閑話 娘が連れてきたのは
今回はシーナ視点の閑話となります。
正直な話、リーファの従者はヘンディル王国の女王様が選んだ者があてがわれると思っていた。
なにせ、あの子が勇者として召喚された時期は、戦いの意思を持っただけで自身の内の魔の力が暴れようとするじゃじゃ馬だった時だ。
ニーアが暴走し失踪した後での、勇者召喚だったので柄にもなく私は慌てた。
あの状態のリーファがまともに勇者として活動できるのか分からなかったからだ。
ニーアのように、人を傷つけてしまわないか、それがあの子の心に癒えない傷を残してしまわないか、とても……心配だった。
でも、それは杞憂に終わった。
あの子に正式な従者につく者が現れたのだ。
その従者の名は、アリハラ・カイト。
今、娘二人とこの家にやってきた少年である。
勿論、彼がリーファの従者になったことはあらかじめ知っていた。
というより、ヘンディル王国女王、ジェシカ様から保護者である私に定期的に、報告という名の文が送られてきているのだ。
リーファが文の一つも寄越さないのは、本当にどうかと思うが、ジェシカ様の厚意はこちらにとって本当にありがたいものだった。
その際に、当然カイト君の人となりは聞いていた。
勇者として選ばれた娘の相棒となった少年。
異世界からやってきたという不思議な経歴を持っていることに加え、純魔の魔力の力でリーファの力を鎮静化させ、今では“良い主従関係”を結んでいること。
そんな彼を見た時の、最初の印象はどこにでもいる少年だな、と思った。
しかし、彼と話せば話すほど、リーファの従者を務めるだけの異常さがよく理解できた。
―――この子を逃したら、もう次はない。
母としての直感がそう告げている。
礼儀も正しい。
こちらの話にしっかりと受け答えしてくれる。
そして、使い魔に慕われている。
ここが地味に重要だ。
テイマーはある意味で善悪が分かりやすい。
使い魔を雑に扱い、その入れ替わりが激しい者は当然、使い魔に慕われることはない。
むしろ、主が窮地に陥ったら即座に裏切ることもあるほどだ。
だが、彼と使い魔達の信頼関係は私がこれまで見てきたテイマー達の中でも上位に位置するほど高い。
最早、人となりを確認するまでもなく彼は善性な人物であることは分かり切っているのだ。
だからこそ、リーファは彼を逃しちゃいけない……のだが、
「母さん、分かった? さっきのカイトの返答は誤解なの」
当の本人は危機感を全く持っていないのが問題だ。
本当に、この子は分かっていないのだろうか?
「ええ、貴女が今の状況に甘んじているということは分かりました」
「あれ?」
さきほどの話し合いから少し経ち、今居間にいるのは娘二人と私しかいない。
話の中心であるカイト君は、私達に気を遣ってくれたのか、「なにかお手伝いできることはありませんか?」と提案し、そのまま使い魔達とともに薪割りをしにいってくれた。
……。
信じられないくらいできた子だ。
誤解とか関係なしに、この子のことをもらってくれないだろうか。
いっそのことニーアもまとめても構わないとすら思える。
「さっきの会話で大体分かりました。彼は貴女達を異性とすらみていません」
「はい? いやいや、そんなわけないよ」
「うんうん、私達、母さん譲りの美人だし」
「よく聞きなさい、バカ娘ども」
ここぞとばかりに同時に首を縦に振るリーファとニーアの顔を鷲掴みにする。
「「ぐぉぉぉ!?」」
悲鳴を上げてもがく二人に力を緩めないまま、話を続ける。
彼のリーファ達への認識は良くて仲間、悪くてペットだ。
いや、ペットという言い方は当てはまらないが、仲間として信頼しているがそういう目ですら見ていないというのが正しいだろう。
カイト君に落ち度はない。
むしろ、散々やらかしているこの子達を嫌わず、まだ普通に接してくれる時点で有情だろう。
「常人の魅力レベルを50としましょう。高ければ高いほど人として常識のある魅力のある人間で、低ければ低いほど人間としてダメダメで魅力のない人間ということになります」
「私は70くらいだね」
「あ、じゃあ私は90くらいだねっ」
「貴女達は0以下です」
「「1すらないの!?」」
自覚がないというのはこれほど恐ろしいことはない。
魔物としての力が影響しているのかもしれないが、色々と残念なのだ。
「か、母さんの教育が悪い!」
「そ、そーだ! そーだ!」
たしかに私の教育に問題があったことも認める。
しかし、私はなんの理由もなく、二人に理不尽な仕打ちをしたことは一度もない。
それだけは、絶対に断言できる。
「料理を教えようとした時も、掃除をさせようとした時も、二人で逃げ出しましたよね?」
「「……ぎくっ」」
「折角、私が作った服もすぐに汚して破いたり、時間をかけて作ったおやつにもとうがらしを混ぜましたよね?」
「「……」」
「貴女達が無計画に拾ってきた虫が家の中に大量に繁殖したこともありましたよね」
「「……」」
「村の方に迷惑をかけた時も、私が謝りにいきました」
「「……」」
「まだまだありますが、他になにかいいたいことは?」
「「ごめんなさい……」」
謝れるだけの良心があるならいい。
根にもっているわけではないけど、そういうことを忘れさせるのはあまりよくはない。
私が怒るのは、貴女達が人を傷つけた時や、危険なことをしたとき。
そして、心配をかけさせた時だ。
「ここに滞在している間、あなた達は少し自分を見つめなおす必要があるようですね」
「え、なにするの……?」
本来ならば、強硬手段に出る選択肢もある。
だけど、カイト君普通にいい子だしそういう思いはさせたくない。
「説教、といいたいところですが、ここは貴女達の家です」
目の前にいるリーファとニーアの頭に手を置く。
ニーアはこれまでの罪で子供の姿にさせられ、背が小さくなっているがそれでも私にとっては見慣れた姿だ。
「おかえりなさい。色々と言いたいことも怒りたいこともありますが、貴方達二人の姿をこうして見ることができて、とても嬉しいです」
「母さん……」
「……っ」
ぱぁぁ、と顔を明るくさせるリーファと、いたたまれないように口を噤んでしまうニーア。
そう、私にとってこの場に二人が揃って帰ってきてくれている時点で奇跡のようなものなのだ。
リーファはともかく、ニーアはもう二度と会えないかもしれないという覚悟はしていた。
だが、今目の前にちゃんといてくれている。
「さあ、そろそろ夕飯の準備でもしましょうか。リーファ、カイト君を呼んできてください」
「ん、分かった」
小走りで扉から出ていくリーファを見送った後にニーアを見る。
なにか言いたげな様子だが、今はまだ無理に話す必要はない。
「ニーア、手伝ってくれますか?」
「……うん」
こくりと頷いたニーアに笑みを浮かべ、エプロンを着る。
我ながら、娘二人が帰ってきてくれた状況に浮かれているのかもしれない。
だけど、それもいいだろう。
なにせ、この際もう二度とないと思っていた家族の団欒を取り戻せるのだから。
「……さて、どうやってカイト君をうちに引き込むべきか……」
それはともかくとして、彼は絶対に逃がしてはいけない。
一週間も時間はあるが、その間に彼にこの場所への好感度を稼いでおかなければ……!
その頃、薪割をしていたカイトは斧を振り上げながら「ぬぅん!」していました。
ジェシカから勇者関係とか諸々伝えているので、ある程度は把握しているシーナさん。
さすがに神獣に関することは伝えられていません。




