えてやれよ」
「あ、そうだな」
素直に場所を変えようと、ライムを引き戻そうとするとまた肩を掴まれる、向きを変えられる。
……こいつらァ……!
いかん、ここで怒っては駄目だ。
必死に愛想笑いを作りながら、聞き手に回る。
「あんた、もしかしてここの勇者目当てでここに来たのか?」
「ん? まあ、そうだね」
「なら、いいことを教えてやるよ」
絶対いいことでもなんでもないだろ。
そんな確信をしながら、話に耳を傾ける。
「ここの勇者はな、化物なんだよ」
「————へぇ」
自分でも声が低くなるのが分かる。
堤防の縁に座ったままのニーアを見つつ、話しに集中する。
「獣人でも人間でもない化物。親が人間なのにさ、あいつら人間じゃない耳が生えているんだぜ? おかしいだろ?」
「そうかな? 魔物混じりって人もいるし、それほどおかしくないと思うけど」
「はぁ?」
僕の答えが気に入らないのか、今度は胸倉をつかんでくる。
ジャケットを。
僕の、ジャケットを。
乱暴に、掴みやがった。
―――だが、それでもなんとか平静を保つ。
「———まあいい、世間知らずなようだから教えてやるよ。そいつらはな凶暴なんだよ。平気で人を傷つける」
「なにかされたのかな?」
「ああ、そりゃもう酷い目にあったんだよ!」
大仰に手を振るうダッド。
その動きに何十回目か分からないいらだちを感じる。
「俺達はなにもしてないのに勇者の姉……まあ、今は犯罪者が突然襲い掛かってきて大怪我をさせられたんだ! うちも壊されたしさ! ほら、見てくれよ! まだここに傷跡があるだろ!?」
そう言って、袖をまくって見せられたのは腕にちょびっと残る傷跡であった。
前腕に薄っすらと刻まれた切り傷。
大……怪我? 全身の筋肉が千切れたり、骨がバキバキになったりとかじゃないの?
「酷いもんだろ!? なぁ?」
同意を求めるダッド。
心底呆れながらもとりあえず、頷いておく。
しかし、さっきこいつらは“いつもの”って言ったのか?
旅行者相手にこんな聞くに堪えない話を聞かせて、リーファの悪評を広めているのか?
……一応、ジェシカ様に報告しておくべきか?
こんなことで報告するのもアレかと思うけど、問題が大きくなってからじゃ遅いし。
「しかも、あいつら親無しだ」
その言葉を耳にした瞬間、僕は無意識に目の前の男を殴り飛ばそうとした。
一瞬で肉体強化を纏い、殴る体勢に入ってから我に返り、すぐに元の位置に戻る。
「……」
落ち着け、暴力は駄目だ。
自分の置かれている立場を忘れるな。
冷静になってから彼らを見ると、どうやら僕の動きを目で追えなかったようでニーアと使い魔以外の誰もが気付いていない。
だけど、今こいつ―――なんて言った?
ヘキル君と違って、改心する余地のないダッド君。
カイトが城に報告すると判断している時点で、割と崖っぷちに立っています。
その上、ぶち切れポイントを着々と稼いでいる模様。




