第二百十三話
第二百十三話です。
リーファの家の夕飯はすごかった。
二人がたくさん食べるからかその量も多く、メルクさんの料理とはまた違った家庭的な美味しさがあった。
その後は僕は街の宿にでも泊まろうと思ったのだが、シーナさんが家に泊まればいいといったことに驚いた。
さすがに悪いと思って断ろうとするも、謎の迫力で部屋に泊めてもらうことになった。
元々は、リーファ達の父親が使っていたという部屋を使わせてもらっているが……二人の父親はどうしているのだろうか?
あまり深い事情に首を突っ込まない方がいいと思い、あえて質問しないでおいたのだけど。
「———フッ!」
夜が過ぎた後、少し早起きをしてしまった僕はリーファの家の裏手で軽い訓練を行っていた。
裏手の庭はなんらかの作業場のように片付いていたので多少激しく動いでも大丈夫な広さがある。
「ライム」
「キュっ!」
手にあるのはライムが変身した曲刀。
弧を描くような刀身が印象的な剣を片手に持ち、回転を意識しながら振るう。
ヒュン、という風を斬る音を耳にしながら、数度それを繰り返し、構えを解く。
「よし、なら次はトンファーをやってみよう。形は覚えてるよね?」
「キュ!」
曲刀が、トンファーへと変わる。
籠手とあまり変わらないが、こちらはこの世界には無い武器。
籠手と同じ使い方ができ、その攻撃も相手に予測されにくい。
「映画でどんな風に扱うのか覚えてる……!」
「また、変な形状の武器だな。カイト」
「僕の世界でもちょっと珍しい形だよ」
近くの椅子でこちらを見ている、シフとユランとハクロに目を向けながら苦笑する。
できるかどうかは考えてない。
ライムの長所はあらゆる武器に変形することができること。
右手で軽く握ったトンファーを動かし、回してみる。
「たしか、こんな感じか」
握りを調節して、こいつを回転させて相手に不規則な打撃を与えられる、ようだ。
そもそものリーチが短いし、うまく扱えるかどうかは分からない。
木を前にして、軽く握ったトンファーを構え、裏拳の要領で腕を振るう。
「ッ」
ガツン、という音と共にトンファーの長い方の部分が遠心力に任せて木の幹に激突する。
それをさらに引き戻し、回転を生かしながら上から叩きつけるようにトンファーを叩きつける。
―――握りを調節し、回しながら攻撃へと転じる。
「難しいな……」
一朝一夕でできるはずがないのは分かっている。。
究めようとも思っていない。
戦闘の最中のつなぎとして応用できればそれでいい―――が、適当に使いこなそうとは思ってはいない。
「次」
握りに当たる部分から、棒の部分へと持ち替えハンマーのように振るってみる。
数度ふり、スナップさせる要領でもう一度握りの部分へと持ち替え、腰だめに構えたトンファーを前方へと放つ。
「———練習あるのみだな」
接触と共に先端を風と炎で炸裂すれば、かなりの威力になりそうだ。
まあ、それは籠手でも同じことができるけれども。
三節混の練習もしておかないとだし、剣とは違ってただ振るっているだけじゃ駄目だな。
「さて、次は生き物系でいってみるか?」
「キュー!」
「スライム闘法、鹿角固め、大蛇・銀蛇巻き、どっちにする?」
「か、カイト、なんだその技は?」
シフがやや声を震わせて聞いてくる。
そういえば、シフが眠っている時に考えた技だから知らないんだったね。
「神獣をモチーフにした技だよ。名前だけの拘束技だけども」
「おぬしは恐れというものを知らんのか!?」
「リオンさんならきっと笑って許してくれるし、メリアも気にしないと思うよ?」
「シャァー!」
ユランが同意するように一声鳴いてくれる。
まあ、技名に引用して怒りだすほど、神獣は心が狭くないだろう。
これには結構魔力を使ってしまうので、なるべく考えて試してみよう。
そう考え、籠手へと変えたライムを構えようとすると―――、この場に誰かが近づいてきていることに気付く。
「シーナさん?」
「早起きですね、カイト君」
「ええ、いつもよりちょっと早くに起きてしまいまして」
リーファとニーアの母親、シーナさんだ。
いつもこの時間帯に起きているのだろうか?
「あの子達、相変わらず朝は弱いようですね」
「ははは……」
家の方を見て僅かに肩を落とす彼女に、苦笑する。
そこで僕はシーナさんが、箱のようなものを持っていることに気付く。
「シーナさん、それは?」
「ああ、朝食を作るために畑から野菜をとってこようと思いまして」
「野菜?」
「ええ、大きくはありませんがうちで育てているんです」
野菜作りかぁ。
近くには家とかなかったし、一人で野菜を作っているのはすごいと思う。
「手伝います」
「え、いえ、大丈夫ですよ?」
「お世話になりっぱなしなのも悪いですし」
「うむ、それに私もシーナ殿の畑にも興味があるぞ」
ぴょん、と僕の肩に飛び乗ったシフもそう言ってくれる。
シーナさんは、僕達の言葉に呆気にとられながらも、頷いてくれる。
「そういうことなら……」
「ありがとうございます! じゃあ、皆、行こうか!」
「シャー」
「ウォン」
使い魔達をこちらに戻して、シーナさんについていく形で畑に向かう。
畑かぁ。
どんな野菜を育てているのだろう。
「息子に欲しい……」
「はい?」
「んんッ、いえ、なんでもありません」
口元に手を当てながらにこやかに笑うシーナさんに首を傾げる。
すると、僕と並ぶように歩く速度を落とした彼女が話しかけてくる。
「いえ、それより、噂通り貴方は変わった戦い方をするテイマーのようですね」
「見ていたんですか?」
「少しだけですけどね。私から見ても、非常に興味深いものでした」
「は、はは、自覚はあります」
多分、こんな戦い方をしているテイマーは僕だけだろう。
シーナさんの視線が水筒に入りこんでいるライムへと向けられる。
「ミスリルスライム。普通のスライムが、ミスリルを取り込んだことで変質する個体……実物で見るのは私も初めてですね……」
「ライムっていいます」
「キュ!」
水筒から頭を出したライムがぺこりとお辞儀をする。
そんなライムに微笑まし気に笑いながら、彼女は続けて話しかけてくる。
「ミスリルスライムは変質したとしてもすぐに同族や別の魔物に淘汰されてしまったり、お金目当ての者に売られてしまうことが多いんです」
「……そうなんですか?」
「はい。なにせ、希少価値で言えば魔物の中でも上位に位置する種でありますから」
そうなのか? と思いを籠めて水筒のライムを見ると、この子も不思議そうに首を傾げている。
シフは、思考に耽るように前足に顎を乗せている。
かわいい。
「その理由としては、ただスライムにミスリルを食べさせるだけでは、ミスリルスライムにすることはほぼ不可能だからですね」
「なぜですか?」
「ミスリルスライムは、自然にできた魔力を持つミスリルを食べさせることが条件だからです」
自然にできた魔力を持つミスリル……?
ただのミスリルではないのか?
「そうか……! だからミスリルスライムは人工的には作り出すことがほぼ不可能なのだな……!」
「シフ、どういうこと?」
「ミスリルは、ただでさえ高価でそこそこ希少価値のある金属だ。だがな、加工される以前から魔力を持っているミスリルは、希少どころの話ではない」
ということは、ミスリルスライム自体、そう簡単に出てこない魔物ということか?
だってそんな貴重なミスリル誰も放っておくはずがないし、何よりそれがどう巡ってスライムが取り込むことが奇跡みたいなことだ。
「シフくんの言うとおり、魔力を持つミスリル金属はそうそう市場には出回らない。主に国依頼された名のある職人により加工されることが多いわ」
「加工……というと?」
「そうねぇ……主に宝剣や、特殊な力を持つ魔剣などになるのでしょう。他にもあるけれど、各国の文献にはそういうものに使われているって記されているし」
文献……?
なにげにものすごいことを呟いていたような気がする。
「一つ、言えることは、この子、ライムちゃんは自然発生した魔力を持つミスリルか、加工された魔剣のどちらかを取り込んだことでミスリルスライムになったということですね」
「ライム、知ってたけど、君はやっぱりすごいやつみたいだ」
「キュ♪」
上機嫌に身体を揺らすライム。
やっぱり、シフと同じで最初から一緒に戦ってきた相棒だ。
「さて、つきました」
「おお……」
家から少し離れた場所に、そこそこ大きな畑があった。
それぞれ別の野菜を並行して育てているのか、色とりどりの野菜が実っている。
「それじゃあ、カイト君はそこの身が赤い方をお願いね。野菜を傷つけないように、茎のちょっと上の部分を切ってください」
「了解しました!」
シーナさんに指示を受けながら、渡されたはさみでちょきんと切る。
四回ほどそれを繰り返し、次の野菜も含めて朝食分の野菜を取った後は、それを籠にいれて家へと持ちかえるべく持ち上げる。
「手伝ってくれてありがとうございます」
「いえいえ、作ってくれるのはシーナさんですし。僕にはこれぐらいしかできませんから」
泊めてもらっているのだから、せめて手伝わなければ。
厚意に甘えてばかりではいられない。
―――それはそうと、やっぱりどうしてシーナさんがミスリルやスライムについて詳しいのかが気になる。
普通に訊いてみるか……?
「さっきの話なんですか、シーナさんはどうしてミスリルとか、魔物とかにそんなに詳しいんですか?」
かなりあやふやな質問になってしまった。
しまったと思いながら隣を見ると、彼女は困ったように笑いながらこちらを見る。
「実は私、遺跡とかそういう場所を調査したりする仕事をしてたのです」
「それが、昨日言っていた冒険者まがいの仕事、なんですか?」
「ええ、危険の付き纏うこともあってそれなりの実力を要求されましたから」
なるほど、だからミスリル――鉱物や、魔物について詳しいんだな。
それはそうとロマンのある仕事だ。
「古代文明の歴史とかそういうものに嗜んでいて、自分の足でそういう調査に行くのが好きだったんです」
「つまり考古学者……?」
「学者というほどではありませんが、負けないくらいの知識があることは自負していますよ?」
……。
「かっこいいですね……!」
「え、と、そ、そうかしら? そういう前向きな反応をされるとは思いませんでした」
全てに得心がいった。
あのロープ術も、過酷な冒険を生き抜くための術だったというわけか……!
「シーナさん」
「はい?」
「師匠って呼んでいいですか」
「どうして……?」
「すまない、本当にすまない。カイトは時々おバカになるのだ」
今からロープ術を教わるのが楽しみになってきた。
さらに上機嫌になりながら、僕は野菜のつめられた箱を抱えながら家へと向かうのであった。
(メリアの好感度が上がった!)
ライムの情報を開示。
カイト、召喚直後にライムと遭遇したことにより運を使い切った疑惑。




